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映画コラム

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2021年07月14日

『17歳の瞳に映る世界』レビュー | 予期せず妊娠した少女は、なぜ中絶のための旅に出るのか?

『17歳の瞳に映る世界』レビュー | 予期せず妊娠した少女は、なぜ中絶のための旅に出るのか?



2021年7月16日より映画『17歳の瞳に映る世界』が公開されます。
『ムーンライト』(17)のバリー・ジェンキンスが製作総指揮を務めており、Rotten Tomatoesでは驚異の99%の批評家支持率と、そのクオリティは折り紙付き。
具体的な本作の魅力がどこにあるのか、簡潔に記していきましょう。

本作の物語は、17歳の少女オータムが妊娠を知り、中絶に両親の同意が必要でないニューヨークへ、親友でもある従妹のスカイラーと共に旅立つというもの。見所となるのは、その2人の関係性。孤独であった主人公と、純粋無垢で楽天主義者の女の子が、目的地までの旅をして、心を通わせたり、時には予測できなかった事態に翻弄されたりもする、数日間のロードムービーなのです。

全編で、ほぼほぼ「説明」がなく、極めて自然な会話の応酬で物語が紡がれていきます。決して分かりやすいエンターテインメントではないですが、この作りでこそ、彼女たちの「寄るべない」複雑な心理が痛切に伝わる、「映画」でしかなし得ない体験ができました。



物語そのものはフィクションですが、エリザ・ヒットマン監督によると「2012年にアイルランドで中絶が違法だったために女性が亡くなったという記事」が製作のきっかけだったのだとか。28歳の歯科医が、初めての子どもを敗血症のために流産しかけた上に、人口の8割をカトリック信者が占めるアイルランドでは中絶自体が違法だったため、1週間後に息を引き取ったのだそうです。アイルランドの女性は、中絶手術のためにイギリスに渡ることもあるのだとか(2018年5月28日に中絶容認に関する国民投票が行われ、現在アイルランドでは妊娠24週まで中絶が認められている)。

ただし、その元となった記事とは違って、映画の舞台はアメリカのペンシルバニアであり、そしてニューヨークへの旅を描いていきます。エリザ・ヒットマン監督は「中絶手術のためにニューヨークにやってきても、莫大な費用を支払うために、夜はベンチで眠らなければならなかった女性の記事」も読み、「実際のニューヨークは移動しようとすると厄介な街である」ことを捉えたいからこそ、舞台として選んだのだとか。これら製作までの背景を知っておくと、劇中で起こる出来事に、いっそうの奥行きを感じられるでしょう。



本作は若い女性を主人公としていますが、ぜひ男性にこそ観てほしいと願います。

若くしての妊娠からの、中絶という重い決断は、男性にとっては「本人(当事者)」になり得ないことであり、その気持ちはわかることがない、簡単にわかったような気にはなってはならないことなのですから。しかし、映画『17歳の瞳に映る世界』を観れば、男性であっても、ほんの少しでも、その理解に近づくことができると思うのです。

なお、邦題の『17歳の瞳に映る世界』はとっても素敵ですが、原題の「Never Rarely Sometimes Always」には、本編で「そういう意味だったのか!」と驚く展開が待っています。驚くだけでなく、ここで男性は(女性でも)今まで想像をしなかった「視点」に気づかされるでしょう。その瞬間と、そして最後まで、彼女たちの旅路を見届けてほしいです。

(文:ヒナタカ)

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