2021年07月30日

【映画VS原作】『屍人荘の殺人』の魅力|原作の旨味を抽出した映画のポイントを徹底解説

【映画VS原作】『屍人荘の殺人』の魅力|原作の旨味を抽出した映画のポイントを徹底解説


ワンシーンの挿入で光る、二人のホームズと一人のワトソン



『屍人荘の殺人』には探偵役が二人とその助手役が一人、登場します。

なんともアンバランスですが、この二人のホームズの名(迷)推理とそれに右往左往する助手のワトソンが事件に挑みます。

二人のホームズの一人は自らホームズを自称する年齢不詳の大学生の明智恭介。名前からすでに名探偵の臭いがプンプンします。映画では中村倫也が彼独特の掴みどころのなさを存分に活かして事件の起こりそうなところに顔を突っ込んで回ります。

もう一人のホームズは映画では浜辺美波が演じている剣崎比留子。明智恭介とは違って事件には積極的にかかわろうとするタイプではありませんが、なぜか事件の渦中に身を置くことが多く実際に警察関係者にも知られている存在です。

そして、この二人の間を行ったり来たりするワトソンが神木隆之介演じる葉村譲。
ミステリー愛好家でありながら、ここまで一回も犯人を当てたことがないという推理ベタです。

突如起こったゾンビの襲来と、ペンションで起きる謎の連続殺人事件。

原作でも映画でも実は、片方のホームズは意外と早く、一旦退場してしまいます。そして残されたもう一人のホームズとワトソンこと葉村が事件の真相に迫っていく形です。

原作小説での片方のホームズは、早々の退場に加え、その前からも決して有能な感じは見せず、どちらかという好奇心旺盛なだけの人というイメージで、コメディリリーフとまでは言いませんがシリアスなミステリーの探偵役のイメージからは、少しずれてしまっています。もう一人のホームズがキレモノ過ぎることもあるので、対照的に映ってしまいます。

私は原作を読んだうえで映画『屍人荘の殺人』を見たのですが「映画もそのままなのかな?」と少し心配になっていたのですが、映画においては監督木村☻ひさしと脚本の蒔田光治は原作にはなかったワンシーンを挿入することで、片方のホームズもちゃんとものすごいキレモノで明晰な頭脳と見事な推理力の持ち主であることをさらりと描写して見せました。

映画の流れで言うとゾンビパニックの冒頭のシーンとだけ言っておきますが、ここで片方のホームズは「事件が起きる前に何かが起きること&犯人を言い当てる」というとんでもない離れ業を披露します。この映画オリジナルのシーンには心底、唸りました。

このワンシーンが入ったことで「二人のホームズと一人のワトソン」という図式がより明確になり、物語に厚みを与えています。

小説では続編の「魔眼の匣の殺人」「兇人邸の殺人」とシリーズが続いていて、小説のあらすじを見てしまえば、どちらのホームズが誰かと言うことはあっさりと分かります。

原作を読まずに映画『屍人荘の殺人』を単独で見れば、事件の真相と共に「どちらのホームズ(=名探偵)が真のホームズか?」についても興味をひかれ続けるでしょう(これはキャスティングの良さもあります)。

原作は前代未聞の設定を、ミステリーの古典的な舞台装置として驚かしてきた一作であり、映画は原作の旨味を見事に抽出したものに仕上がっています。

“クローズドサークル”の原因こそ荒唐無稽ですが、そこで起きる事件は、とてもフェアで筋の通ったものになっています。

ゾンビの登場に驚くと同時に、そこで起きる難事件に知恵を絞りながら観るのがこの映画への正しい姿勢と言えるでしょう。

(文:村松健太郎)

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(C)2019『屍人荘の殺人』製作委員会

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