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小栗旬、まるで間逆な「日本沈没」と『人間失格』の役柄
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小栗旬、まるで間逆な「日本沈没」と『人間失格』の役柄
「日本沈没ー希望のひとー」より (C)TBS
ドラマ「日本沈没―希望のひと―」がいよいよ佳境を迎えています。
小松左京のベストセラー原作から“日本沈没”といった基本設定以外はほぼほぼオリジナルな展開で、混迷する令和の今ならではの時代を巧みに描き得ている本作、小栗旬扮する主人公・天海啓示の正義感あふれる真摯な姿勢と行動の数々も印象的ではあります。
そもそも小栗旬といえば、今や若手から中堅の域へと移行していく中でもトップの座を駆け抜け続ける頼もしい存在ではありますが、そんな彼は究極のダメ男を演じた映画があります。
その名も『人間失格 太宰治と3人の女たち』。この主人公と「日本沈没」の彼とぜひ見比べてみましょう!?
小説「人間失格」執筆にまつわる
太宰と女たちのフィクション劇
映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』はご想像に違えて、太宰治が死の直前に発表した事実上の遺作でもある同名小説を原作にしたものではありません。
サブタイトルに記されている通り、太宰治の女性遍歴をフィクションとして綴ったものです。
もっと正確に記すと、小説「人間失格」誕生秘話とでもいうべき太宰と彼を愛した3人の女たちの関係性を、虚実相まみえながら描いたものと捉えて鑑賞すると面白さも倍増することでしょう。
(「人間失格」そのものの映画化は、意外にも2010年の生田斗真主演『人間失格』のみ。ただし小説からインスパイアされた1978年の現代劇『新・人間失格』や、舞台を未来に移して大胆に翻案した2019年のSFアニメ映画『HUMAN LOST 人間失格』といった異色作はいくつか存在します)
(C)2019「人間失格」製作委員会
ストーリーをかいつまんで記しておきますと、主人公はもちろん、身重の妻と二人の子どもを持ちながら、常に恋の噂が絶えす、さらには自殺未遂を繰り返す自堕落で破天荒な生活を送っているスキャンダラスな作家・太宰治(小栗旬)。
文壇からは疎まれながらも、彼が書く小説は常にベストセラーになるというトップスター作家でもある彼は作家志望の太田静子(沢尻エリカ)と未亡人の山﨑冨栄(二階堂ふみ)とも不倫の関係を続けています。
それでも妻の美知子(宮澤りえ)から叱咤された太宰は、自分にしか書けない小説を記そうと取り組み始めるのですが……。
女性目線で見据えた
太宰治の不可思議な魅力
(C)2019「人間失格」製作委員会
「人間失格」そのものの映画化は少ないものの、太宰治を主人公にした映画は割と存在します。
しかし、本作は3人の女性目線で破滅の人生を贈る太宰を見据えているあたりが新味であり、だからこそいわゆる女性の敵とみなされがちな不倫男を単にそういったゲスなものではなく、もっと深くユニークな視点で描くことも可能になったことでしょう。
監督は蜷川実花ですが、持ち前のカラフルポップなアート感覚を駆使しながら、その立ち位置は完全に3人の女性たちに寄り添っています。
また、そこから人間的にはどうしようもないものの文才があり、また異性としてはどうしてもほうっておけない不可思議な魅力を持つ男・太宰を小栗旬が魅力たっぷりに演じているのです。
(C)2019「人間失格」製作委員会
そしてよくよく見ていくと、女ったらしの太宰ではありますが、実は女たちに誘導されている節もないわけではなく、特に山﨑富栄にはそのケも感じられてなりません。(その伝では個人的に、富栄に扮した二階堂ふみには恋する女の恐ろしさみたいなものをとことん感じさせられっぱなしでした!)
ちなみに本作、文豪が主人公ということもあって、三島由紀夫(高良健吾)や坂口安吾(藤原竜也)といった当時の小説家たちも登場します。
(C)2019「人間失格」製作委員会
実際のところ、太宰も含めてこうしたキャスティングはイメージが合う合わないといった文学通たちからの議論も公開時は白熱していましたが、そうした部分も含めてスキャンダラスに本作を捉えていこうという試みは成功だったのではないかとも思えてなりません。
それにしても『ルパン三世』(14)に『銀魂』二部作(17・18)のような漫画原作キャラから『罪の声』(20)での真摯な記者、かと思うと『新解釈・三國志』(20)のぶっとび曹操、『キャラクター』(21)でのスランプ漫画家の受難、さらには『ゴジラVSコング』(20)でハリウッド進出!
などなど、このところ小栗旬はどれ一つとして似た役似た映画がない挑戦を繰り返している感があり、現在の「日本沈没―希望のひと―」も現代を背景にしたパニックものの王道をやってみたいといった意欲が画面からほとばしっています。
「日本沈没ー希望のひとー」より (C)TBS
『人間失格 太宰治と3人の女たち』での堕ちていく太宰治、「日本沈没―希望のひと―」で沈んでいく日本列島から少しでも多くの人々を救おうと邁進する天海啓示、どちらも同じ小栗旬が体現する魅力的なキャラクターなのでした。
(文:増當竜也)
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