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『狂猿』レビュー:子煩悩なデスマッチファイターから希望がもらえた理由

(C)2021 Jun Kasai Movie Project.



2021年5月28日より映画『狂猿』が公開されます。本作はプロレスの中でも一際過激な「デスマッチ」のカリスマ、クレイジーモンキー(狂猿)の異名を持つ、葛西純の生き様を描いたドキュメンタリーです。

間違いなく言えるのは、この『狂猿』はプロレスのファンはもちろん、デスマッチや葛西純のことを全く知らない方でも楽しめる内容であるということ。なぜなら、劇中の葛西純は、子煩悩なパパとしてのプライベートや、コロナ禍で苦しみながらも道を模索したりする、とても「普通」の姿を見せているからです。



劇中で展開する試合は、蛍光灯で相手を殴るのは序の口、頬に串を刺し、撒かれた画鋲の上に体を落とすなど、見ているだけでも「痛い痛い痛い!」と叫んでしまいそうなほど過酷なもの。門外漢からすれば、正直に言って「理解できない」世界でした。しかし、その前に展開される、一家の大黒柱として収入を気にしたり、昔の自分のことを振り返ったり、幼い娘が遊ぶおもちゃについて話す姿が、あまりにありふれているもの、「近所にいるお兄さん」のような親しみやすさもあるため、彼に感情移入し、心から応援できるのです。



だからこそ、劇中で葛西純が「弱さ」を見せるシーンが、(物理的ではなく精神的に)痛切なものとして感じられます。例えば、コロナ禍が続き、やっと再び興行ができるようになったとしても、彼は「試合をやる前の自分の1つのテーマとして、相手に負けない、自分に負けない、コロナに負けないというのがあったんですけど、正直全部、負けましたね」と肩を落としています。それはお客さんが、声援を上げないように気を遣わざるを得なかったこと、コロナのことを忘れさせることができなかった自分のパフォーマーとしての力量を鑑みての本音だったようです。



さらに、劇中ではそもそもの「デスマッチファイターを続けるか否か」についても、葛西純は正直な気持ちを吐露しています。劇中の試合を見ていれば、デスマッチが文字通りに心身共に傷だらけになる過酷な仕事であることは痛すぎるほど伝わりますし、コロナ禍の情勢、実際に腰と首のヘルニアを同時に患ったこともあって、辞めるのが「普通」だと思ってしまいます。それでも、なぜデスマッチを続けるのか?そこにはタイトルに冠されているような「狂気」も幾分かは感じると同時に、等身大の人間の矜持、「続けること」の尊さをも感じることができました。

その葛西純の生き様から転じて、本作はプロレスに限らない、全ての人が希望が得られる、人生にまつわるメッセージも内包されています。特に、コロナ禍で大小様々な苦労に見舞われている人にとっては、最後に葛西純が告げた言葉には、勇気をもらえるのではないでしょうか。何より、葛西純のパフォーマンスそのものに「これだけ心身共に傷ついても前向きにがんばっている人もいるんだから、自分だってやれるさ」と、奮い立たせてくれるようなパワーがあるのです。



余談ですが、葛西純の試合中の右目のメイクは『時計じかけのオレンジ』の主人公であるアレックスをオマージュしているそうです。さらに、葛西純は子どもの頃からホラー映画が好きで、自身のデスマッチもある意味でホラー映画のようなものであり、「血だらけのままニカっと笑ったら、その表情だけで盛り上がった」こともホラー映画からの影響があったのだと語っていました。

デスマッチに挑む男の生き様を描く、という意味ではミッキー・ローク主演の『レスラー』に通じるところもありますし、ホラー映画さならがのパフォーマンスを期待してみるというのも、映画ファンにとっては一興なのかもしれません。過激なデスマッチに赴くも、実は親しみやすい、ひとりの男の人生の一幕を切り取るこの『狂猿』を、ぜひ映画館でご覧ください。

参考記事:デスマッチのカリスマ、葛西純が語る人生観「俺の生きてる意味がここにあった」 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

(文:ヒナタカ)

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