あなたに役立つ映画・ドラマのプラスαがあるメディア「シネマズプラス」

©cinemas PLUS Committee. All Right Reserved.

2020-07-20

コラム

『悪人伝』はマ・ドンソクの"優しさ"を愛でるための映画!魅力満載な「3つ」の見どころ



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



第16回:『悪人伝』

Amazonプライム・ビデオで配信中の作品から、毎回オススメの韓国映画をご紹介している、この連載。

今回はいつもと趣向を変えて、7月17日から公開中の新作映画『悪人伝』をご紹介します。

今や大人気の韓国俳優マ・ドンソクがヤクザの組長を演じ、刑事と共闘しながら自分を刺した連続殺人鬼を追うというストーリーには、鑑賞前から期待感しかないのですが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


凶暴なヤクザの組長チャン・ドンス(マ・ドンソク)が、ある夜、何者かにめった刺しにされ重傷を負う。奇跡的に一命をとりとめたドンスは、対立する組織の仕業を疑い、手下を使い犯人探しに動き出す。
事件の捜査にあたるのは、暴力的な手段も辞さない荒くれ者のチョン刑事(キム・ムヨル)。過去の事件の手口との共通性から、連続無差別殺人鬼によるものであると確信したチョン刑事は、犯人への手がかりを求めてドンスにつきまとう。
互いに敵意を剥き出しにしながら自らの手で犯人を捕らえようとするドンスとチョン刑事。しかし狡猾な殺人鬼を出し抜くためには、お互いの情報が必要であると悟った二人は、いつしか共闘し犯人を追い詰めてゆくのだが…。


予告編




見どころ1:極悪組長と暴力刑事の最強チーム!



ある夜に発生した、前方を走る車にわざと追突し、相手が出てきたところを背中から刃物でめった刺しにする凶悪な殺人事件。単なる強盗目的の犯行と思われたこの事件と、過去に起きた2件の殺人事件との関連性に気付いたチョン刑事は、この同一犯による連続殺人は繰り返されると主張するのですが、周囲からは全く相手にされません。

警察も解決への手がかりを見つけられない中、チョン刑事の推理通りに再び同じ手口で犯人は犯行に及ぶのですが、何と選んだ相手が凶悪なヤクザのボスであるドンス!



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



彼の車に残った追突の痕跡から、例の連続殺人鬼の犯行と確信したチョン刑事は、刺した犯人が連続殺人鬼で異常者であることをドンスに伝えます。

この事件で犯人を撃退しながらも重傷を負ったドンスですが、このままでは裏社会での面子が丸つぶれとなってしまうため、敵対するサンドの指示による襲撃と思って報復に出ようとする部下たちを抑え、警察の事情聴取にも「道で転んだだけ」と答えるのです。

誰でも無差別に襲う連続殺人鬼を喰い止めたいチョン刑事と、台無しにされた裏社会での面子を守るために、犯人を自分の手で捕まえなければならないドンス。

こうして見事に利害関係の一致した二人は、犯人逮捕のために異色のチームを結成!



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



刑事が先に見つければ法で裁き、悪人が見つければ復讐のために抹殺する。お互いに協定を守り犯人の情報を共有する二人ですが、犯人が乗り捨てた車を確保したドンスが、車の遺留品や痕跡を調べるために警察の科学捜査を利用するなど、表面上は共闘しながらも悪党のドンスの方が一枚上手という、正に日本版タイトルに嘘のない展開が待っているのです。

極悪組長と暴力刑事。お互いのプロ意識と面子を賭けた対立の末に、この二人が取った選択とは?

目撃者であるドンスをつけ狙う凶悪な連続殺人鬼に対し、刑事とヤクザ、それぞれの立場から見事な落とし前をつけてくれるラストの痛快さを、ぜひ劇場でご確認頂ければと思います。

見どころ2:最強の組長を翻弄する犯人像!



映画の冒頭でチョン刑事が言う、「覆面パトカーがサイレンを鳴らしていても誰も振り返らないほど、人のことに興味がない連中ばかり。ひどい世の中だよ」のセリフが象徴する通り、他者への無関心に満ちた社会が生み出したような犯人像や、その犯行の手口が非常にリアルに感じられる本作。

実はこの映画のカギは、レスラー並みの巨体で無敵に見えるドンスに重傷を負わせる犯人像を、どのように設定するか? この一点にあると言えます。

例えば、同じような体型で互角に戦えるような犯人であれば、意外性の薄い肉弾アクションになってしまいますし、逆に細身で神経質そうなキャラクターでは、相手を襲っても返り討ちになってしまいそうで、ドンスに瀕死の重傷を負わせる展開に説得力が欠けてしまうからです。



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



その点、本作では、序盤でドンスの凶暴性と仕事に対するプロ意識の高さを描くことで、「確かにこの男なら、一般人に対してそう行動するかも?」、そう観客に納得させてくれるのは見事!

細身で普通の犯人が、どうやってドンスに瀕死の重傷を負わせることができたのか?

事件の発端となる襲撃シーンの意表を突く展開は、ぜひご自分の目でご確認頂きたいのですが、マ・ドンソクが持つ"実はいい人"というイメージを利用した上手い演出と言えるでしょう。

加えて、一見自分よりも弱そうな男に瀕死の重傷を負わされることで、裏社会での立場と自分の面子を守るために、刑事と手を組んで犯人を追うドンスの行動にも説得力が生まれることになるのです。

もう一つ注目したいのは、早い段階から犯人の顔やその正体が明らかになる点でしょう。

確かに、犯人探しのミステリー要素は失われるのですが、犯人の外見が観客に知らされることで、執拗にドンスをつけ狙う犯人の行動に観客が先に気付くという、新たなサスペンス効果が生まれることになるのです。



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



加えて、警察が連続殺人事件としてマスコミ報道に踏み切ったことで、次第に追い詰められていく犯人が、犯行を重ねながらドンスの命を狙って罠を仕掛けてくる展開は見事!

例えば、ヤクザ組織の酒宴にいつの間にか潜り込んでいたり、注意して観るとバスの後部座席に犯人らしき人物が乗っているなど、ドンスに迫る犯人の得体の知れない不気味さや、後半のドンスと犯人の直接対決への期待が高まることになるのです。

警察とヤクザ双方の追跡を逃れながら、常にドンスの一歩先で罠を仕掛ける狡猾な犯人ですが、連続殺人事件とは無関係に思われた誘拐事件によって、遂に犯人の身元が特定されることに。

実は犯人の背景や動機について、本編中では明確な説明はされていないのですが、警察が踏み込んだ犯人の部屋の様子だけで、その孤独さと異常性が観客に伝わる点も実に上手いのです。

ちなみに、本作で強烈な印象を残す謎の殺人鬼を演じたキム・ソンギュは、現在Netflixでシーズン2まで配信中の話題の韓国ドラマ『キングダム』にも出演しているので、気になった方はぜひチェックして頂ければと思います。

見どころ3:マ・ドンソクの魅力が満載!



本作の最大の見どころは、やはり凶悪な組長ドンスを演じるマ・ドンソクの存在! これに尽きると言えます。

ドンスがサンドバッグを叩いている冒頭のシーンだけで、この男の強さが十分伝わるのですが、単なるボクシングの練習と思わせて実は? という意表を突く展開は見事!

「この男に手を出すとヤバい!」、観客にそう思わせる描写が序盤に用意されることで、その後のドンスが重傷を負う展開への意外性や、彼が味わった屈辱の大きさが、より強調される効果を生む点も実に上手いのです。



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



もちろん、こうした極悪組長としての姿だけでなく、マ・ドンソク本人から受ける"実は優しい人"のイメージが随所に盛り込まれている点も、本作の大きな魅力となっています。

例えば、いきなり追突してきた犯人に対する意外な反応や、傘がなくて雨に濡れている女子学生に自分の傘を渡し、「勉強、頑張れよ」と一声かけるドンスの優しさには「やっぱり、マ・ドンソクっていい人!」、多くのファンがそう思わずにはいられないはず。

加えて、次第に凶暴性を増す犯人によって犠牲者が増えていく中、この女子学生へのドンスの優しさが"ある悲劇"へと繋がり、ついにヤクザと警察が心を一つにして犯人を追い詰める展開は必見!

無礼な奴の歯を素手で抜くのは序の口で、抜いた歯をグラスに入れた酒を相手に飲ませるところまでが、マ・ドンソク流。

更に、連続殺人鬼に襲われ重傷を負いながら、しっかり犯人の車種とナンバーを覚えていたり、スマホで電話しながら片手でチョン刑事を片付けるなど、悪人とヒーロー両方の魅力を持つドンスの凄さが堪能できる、この『悪人伝』。

マ・ドンソクが"いい人"であることを再確認できる素晴らしい作品なので、全力でオススメします!



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



最後に



前半の連続殺人鬼をめぐるサスペンスから、徐々に正反対な二人のバディものへと変化していく展開が素晴らしい、この『悪人伝』。



©2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.



お互いの利害が一致したことで、本来は敵対関係にある二人が最強のコンビを組んで犯人を追うのですが、協力して捜査にあたる中、次第にヤクザと警察の間に奇妙な連帯感が生まれるなど、悪人という存在の意味とその境界線について考えさせられる点も、実に上手いのです。

特に注目して頂きたいのが、ドンスから酒を注がれたチョン刑事が、無意識に目上の人に酒を勧められた時の飲み方をやってしまうシーン。この何気ない描写だけで、二人の間に生まれた連帯感や信頼を観客に理解させる演出は見事!

ドンスが悪人ならではの方法で犯人に鉄槌をくらわすラストには、どうしても続編を期待せずにはいられないのですが、最後まで犯人の背景や動機がはっきりしないため、全てに説明や決着がつかないとスッキリしないという方には少々疑問や不満が残るかも? そう思えたのも事実。

ただ、あえて犯人像を掘り下げないことで、体格的に勝るドンスをつけ狙う犯人の異常性と不気味さが際立つ点や、決して安易な友情ものに終わらせず、法を守る側と裏社会の規律で行動する二人の対立と、それぞれの答えを描く内容に仕上げた点は、本作成功の大きな要因と言えるのです。

ただ、ドンスに罪を起こさせないために取ったチョン刑事の行動は、後から考えると「さすがにやり過ぎでは?」と思われるのですが、これがすんなり受け入れられてしまうのも、やはりマ・ドンソクの肉体と圧倒的な存在感があればこそ。

梅雨の長雨のストレスを一気に解消してくれる痛快アクション映画なので、この機会にぜひご鑑賞頂ければと思います。

(文:滝口アキラ)