工藤遥の奇跡:作品ごとに見せるNew Faceを探求する

モーニング娘。最年少11歳デビュー~「リリウム」ファルスまで



工藤遥は2010年1月に現在のハロプロ研修生の前身である「ハロプロエッグ」として活動後、2011年9月、史上最年少となる11歳でモーニング娘。に10期メンバーとして加入した。研修生として入った段階から「かなりかわいい子が入ってきた!」とファンの間で話題になったことを覚えている。細くてちっちゃくて、お顔がすごくかわいいのに、話すと低めのハスキーボイスなギャップもよかった。

外から見ればかなり順調に見えるデビューだが、卒業前に出演したハロプロの番組「The Girls Live」でのインタビューによると、彼女自身はかなり危機感を感じていたらしい。

彼女の入った10期は、4人とも個性豊かだ。同期最年長の飯窪春菜は歌やダンスは未経験だったものの、安定したトーク力でMCなどを務める機会が多かった。石田亜佑美はキレッキレのダンスに定評があり、加入時にセンターを務めることが多かった鞘師里保と対に配置されてダンスすることもあった。同い年の佐藤優樹はそこはかとないポテンシャルを秘めており、早い段階から目立つパートやポジションを与えられていた。

そんな中、同期で唯一ハロプロエッグ出身なのに、自分だけが輝いていないと悩んでいたそうだ。確かに立ち位置は端が多く、ソロパートも少なかったが、ビジュアルには定評があり、ジャケットで大きく写真を使われたり、雑誌に呼ばれる機会もあり、ファンも多かった。10期は全員キャラが立っていて活躍しているように見えていたが、彼女は「ビジュアル以外の歌やダンス面で必要とされていない」と葛藤していたそうだ。

加入後早い段階でショートカットにした髪は、彼女のトレードマークとなり、卒業まで「黒髪ショートのかわいい子」といえば工藤遥、というのがファンの間のお約束だった。地上波のTV番組に出る機会があれば、Twitterのトレンドにこの言葉が載ることもあった。このショートカットも、他のメンバーに比べて飛び抜けたポイントがないと思っていた彼女が「シルエットだけでも変えたい」と願いを込めて切ったという。

でも、10期は初期から工藤遥さんも含めて、いや、工藤遥さんがいたからこそあんなに面白くて魅力的な期になったと思う。石田亜佑美さんとリーダーの座を奪い合い、同い年の佐藤優樹さんと凸凹コンビとして注目を集め、飯窪春菜さんとは姉妹のように仲がよかった工藤遥さん。ビッグマウスで、狂犬チワワと呼ばれていた一方で、お化け屋敷に入りたくないと泣いて拒否した工藤遥さん。



自身のパートが少なめだったりしたけれど、一方で「持ってる」人でもあった。2014年の「ひなフェス」ではくじびきでソロで歌うことになり、つんく♂さんにも相談したうえでモベキマス(ハロプロ内の合同ユニット)の「もしも…」を歌い、すんばらしいステージを披露した。このとき歌った「もしも…」が、卒業時に歌うソロ曲にも選ばれて、今も筆者は「もしも…」を聞くだけで泣いてしまう。

「リリウム」ファルスとの出会い、ハロプロ演劇女子部になくてはならない存在に

冒頭でもお伝えした舞台「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」でファルスを演じたことが、彼女にとって大きな転機となった。それ以前も演技仕事ではちょいちょいいい役どころを演じていたが、ファルスの衝撃はすごかった。どんな役なんだと気になると思うが、詳しく説明してしまうとストーリーの盛大なネタバレになってしまうため、話のはじめと終わりでまったく印象が変わる役、とだけお伝えしておきたい。

ハロプロの演劇女子部の演目でありながら、劇作家・末満健一のオリジナルシリーズ「TRUMPシリーズ」の一作品でもあるこの演目は、シリーズ第一作の「TRUMP」と深いつながりがあった。2014年当時、重要な役を演じる彼女だけが前作を観た状態で舞台に臨んだそうだ。かなり重い物語、ファルスを演じるだけでも心理的負担が大きいところ、14歳で前作のエピソードまで抱えるのはかなり大変だったのではと思ったが、よく演じていたし、彼女にしかできない役だったと思う。ファルスにイニシアチブ掌握されたい。

先ほどの、彼女が自分の立ち位置に葛藤していたエピソードを知ったとき、もしかしたらそのようにさまざまなことを思い悩んでいた当時の彼女だからこそ、ファルスはあんなに魅力的だったのではないかなと勝手に納得した。実際ファンだけでなく、ハロプロメンバーも彼女に恋してしまったというメンバーもいたほど。単にショートカットなだけではなく、本格的にイケメンキャラの座をほしいままにしていった。

以降、ほぼ毎年新作を上演し続けているTRUMPシリーズ。「マリーゴールド」を演じた田村芽実は2017年「グランギニョル」2018年「マリーゴールド」で、リリーを演じた鞘師里保は2020年の「黑世界」で再びTRUMPシリーズに参加している。本人も願っているように、また工藤遥にもTRUMPシリーズに出演してほしい。

「リリウム」の後、ハロプロの舞台・演劇女子部で毎回主役・準主役などの重要な役を演じた。そしてそのほとんどが男性役だった。


© ODYSSEY

舞台・演劇女子部 ミュージカル「TRIANGLE-トライアングル-」では、主人公サクラ姫の幼なじみ・アサダを演じた。お人よしでちょっと頼りない、どこまでも優しい少年だった。


© ODYSSEY

2016年の舞台・演劇女子部「続・11人いる! 東の地平・西の永遠」では回替わりで二役。テレパス能力を持った主人公の少年・タダと、タダの恋人で2つの性を持ち、大人になるときにどちらかの性を選択する運命を持つフロルを回替わりで演じた。2014年から少年役ばかり演じてきた彼女が、男性と女性の間で揺れる役を演じたのが新鮮だった。少年でも少女でもない、大人でも子どもでもない、真ん中で揺れている感じ。これもまた、工藤遥らしい役だったかもしれない。


© ODYSSEY

2017年舞台・演劇女子部「ファラオの墓」でも回替わりで二役。正統派・正義の王子サリオキスと、敵王スネフェル。工藤遥の狂った男役が大好物の筆者は断然、スネフェルが好みだった。同じスネフェルを演じた石田亜佑美と役の雰囲気が違うのがとにかくよかった。石田亜佑美のスネフェルのほうが大人で孤独で、秘めた狂気。工藤遥のスネフェルは少し幼くて、狂気そのものだった。なかなか難しいかもしれないが、また狂った男役もやってほしい。

17歳で決めたモーニング娘。卒業

2017年、17歳の4月に卒業を発表。理由は「女優になるため」だった。映像で活躍する女優になるには今しかない。モーニング娘。との両立も考えたそうだが、やはり難しいということで卒業を決断した。確かに当時のモーニング娘。は、年に2回は全国を回るツアーを行っていた。撮影やオーディションと並行して活動するのは難しかっただろう。また、女優をやりたいという気持ちを持ちながらアイドル活動を続けるのは申し訳ないという気持ちもあっての決断だった。

そして、この決断の大きなきっかけとなったのは、「リリウム」でファルスを演じたことだったという。

正直、ファンには青天の霹靂だったと思う。まさか同期最年少がはじめに辞めるとは思わなかった。加入当初はソロパートが少なかった彼女も2015年に初めてのダブルセンター、2016年「セクシーキャットの演説」ではモーニング娘。の歌唱力を支える譜久村聖、小田さくらと3人でセンターを務めるなど、グループにおける工藤遥の存在感は増していた。



きっとこれからさらに活躍してくれると思っていた。もちろん本人の決断は応援したいし、17歳でそんな大きな決断をした推しを尊敬する一方で、もっとモーニング娘。でいてほしかった……という思いもあった。

ヲタクというのは勝手にいろんな夢を見てしまうもので、本人が昔何かで発言していたようにいつかは同い年の佐藤優樹と一緒に、まーどぅーコンビでモーニング娘。を引っ張る日が来ると夢見ていた。感想は千差万別だと思うが、筆者はやっぱりアイドルでいてほしかった気持ちが強かったが、一方で演技を観て推しになったのだから、演技の道に行ってしまうのは仕方ないのかも……という気もした。



でも盛大なツアーで送り出せたことは本当に幸せだった。急な卒業が何人か続いた後で、久しぶりの準備期間がたっぷりある卒業。彼女の卒業に合わせて、彼女が好きな曲を集めたメドレー(あだ名がどぅーなので、通称メドゥレー)もセットリストに組み込まれた。セットリストのはじめから終わりまで楽しくて楽しくて、数十公演の3分の1ほど行った(全通した方もたくさんいらっしゃると思う)。工藤ヲタは本当に幸せ者だと思う。

「卒業したって芸能界に残るし、そんなに悲しむことはないでしょ、と卒業を発表したときは思っていました。でも、そうではない何かがあって、モーニング娘。であることに意味があって、いまの自分が特別だったんだなって知りました。皆さんが私を特別にしてくれたんです。ありがとう」

卒業時に読まれたお手紙の言葉を思い出すと、いまだにちょっと泣いてしまう。工藤遥さんはずっと特別な存在だったに決まってるじゃないか。

番外編:拝啓、ハル先輩! - 東麻布高校白書 -

お芝居とは少し違うが、彼女のイケメンキャラと人気によって、モーニング娘。'17 誌上ドラマ「拝啓、ハル先輩! - 東麻布高校白書 -」というコンセプトで度々雑誌に掲載されたほか、書籍も発売された。それぞれのメンバーに幼馴染やクラスメイト、先生や妹的存在など役割があり、もれなくほぼ全員ハル先輩を好きというハーレムストーリーで最高だった。工藤遥、おそるべし。

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