映画コラム

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2021年04月27日

Netflix『これからの人生』レビュー:ソフィア・ローレンの魅力を最大限に引き出した監督の正体とは

Netflix『これからの人生』レビュー:ソフィア・ローレンの魅力を最大限に引き出した監督の正体とは

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。

79回目の更新、今回もよろしくお願いいたします。

東京は、3度目の緊急事態宣言が発出されました。そのため多くの店舗のみならず、映画館や劇場、美術館、図書館などの会館までも休館となってしまいました。

私自身は舞台の公演中でありましたが、その影響で、東京での公演が4分の3ほど無くなってしまいました。ちょうど1年前も、コロナの影響で公演が無くなってしまったことがフラッシュバックします。この宙ぶらりんで行き場のない気持ちが本当に悲しい。

しかし、1年前と大きく違っています。

それは、1年経ったのに、何も変わっていない政策や対策。各個人がここまで徹底して自制をし、守ってきたのに、対策を講ずるべき人たちはほぼ何もしていなかった。そして、海外に向けてのパフォーマンスのために使われているとしか思えない今回の宣言。

なぜ平和の祭典の開催のために、その他の国民が辛酸を舐め続けなければいけないのか。怒りからか、身体が震え、心が荒みます。

表現者の自分が出来るのは、この言葉にしようのない感情を作品に乗せて、利用すること。僕らに出来るのは些細なそんなこと、でも続けていくしかないんです。

何も期待しない。
自分や周りを信じて、生きるしかない。

エンタメは不要不急でない。

だから今回も、映画作品をご紹介します。

少しでも皆様の心が、芸術に触れて、清らかになりますように。

コチラの作品をご紹介!

Netflix『これからの人生』

母親を亡くし、医師であるコーエン先生のところに引き取られたセネガル人の少年モモ(イブラヒマ・グエイェ)。彼は盗みをしたり薬物の売人のようなことをやっていて、コーエンも手に負えなくなってきた。



ある日、モモは市場で裕福そうな婦人を狙い、荷物をひったくり、豪華そうな燭台を盗む。そのことを知ったコーエンは、モモを連れ、婦人の元へ。マダム・ローザ(ソフィア・ローレン)は、娼婦の子供を預かり、育てることで収入を得ていた。彼女のところに連れてこられるモモ、燭台を返し謝罪を嫌々ながらする。



コーエンは、モモには母親的存在が必要だ、あなたのような厳しく慈愛に満ちた人に育ててもらうべきだと、ローザにお願いをする。そんなことはゴメンだ!とローザは拒否するが、金銭のやりとりで、渋々承諾することになる。

ローザはユダヤ人であり、ホロコースト経験者であった。彼女は高齢で心臓が悪いために、記憶や意識が飛んでしまう症状も出ていた。モモとローザは、最初は対立していたが、徐々に互いが大切な関係へと変化していく。

ホロコーストによる、ひどい差別を受けてきたことから、昔のトラウマから逃げるように、ローザは自宅の地下室にこもることもあった。

モモとローザが出会ったことで、お互いの人生が少しずつ変わっていく。ローザがだんだんと体調が優れなくなり、病院では死にたくないとモモに訴える。そして、モモが彼女のために必死に動き、、



イタリアの大女優、ソフィア・ローレンを主役に迎えた本作。またNetflixは素晴らしい作品を創り上げてくれました。尺長は約90分ほどで、サイズ的には見やすいかと思います。短い時間の中に、ギュッと凝縮されています。

ホロコースト経験者という説明はないローザ。しかし彼女の過去には想像を絶することがあり、それをギリギリで乗り越えてきたのだな、と想像させるソフィア・ローレンの芝居が素晴らしすぎます。
言葉でなく、表情と纏うオーラで、そういう人生を背負った人物を見事に表現しています。

ストーリーとしてはとてもシンプル。人種の違う、老人と少年が出会い、お互いを認め合い支え合うことで、新たな人生が開いてくる。というもの。

しかし、そこを普通へとさせないのが、きっとソフィア・ローレンの芝居力なのだと思います。

昨今の分かりやすい表現に頼らずに、説明を排して、人物をきっちり生きることで、こちらの想像を何倍にも掻き立てる。そんな作品作りに感銘を受けました。



監督は、エドアルド・ポンティ。なんとソフィア・ローレンの息子なのです。これには驚きました。母子の共作で、母の魅力を最大限に引き出す息子の采配は見事、最高の母親へのプレゼントのような作品。

母のことをよく知る監督だからこそ、細やかな表情を引き出せたのではないでしょうか。

親子だからといって、遠慮することはなく、現場では、満足いくまでOKを出さなかったみたいなので、そのお互いのプロフェッショナル感はさすがです。

2人の周りにいる、スタッフ達がどういった感じで親子を見ていたかが、個人的には気になりますが(笑)。メイキングがあればぜひ観てみたい。

「言葉を覚えろ。言葉は最高の武器だ。」

ある人物が、不良のモモに言う台詞が、とても印象に残る。人間、唯一の武器。傷つけることも、救うことも出来る“言葉”。

わたしも、多くのことを、多くの人に伝えられるよう、きちんと武器を研いで、その時のために取っておきたい。

それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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