あなたに役立つ映画・ドラマのプラスαがあるメディア「シネマズプラス」

©cinemas PLUS Committee. All Right Reserved.

2021-08-21

『庵野秀明+松本人志 対談』天才同士の異種格闘技戦から見えてくる、二人の「共通点」と「相違点」

“アニメ界のカリスマ”庵野秀明と、“お笑い界のカリスマ”松本人志。そんな二人の天才が初めて顔を合わせた『庵野秀明+松本人志 対談』が8月20日(金)よりAmazon Prime Videoで配信されている。


もはや、異種格闘技の趣きさえ感じさせるマッチアップ。番組の冒頭で「相当マズいですよね、この状況は」と松本が照れると、「ええ、すぐに滞ると伝えてあります」と庵野は冷静に返す。シャイな二人はあまり目を合わせることもなく、カメラに見切れる位置にいるディレクターにしょっちゅう視線を向ける(本作の監督は、品川庄司の品川ヒロシが務めている)。観ているこっち側としては、そんな姿も微笑ましい。


いやー面白い。この対談は、とてつもなく面白い。『新世紀エヴァンゲリオン』や『シン・ゴジラ』など庵野秀明ワークスを追い続け、『ダウンタウンのごっつええ感じ』や『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』など松本人志のトガった笑いにシビれてきた筆者にとって(まあそんな人間、おそらく日本中に何百万人もいるでしょうが)、端から端まで興味深いトークの連続。


そこから浮かび上がってくるのは、驚くほど似通った二人の「共通点」と、二人の出自から生まれる「相違点」だ。

→画像ギャラリーへ

「世界」と「角度」という共通感覚



いきなり番組のエンディングに関する話で恐縮だが、対談が終わってお互いの印象を聞かれたとき(二人が全く同じタイミングで上を見つめる仕草が面白い)、松本は庵野に「お互い似てますね」と切り出す。確固たる世界観、カリスマ性、シャイな人柄。確かに活躍する世界は違えど、この二人はよく似ている。


筆者がこの対談で最も印象に残ったのは、『新世紀エヴァンゲリオン』が日本のみならず世界からも高い評価も得ているという話を踏まえて、「松本さんにとって世界って何ですか?」と品川ヒロシに振られると、「世界ってココじゃない?」と頭(脳)を指す場面。庵野もそれに同調し、「自分が世界に出るというよりは、世界が自分に近づいてくるんですよね」と語る。


彼らが紡ぎ出す作品は、決してワールドワイドに受け入れられる「最大公約数的」なものではない。極東の国から生み出された、極めてローカルなものだ。それでも彼らはその世界が唯一無二のものであると信じ、「世界が自分に近づいてくる」という感覚を持っている。日本人であることを自覚しつつも、日本人らしからぬ感性とでも形容すべきか。筆者には、その共通点が非常に興味深かった。


特に「笑い」は、とってもドメスティックなもの。その国や地域の文化、宗教、歴史にダイレクトに直結する。1990年代後半から2000年代前半にかけて日本テレビ系列で放送されていたバラエティ番組『進ぬ!電波少年』で、『電波少年的松本人志のアメリカ人を笑わしに行こう』というコーナーがあり、松本はあえて「アメリカ人に受ける笑い」に挑戦していた。それは、笑いがドメスティックであることゆえの賭けだったのだ。


もうひとつ二人の共通感覚として面白かったのが、「角度」の話。庵野を密着取材した『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、彼は「映画は煎じ詰めればアングルと編集だ」と言い切っていた。同じ素材でも、それを捉える視点が変われば物語は大きく変容する。松本はその発言に大いに触発され、「勉強になった」と語る。


庵野も松本も、常に新しい表現を模索してきたクリエイターだ。だがそれは、今までにないストーリーや笑いをイチから創り出すという意味ではない。既存の表現の角度を少し変えることによって、それまでとは異なる価値や意味を生み出すことだ。二人は我々常人とは違うアングルで、この世界を眺めている。

「プロデューサーやると、大人になる」



では、二人の相違点は何だろうか。


筆者がこの対談でもう一つ印象に残ったのは、庵野秀明の「プロデューサーやると、大人になるんですよ」というコメントである。曰く、「監督は子供のままいられるけど、プロデューサーは大人にならないとできない」。その文脈を踏まえて、「宮崎(駿)さんみたいに、別にプロデュースする人がいてくれるといいんですけど、僕は自分でやるしかなかったんで」という発言を聞くと、遠回しに「宮崎駿は駄々っ子の子供のままだ!」と言っているようにも思える(おそらく、そうなのだろうけど)。


庵野秀明は、「松本さんも最近大人に見えるようになったのは、プロデュースをやられているからだと思います」と語っているが、正直筆者からすると、この「プロデュース」という言葉の重みは両者でだいぶ隔たりがあるように思える。松本の場合は「才能ある若手芸人を世に送り出す」という意味だが、庵野の場合はより生々しく、ファイナンシャルなニュアンスを含んでいるからだ。


例えば、庵野は作品の要素は4つに分解できると語っている。


①自分が描きたいもの

②いまこの時代に描くべきもの

③観客が描いて欲しいもの

④出資者の要請で描くもの


そして、このうち自分でコントロールできるのは唯一「①自分が描きたいもの」だから、優先度は最も「最下層」になるのだという。


周知の通り、庵野は取締役を務めていたガイナックスを飛び出して、自分自身のアニメ製作会社カラーを立ち上げた経緯がある。庵野曰く「最初は名前だけの取締役だった」だったそうだが、会社の放漫経営を真っ向から批判し、給与体系の見直しや社内システムの改善を迫った。だが彼の意見は他の経営陣から無視され、次第に取締役としての意義を見失っていく。『エヴァンゲリオン』をリスタートさせると決めたとき、すでに彼の心はガイナックスから離れていた。


庵野秀明は対談で「特に出資者の意見は絶対です」と語っているが、これこそ会社経営者としての皮膚感覚だろう。西新宿の雑居ビルに事務所を借りてカラーを始めたときから、彼には明確なコスト意識があった。そもそもガイナックスの浪費癖を批判して会社を飛び出したくらいだから、キャッシュフローには人一倍気を遣ったことだろう。


『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』はいわゆる製作委員会方式ではなく、カラーが100%資金を調達する形で作られている。いわば新版エヴァは、巨大なインディーズ映画。明確に採算ラインを引き、映画のヒットによって得たリターンを次作の製作資金に回す。地道な企業努力によって、カラーと『エヴァンゲリオン』は大きく育っていったのだ。


「合法で独裁ができるのが、映画監督という職業」と庵野は語る。それは、「すべてが民主化されている現代で真の独裁者たりうる職業は、映画監督だけだ」と喝破したフランシス・フォード・コッポラ監督の言葉そのものだ。しかし庵野は続けて、「でも自分はそういうタイプではない」と自らを規定する。逆に言えば、そのようなタイプだったからこそ、彼は会社経営者にシフトできたのかもしれない。

キングメーカーとしての松本人志



一方、松本人志はあくまで吉本興業に所属する芸人である。もちろん、今や彼の存在は単なるコメディアンの域を超えているし、その一挙手一投足がニュースになる存在。『人志松本のすべらない話』や『IPPONグランプリ』、『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』では、プロデューサー的立場で番組の企画・進行を担っている。


さらに言えば、現在の吉本興業ホールディングスの代表取締役社長CEOがダウンタウンの元マネージャー岡本昭彦であることから、社内における松本の発言権は社長よりも大きいとされている。いわゆる「闇営業問題」の際に、「後輩芸人達は不安よな。 松本 動きます。」とTwitterで宣言し、手厳しく岡本を叱ったというエピソードは、いまだ記憶に新しい。「松っちゃんって、社長よりも偉いのか!」と驚いた方も多いはずだ。


とはいえ、松本は経営者ではない。資金繰りを心配する必要のない彼の立ち位置は、庵野からすると「子供のままいられる」ポジションに見えていることだろう。キングメーカー的な立場から、吉本という巨大企業を支えている松本を羨ましく思うフシもあるかもしれない。


それはおそらく、両者の資質の違いというよりも、彼らのホームグラウンドである映画とテレビという媒体の違いなのではないだろうか。オワコンと言われて久しいテレビだが、それでもメディアにおける存在感は今なお圧倒的だし、お笑い番組はそのど真ん中にしっかと鎮座している。松本はキング・オブ・メディアの覇者なのだ。


それにひきかえ、映画ビジネスは博打の世界。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)で一世を風靡し、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)を始めヒット作を連発してきたガイナックスが急激に沈んでしまったのは、ゼロ年代以降その博打に失敗してしまったからだ。大手映画会社が倒産したり買収されたりすることは、よくある話。殿様商売のテレビ業界とは訳が違う。


そんな二人がテレビでも映画でもなく、Amazon Prime Videoという新しい配信メディアで対談するということに、筆者は時代の必然性を感じてしまうのだが。

庵野秀明、大晦日の人気バラエティ番組に出演?(妄想)



最後に、筆者は一つ予言をしたいと思う。お笑い番組には関心がないという庵野秀明だが、大晦日に放送される『笑ってはいけない シリーズ』(日本テレビ系列)は毎年欠かさず観ていると告白。「あれ、すごい好きです」と満面の笑顔で語る彼を見て、松本は確実に「そうやったら、庵野さん出したろかな」と思ったはずだ。


そもそも庵野が『プロフェッショナル 仕事の流儀』の出演を決めたのは、少しでも『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のヒットに寄与できれば、という思いだったはず。今後『シン・ウルトラマン』、『シン・仮面ライダー』の公開を控える社長の立場からしても、格好のプロモーションになることは間違いない。


筆者は夢想する。庵野がウルトラの父の姿で現れ、ついでに妻の安野モヨコまでもがウルトラの母の姿で現れ、ダウンタウン、ココリコ、月亭方正の5人が一斉に吹き出し、「全員アウト〜」となる姿が。きっと浜ちゃんは「嫁までおるんかい!」とツッコむことだろう。もしこんなことが本当に実現するなら、筆者は感涙にむせびながら年を越します。松っちゃん、動いて!

(文:竹島ルイ)

【庵野秀明+松本人志 対談】(→Amazon Prime Videoの映像ページへ
配信:8月20日よりAmazon Prime Videoにて見放題独占配信
出演:庵野秀明氏、松本人志氏
監督:品川ヒロシ氏
©2021 YD Creation
全ての画像を見る

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録