〈新作紹介〉『Shari』レビュー:最北の冬の町に現れた“赤いやつ”は、一体何をしでかすか?
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
大雪原に立つ、赤い毛むくじゃらの怪物。
これってファンタジック・ホラー映画?
そう思われた方、半分外れていて半分当たっています。
「ポンキッキーズ」でおなじみのムックが緑から赤に衣替え?(いや、さすがにそれはないか……)
本作は日本最北の知床半島・斜里町とそこに住む人々の姿を映し出すドキュメンタリー映画……ではあるのですが、そこになぜかこの“赤いやつ”が現れるのです。
この“赤いやつ”、人間に襲いかかればホラー映画になっちゃうわけですが、なかなかそんなことにはならない……かな!?
そのうちに映画は羊飼いのパン屋さんやら、鹿を駆る夫婦やら、秘宝館の主人やらと、町のユニークな人々をいろいろ取材していきます。
一方で、本作の撮影が敢行された2020年1月前後、いつもなら豪雪になるところを全然雪が降りません。
オホーツク海沿岸には流氷がやってくるのが常なのに、なかなか来ません。
(氷になりきれてないシャーベット状のものが時たま流れてきますが、こういう光景も初めて見ました)
こういった異常気象の中、突然町に現れた“赤いやつ”はどこか不気味で狂暴そうで、それでいて哀愁も漂っていて、またその全身の赤は「血」を、毛むくじゃらの部分が「血管」を思わせたりします。
即ち“赤いやつ”は生命の象徴でもあるのかもしれません。
そして“赤いやつ”は、ついに人間に襲いかかります!
そこは町の体育館の中で行われている、子どもたちの相撲大会。
それまで楽しく相撲に興じていた子どもたちは、突然の“赤いやつ”の乱入に阿鼻叫喚!
まもなくして彼ら彼女らもどんどん真っ赤になっていきます。
生命あふれる子どもたちと、生命の象徴のような“赤いやつ”の邂逅は、一体何を訴えようとしているのか?
それは映画そのものをご覧になった方々それぞれがお考えになっていただけると幸いです。
監督は『Grand Bouquet』(19)など身体表現を追求した多様な映像作品を手がけてきたダンサー兼映像作家の吉開菜央で、写真家の石川直樹が初めて映画の撮影を担当。
ちなみに本作の撮影が終了した直後、世界はコロナ禍に見舞われました。
最北の摩訶不思議を描いたこの作品、実は巧まずして世界の異常を予見する作品にも成り得てしまっていたようです。
(文:増當竜也)
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(C)2020 吉開菜央 photo by Naoki Ishikawa