映画コラム
『サンドラの小さな家』レビュー:愛娘たちのために自ら家を建てるシングルマザーの決意
『サンドラの小さな家』レビュー:愛娘たちのために自ら家を建てるシングルマザーの決意
ふたりの幼い娘を連れてDV夫のもとから逃れた母サンドラが、家族で生きていくための術として自ら(本作の原題は“HERSELF”)小さな家を建てようとする姿を描いたイギリス=アイルランド合作のヒューマンホームドラマ。
主演のクレア・ダンが脚本も担い、『マンマ・ミーア』で世界的大ヒットを飛ばしたフィリダ・ロイド監督がメガホンを取っています。
この両者、かつて女性だけで演じるシェークスピア劇という実験的試みに挑戦した監督と出演者のコンビで、女性や貧困などの問題にクリエイティヴに対峙し続ける才人でもあります。
ここでは夫の暴力問題はもとより、シングルマザーに対する社会的ケアの失陥などにも目を向けつつ、その上で家族の生活を護るために家を建てようとする母親の生きざまと、それに賛同する仲間たちの連帯などが、真摯なさわやかさを伴いながら描出されていきます。
一方でどうしようもないのがDV夫で、とかく男というものは一度暴力を肯定する姿勢を保ち始めると、もうエスカレートしていくのみか? といった、本当に忸怩たる想いに捉われれしまいます。
社会そのものの弱者に対する冷たい仕打ちの数々にしても、どこの国も結局は似たり寄ったりなのかと溜息をついてしまいそうな瞬間も多々ありますが、それでも理解してくれる仲間さえ見つかれば、そこを打破する道も見つかるかもしれない。
本作はあくまでもそういった希望を軸にドラマをてんかいさせてくれているのが妙味ともいえるでしょう。
我が子が読む絵本をヒントに家を建てることを思いつくという寓話性から導かれるリアルの描出も、この作品の根幹を成しているといっても過言ではなく、ネタバレこそできないものの圧巻のクライマックスにまでそれは巧みに持続していきます。
余談ですが、いよいよ家作りを始めるという初日、庭に鍬を入れてから始めるという、ささやかな儀式が行われます。国の内外を問わず、家を建てるというのはやはり家族を護るための神聖な行為なのだなと、改めて思わされました。
(文:増當竜也)
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