日本映画界に燦然と輝く存在、小川眞由美。
その妖艶さ、知性、狂気、そして哀しみを内包した演技は、一度観たら忘れられない魔力を持っています。
今回は彼女が出演した5本の名作映画を振り返りながら、それぞれの物語の魅力と小川眞由美という女優の凄みに迫ります。
『炎と女』(1967年)

(C)1967 松竹株式会社
情念の炎が燃え上がる昭和のメロドラマ、その中心に立つ小川眞由美
吉田喜重監督が「人工受精」という当時としては極めてセンセーショナルな題材に真正面から挑んだ心理サスペンス。
男性優位の社会構造や倫理観の歪みを浮き彫りにしながら、家庭に潜む崩壊の種を描きます。
小川眞由美が演じるのは坂口医師の妻・シナ。
子どもをめぐる誤解と嫉妬から、主人公夫妻の関係に波紋を広げていく重要な役どころです。
彼女の演技は端正な顔立ちの奥に複雑な感情を潜ませ、ラストに向けて狂気すら孕んだ行動に説得力を与えます。
その目線の一つひとつが「女の怒り」を語るかのような迫力で、観る者の胸を打ちます。

(C)1967 松竹株式会社
②『影の車』(1970年)

(C)1970 松竹株式会社
家庭と愛人、その狭間に揺れる夫の心に巣食う“影”──妻という役割の新境地
松本清張の短編『潜在光景』を原作に、家庭という密室を舞台にしたサスペンス。
小川眞由美は、主人公・浜島の妻・啓子を演じています。
表面的には穏やかで知的、しかし内面には冷え切った諦めや倦怠を抱える複雑な役どころです。
彼女の佇まいは、セリフの少なさゆえに逆に深く印象に残ります。
啓子の微かな笑みや、夫への視線の鋭さが、家庭に潜む“見えない影”の正体をじわじわと浮き彫りにしていきます。
まさに「語らぬ演技」の真骨頂であり、抑制された狂気が匂い立つ小川の演技は、サスペンスの緊張感を根底から支えています。
③『八つ墓村』(1977年)

(C)1977 松竹株式会社
怨念と血の因果に呑まれる村、狂気を宿す女の怪演
横溝正史原作の傑作ミステリーを、野村芳太郎が映像化。
昭和の日本映画史に残る怪奇サスペンスの傑作です。
小川眞由美が演じるのは、主人公に深く関わる女性・森美也子。
村にまつわる過去の事件と血筋の因縁を背負う、謎多き人物です。
その存在感はまさに“女優のオーラ”。
一見冷静で知的に見える美也子ですが、その微笑みの奥には計り知れない秘密が宿ります。
美と恐怖が同居するような不気味さを、彼女は一挙手一投足で表現。
村に漂う怨念や狂気を具現化するような、神秘的な役どころであり、小川の存在が作品全体の“闇”の色を決定づけています。

(C)1977 松竹株式会社
④『鬼畜』(1978年)

(C)1978 松竹株式会社
母性愛と狂気が入り混じる、壮絶な人間ドラマの名演
松本清張原作のこの作品で小川が演じるのは、主人公・竹中(緒形拳)の愛人であり3人の子の母・菊代。
貧困と孤独のなかで必死に生きる姿は痛ましくもあり、それゆえに強くもある。
小川の菊代は、ただの「不倫相手」ではありません。
母であり、女であり、人間である彼女の姿を、小川は全身全霊で演じます。
とりわけ、子どもたちを巡って叫ぶ姿、涙を見せぬままの静かな怒り──どれもが胸に刺さります。
哀しみと強さを同時にまとったその存在は、映画史に残る母親像のひとつといえるでしょう。

(C)1978 松竹株式会社
⑤『配達されない三通の手紙』(1979年)

(C)1979 松竹株式会社
未来を予言する手紙が導く、上流階級の崩壊劇──美しくも恐ろしい姉の存在感
原作はエラリー・クイーン『災厄の町』、監督は野村芳太郎。
名門・唐沢家に届く差出人不明の3通の手紙が、家族の秘密を暴いていくミステリードラマです。
小川眞由美は三姉妹の長女・麗子を演じ、まさに“静かなる支配者”のような威厳を放ちます。
冷静沈着で知的、しかし何かを隠しているようなその微笑。
小川の演技は観る者に「この人が何を考えているのか分からない」という不気味さを与えつつ、その内面の苦悩や孤独も確かに感じさせます。
妹たちとの確執や、家名を守ろうとする責任感の狭間で揺れる女の姿に、小川の繊細な演技が深みを加えています。

(C)1979 松竹株式会社
小川眞由美という女優──美しさの裏に潜む“毒”と“知性”
この5本を通して見えてくるのは、小川眞由美という女優の「底知れなさ」です。
彼女の演技には、単なる美女では終わらない奥行きがある。
愛される女でありながら、憎まれる女でもある。
聡明で、情熱的で、冷酷でもある。
そのどれもが矛盾せず同居している。
彼女は常に、作品に“異物”として現れながら、そこに“核心”を宿す人物でもあるのです。
その演技は観客の心にひっかき傷のような余韻を残し、物語をより複雑に、そして豊かにします。
どこか神秘性を保ち続けている小川眞由美。
その軌跡を辿ることは、日本映画が描いてきた“女”という存在の多面性に迫る旅でもあります。
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『炎と女』
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『影の車』
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『配達されない三通の手紙』
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