怨霊が怖い、人が怖い、訳がわからなくて怖い、顔が怖い。方向性別「怖い映画」特集
「意味がわからないけれど怖い」映画といえば
意味がわからない、わけがわからない、とにかくなーんもわからない。けれども「マジで怖い映画」の「怖さ」はかなりのものだ。
複雑な要素が絡み合っているので解りにくい(わざと理解し辛くしている)、恐怖の正体が明確に提示されないなど「わけがわからない」原因は様々だが、「なんかすっげぇ怖いモン観せられた」経験は、恐怖体験としては最高峰だと言っていいだろう。
そのような恐怖体験ができる作品としては『哭声/コクソン』を推したい。冒頭からラストまで、わけがわからない恐怖に満ち満ちている。と書くと少々語弊があるかもしれない。わかることはわかるのだが、結局「本当にわかっているかどうかはわからない」し、ラストの解釈は監督であるナ・ホンジン自身が「どちらとも取れるようにした」と言及している通り、観る人によって恐怖のサイズが変わる。
映画は韓国の田舎にある谷城(コクソン)という村が舞台で、ある日を境に村人が発狂し、人々を惨殺する事件が連続して発生する。その事件はなぜ起こったのかを解明していくのだが、シャーマニズムにキリスト教、韓国土着宗教に異物としての國村隼が半裸で山を駆け回るなど、まるでミルフィーユのような重層的なレイヤーとなっている。さらに除霊のために登場する祈祷師も怪しいし、謎すぎる謎の女も怪しい。誰が本当のことを言っているのか、誰が犯人(元凶)なのか、疑心暗鬼になりすぎて性格が悪くなりそうなほど、複雑怪奇に物語は進行していく。
そしてそして、ラストシーンは映画史に残る恐怖映像だろう。「背筋が凍るようなホラー映画」をご所望の方はぜひ観て欲しい1作だ。
『哭声/コクソン』
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Amazon Prime Videoでレンタル可能
さて、「怪しい人」が出てくる映画といえば、同じ韓国作品だと『サバハ』がある。『サバハ』には怪しい人・怪しいが実は怪しくない人・怪しいと思っていたらマジで怪しい人・怪しいと思っていたら怪しくなかったのだがその後やっぱり怪しくなる人しか登場しない。
物語は「ヘロデ王の大虐殺」をベースにしているが、これに仏教やキリスト教、密教、韓国の土着信仰に「恨(ハン)の文化が入り乱れ、重層すぎてわけがわからない怖さ……と思いきや、意外と理解しやすく作られている親切設計である。それでも、初見時には「ああ、わけがわからなくて怖かった」と素晴らしき恐怖を体験させてくれるだろう。
『サバハ』
Netflixで配信中
そもそも監督本人が怖い映画もある
※ヘレディタリー 継承
怖い映画を鑑賞して「こんなおっそろしい映画を撮ったのはどんな人なんじゃろ」と監督のことを調べてみたら、「作品よりも監督が怖いのでは」と感じてしまう映画もある。
例えばホラー映画の巨匠であるダリオ・アルジェントは『サスペリア』本編よりも怖い顔をしているし、『哭声/コクソン』のナ・ホンジンも現場ではかなり怖いらしいが、2018年に『ヘレディタリー 継承』をブチかましたアリ・アスターの右に出る者はなかなか居ないだろう。
アリ・アスターは実生活で嫌なことがあると、それを映画に反映させるそうだ。それだけで嫌がらせだが、クオリティの高い嫌がらせはエンタメになり得る。またインタビューでは「最高のストーリーテリングって、人を不快にさせて、困惑させる、悪戯なところがあると思う」と笑顔で語っている。正直、彼の映画よりも彼がニコニコとインタビューに答えている姿を見るほうが怖い。
彼の長編作品は(今のところ)いずれもホラーだ。『ミッドサマー』もそこそこ怖いが、『ヘレディタリー/継承』はさらに怖い。物語はとある一家を描く。ミニチュア模型アーティストであるアニーの母は乖離性同一障害、父は精神分裂病で餓死、兄は被害妄想が原因で自殺、自身も夢遊病で、先天性遺伝による精神疾患が子どもたちに「受け継がれて」しまうのではと心配している。
これら現実にある精神疾患と、降霊界、カルト教団、悪魔などオカルト要素が絶妙に結びつく手付きたるや鮮やか……というよりも鑑賞者を実に嫌な気分にさせ続ける。念のために書くが、嫌な気分にさせる=つまらない映画ではない。アリ・アスターが最高のストーリーテリングは人を不快にさせて、困惑させると語っているとおり、不快になり、わけがわからず困惑して、圧倒的な恐怖を感じさせてくれる。
『ヘレディタリー 継承』
Netflix・Amazon Prime Video・U-NEXTで配信中
ここまで7作品ほど紹介してまいりましたが
ここまで、主に7作品をピックアップして紹介してきた。つまり「怖い映画7選」なのだが、7選とはまた微妙な数字である。だが「ホラー映画TOP100ランキング! 1位はそうですねぇ! やっぱり『エクソシスト』です!」と並べ立てるよりはいくらかマシだろう。そもそも、投票形式ならまだしも100選とかって本当に選んでいるのだろうか。
疑惑はさておき、『エクソシスト』のテーマ曲はマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』だが、彼本人は全く関わっておらず、演奏もしていない。勝手に使われた曲が勝手に大人気になり、そのため自身のアルバムも売れたのだが、おそらく世界で最も誤解されている曲の1つだろう。
数千回ものオーバーダビングを駆使した本編は20分以上ある荘厳で壮大な楽曲であり、ホラー映画に使われるとはとても思えない幻想的な美しさをもっている。『エクソシスト』での誤解とともに、『チューブラー・ベルズ』は世界で最もイントロの続きが聞かれたことのない曲の1つだとも言えるだろう。人類の損失である。この事実は、本コラムで紹介した作品のどれよりも怖い。
『チューブラー・ベルズ』
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