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『クーリエ:最高機密の運び屋』平凡なセールスマンのスパイ活動そのものよりも、さらにハラハラする理由があった

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2021年9月23日(祝・木)より映画『クーリエ:最高機密の運び屋』が公開される。

本作の目玉は、ドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』で絶大な人気を得たほか、アメコミ映画『ドクター・ストレンジ』(16)でも独善的なヒーローにハマっていたベネディクト・カンバーバッチ主演作であること、そして「平凡なセールスマンが重大な任務に挑むスパイになる実話」であることだろう。

それをもって、「普通の人がスパイになったら、こうなるんだろうなあ」という親しみやすさ、圧倒的なリアリズム、そして重圧な人間ドラマが魅力的な作品だったのだ。さらなる見どころを記していこう。

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1960年代初頭、アメリカとソ連の核武装競争が激化し、第三次世界大戦の脅威が迫るその時、スパイの経験など一切ないイギリス人のセールスマンのグレヴィル・ウィンに、ある依頼が舞い込む。それはソ連軍参謀本部情報総局の大佐と接触し、彼から託されたソ連の軍事機密を持ち帰ることだった。

「顔見知りの人間だと危険が及ぶから」という理由があるとはいえ、主人公は初めこそ「僕はただのセールスマンなんですよ?スパイなんてできませんよ!」と主張する(当たり前だ)。だが、イヤイヤながらも依頼を受け、なんだかんだで表向きは真っ当にセールスをして、隙あらば飲んで騒いで楽しんだりもする様は、「スパイをしているようで普通の出張にも見える」のが面白い。ほとんど日本の会社員と変わらないように見えるし、なんなら「スパイって案外チョロいのでは?」とちょっぴりだけ思ってしまう。

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だが、もちろんスパイがそんな甘い仕事であるはずがないし、かなり理不尽な状況に置かれているのは間違いない。主人公は「下手に情報を知るとむしろ不自然になってしまうから」という理由で軍事機密の詳細を教えてもらえず、後で核兵器が関わるミッションであることを知って拒絶反応を示したりする(当たり前だ)。初めこそ「安心安全だよ」と言われているが、スパイであることがバレたらすぐに殺されなかったとしても、拘束はされる。リスクを考えればこれ以上なくブラックな仕事だ

そんな彼が妻から浮気を疑われるというのは、悲しいやら滑稽やら。もちろん実際の彼は世界を救うためのミッションに赴いているのだが、何やら海外の出張によく出かけていて、過剰に「夜が激しい」し、家族とのキャンプでは些細なことでピリピリもしたりする。「なんだか態度そのものがおかしい」のは、確かに妻から見れば浮気の疑惑になるし、スパイ活動をしているなど思いもよらないだろう。世界の前に家族が崩壊の危機を迎えつつあるというのも皮肉的だし、なんならスパイ活動そのものよりも妻との不和にハラハラするのが可笑しいと共に切実だった。

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その主人公が、世界を救うためのスパイ活動をどう思うようになり、そしてどう行動していくのか、その変化こそが大きな見所となっている。友情に似た信頼も生まれるし、もちろん大切な家族を守るという大前提もある。やはり、極めて普通で平凡な主人公だからこそ、大いに感情移入できるし応援できるのだ。

白眉となるのは、終盤のベネディクト・カンバーバッチの熱演だろう。その時の過酷なシチュエーションは元より、目の前の「後戻りはできない」事態に対する心情の変化を、ほんのわずかな表情の機微で表現する凄まじさは、どうあっても言語化が不可能だ。とにかく「観てくれ」としか言えない。

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劇中のスパイ活動や作戦そのものは「あっさり」目であるため、エンターテインメントとしては物足りなさを覚える方もいるだろう。だが、それもかえって「本当のスパイはこんなものなんだろうな」と思わせるリアリズムにつながっていたし、何よりそこを描く作品ではない、ということも強く思わせた。やはり、メインになっているのは「平凡なセールスマンが世界の危機に立ち向かう偉大なスパイになる過程」であり、それをベネディクト・カンバーバッチの極上の演技をもって魅せた人間ドラマなのだ。

そして、奇しくもと言うべきか、この『クーリエ 最高機密の運び屋』の公開日である9月23日のわずか8日後に、コロナ禍による延期に延期を重ねた『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開される。平凡だったセールスマンの実話を元にしてリアリズムにこだわった人間ドラマである『クーリエ 最高機密の運び屋』と、ヒロイックなスパイ像や派手なアクションが主体の『007』シリーズは、好対照な内容と言えるだろう。

ぜひ、合わせて観てみて欲しい。

(文:ヒナタカ)

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