『ザ・スイッチ』だけではないブラムハウス作品『ザ・ヴィジル~夜伽~』の恐怖!
気弱でさえない女子高生と中年の連続殺人鬼の魂が入れ替わってしまったことから始まるホラー映画『ザ・スイッチ』が2021年4月9日より公開となりました。
製作は、低予算ながらもハイレベルな作品を次々と生み出しながらハリウッドを席捲中のブラムハウス・プロダクションズ。
2000年にジェイソン・ブラムが設立した同社は『パラノーマル・アクティビティ』(07)『インシアディアス』(10)『フッテージ』(12)『ゲットアウト』(17/アカデミー賞脚本賞受賞)などのホラー&サスペンス作品を量産しつつ、実は『セッション』(14)『ブラック・クランズマン』(18/アカデミー賞脚色賞受賞)といったアカデミー賞作品賞候補になるドラマ映画まで幅広い創作活動を続けています。
日本でも『ハッピー・デス・デイ』2部作(17・19)が映画ファンの間で大いに話題になったばかり。
今回はそんなブラムハウス製作作品の中から2019年度のオカルトホラー映画『ザ・ヴィジル~夜伽~』をご紹介!
死人の棺を一晩見守る
若者の恐怖体験
『ザ・ヴィジル~夜伽~』はオカルトホラーにユダヤ教やホロコーストの歴史を組み合わせて作られた異色作です。
主人公は、ブルックリンのユダヤ教超正統派コミュニティを離れ、普通の生活になじもうとしている若者ヤコブ・ローネン(デイヴ・デイヴィス)。
しかし家賃の支払いに困る彼は、およそ5時間にわたるヴィジルを400ドルの報酬で引き受けることになりました。
ヴィジル(夜伽)とは、死んだ人の遺体を一晩見守るユダヤ教の通夜の慣習です。
ヴィジルは遺族が行うのが通例なのですが、今回の遺体の老人リトヴァクの妻は、病弱の上にアルツハイマーを患っているようなのです。
ヤコブは老未亡人とともに一晩を暗い部屋の中で過ごさねばなりません。
未亡人は何かに脅えている様子です。
そしてヤコブもまた、自分が恐るべき存在と対峙していることに気づかされていくのでした……。
闇の「記憶」がもたらす
トラウマからの脱却
日本にも夜通し故人に寄り添う「寝ずの番」といった儀式がありますが、ユダヤ教にも似たものがあるようで、死というものに対する生者の行いは万国似たり寄ったりのようです。
本作はそんな儀式をモチーフにしたオカルト・ホラーではありますが、同時に主人公の心のトラウマを解き明かす心理サスペンス映画としても機能しています。
なぜ彼は信仰を捨てたのか?
本作は「記憶」をキーポイントにしながら、彼のトラウマと不可思議なヴィジルの一夜をリンクさせていきます。
未亡人の存在もキーポイントで、本当にアルツハイマーなのか否かも含めて、彼女が放つ謎めいた一言一言が作品の幻惑性をさらに高めることに貢献してくれています。
ホロコーストがもたらした大いなる闇の「記憶」もまた本作の裏モチーフに成り得ていて、今回はオカルトの形でそれを具現化していますが、いずれにしてもあの惨劇を忘れてはならないという作り手側のメッセージは真摯に受け止めておくべきでしょう。
出色なのは撮影監督ザック・クーパースタインが設計した数々の映像センスで、ただでさえ不気味に思える遺体が安置された部屋の中が、夜の闇を基調にしながらかすかな灯りやその点滅などで一層恐怖を際立たせていきます。
(かなり映画館の暗闇を意識した映像設計なので、ご自宅でご覧になる際はなるべく周囲の光を遮断して鑑賞されるのをお勧めします)
新鋭キース・トーマス監督の演出は、スマホを用いた描出の数々など、じわじわと恐怖を増大させていくあたりが妙味。次回作が楽しみな存在として期待したいところ。
総じて静謐でこけおどし的な派手さのない作品ではありますが、その分通好みの作品ともいえるでしょう。
それにしてもブラムハウス、これからも目が離せない製作プロダクションではありますね。
(文:増當竜也)
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