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『ドライブ・マイ・カー』における車の重要性|監督の過去作と「車」の関係性を振り返る

現在公開中の映画『ドライブ・マイ・カー』は、亡き妻が残した謎を追う一人の劇作家とその周囲の関係性を描いたミステリードラマだ。



予告編では、一見、ミステリアスなロードムービーといった印象の本作だが、本編をみると"妻を失った男が経験する心の旅"を描いた普遍的な人間ドラマの傑作であると分かる。

タイトルに用いられた「車」も強い印象を残す本作だが、劇中でそれはどのような意味合いを持っていたのか。

この記事では『ドライブ・マイ・カー』における「車」の重要性を考え、濱口竜介監督の過去作における「車」の名場面を振り返ることで、その関係性を探っていきたい。


物語を動かす装置



『ドライブ・マイ・カー』における車は物語を動かす重要な装置として機能している。
幅広いスケールで物語を展開する本作において、車の移動は舞台の転換にも繋がっていると言えるだろう。
ビルが立ち並ぶ東京から美しい海が広がる広島、一面の雪景色がインパクトを残す北海道まで、車は物語に大きな広がりをもたらしてくれるのだ。

また、会話劇が得意な監督の作品だけに、車内の会話も物語の重要なポイントだ。
実は本作に登場する車は"赤色のサーブ900ターボ"のサンルーフになっているが、原作では"黄色のサーブ900コンバーティブル"というオープンカーだった。
この違いを日本最速試写会にリモート登壇した監督は「日本の風景に埋もれてしまわないように」という理由と共に「音声にノイズが入らないように」とも答えており、その発言からも本作における会話シーンの重要性が分かるだろう。

亡き妻との結びつき



車は主人公・家福と亡き妻・音を結び付ける重要なアイテムだ。
舞台俳優の家福は、妻が声を吹き込んだカセットテープでセリフを暗記する。
その様子は、まるで疑似的に夫婦の会話が行われているようでもある。

妻の亡きあと、俳優活動から距離を置くようになった家福だが、運転中のルーティンワークとしてセリフの暗記をやめることは出来なかった。
その様子には、疑念を残して去った妻と、何とかして繋がりを保ちたい彼の迷いが垣間見えるのだ。

一方、家福は人を車に乗せることを拒むようにも描かれている。
専属ドライバーとして紹介された女性・みさきを頑なに拒否する彼。
車は亡き妻との唯一の繫がりであり、閉ざされてしまった彼自身の心のようにも感じられるのだ。

物語が進むにつれ、家福の心境に変化が訪れるが、それは車内の様子にもリンクしている。
他者を受け入れなかった家福はドライバー・みさきを許したことで、妻を知る謎の男・高槻も車内に招きいれることになる。
一見、わずかにも感じられるこの変化がのちの彼に大きな気づきを与えることになるのだ。
詳しくは、ぜひ、本編をご覧になって確認してほしいが、ラストの車内の様子には、彼の変化を象徴する大きなヒントが隠されている。

心理的な距離が縮まる場



車のなかは、物理的な距離が縮まる場と言える。
本作では、その結果、半ば強制的に心理的な距離が縮まる場として、車内の空間が描かれていたのではないだろうか。

過去にも濱口竜介監督は"物理的な距離"と"心理的な距離"を描いている。
『寝ても覚めても』では主人公と恋人の触れあう場面が多用され、『ハッピーアワー』でも女友達4人が触れ合う場面を多用し、人間関係の"親密さ"を印象付けていた。
本作でも、それは共通する部分と言えるだろう。

劇中では最初こそお互いに距離感があった家福とみさきではあるが、家福が彼女を認める発言をした直後、2人は横並びで座ることになる。
また、妻との関係性を理由に絶妙な距離を保っていた家福と高槻は、横並びに座った車内で会話をするうちに、思わぬ関係性を築いていくことになる。

このように、本作の登場人物は距離が近づくことで自然とお互いの心を開き、その奥に隠された本音を吐露する関係性へと発展していくのだ。

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