人間は誰しも、みな幸せに生きたいと願っているはず。しかし世の中には、何らかの事情により犯罪に手を染めてしまう人がいます。

同じ生い立ちでも、犯罪者になる人とそうでない人を分けるのは何なのでしょうか？何が人間を犯罪に駆り立てるのでしょうか？

有名事件の犯人の心理に迫る、Netflixの良質ドキュメンタリーを厳選してみました。

「ビリー・ミリガン：24の人格を持つ男」（全4話）

ダニエル・キイスによるノンフィクション『24人のビリー・ミリガン』でも有名になった、解離性同一性障害（旧病名は多重人格障害）の犯人による連続性的暴行事件の真相に迫るアメリカ製作のドキュメンタリー。2021年よりNetflixで独占配信中です。

1970年代後半、アメリカのオハイオ州立大学の周辺で若い女性を狙った性的暴行事件が相次いで発生しました。
逮捕されたビリー・ミリガンは、精神鑑定の結果24人の人格に分裂していること、そして事件当時はミリガン本人の人格は眠っていたことが明らかになります。

その原因は、幼少期に継父から性的虐待を受けたことによるトラウマでした。

今でこそ精神障害への一般的な理解は進みましたが、当時の人々にとっては信じがたいことだったようです。「責任逃れのために演技しているのではないか」という疑惑を持つ司法関係者も大勢いたことが明かされています。

事件に関わった司法関係者、精神医学者、精神科医、そして犯人の家族へのインタビューを中心に、事件が世の中に及ぼした影響やミリガンの精神状態について客観的に解説しています。

→「ビリー・ミリガン：24の人格を持つ男」Netflix配信ページ

「エリーゼ・マツナガ：殺人犯が抱える心の闇」（全4話）

ブラジルの日系御曹司と“玉の輿婚”をした主婦エリーゼ・マツナガが起こした夫殺害事件を解説する、Netflixブラジルのドキュメンタリー番組。2021年よりNetflixで独占配信中です。

貧しい生い立ちを乗り越えて、御曹司マツナガ氏に見初められたエリーゼは、まさにシンデレラ・ストーリーの主人公のようでした。マツナガ氏は美しいエリーゼをまるで“お姫様”のように扱いますが、幸せな夫婦生活も束の間、夫の不倫が発覚してしまいます。

不倫が事件の直接の引き金となったと考えられますが、エリーゼには当時幼い娘がいました。娘はエリーゼが不妊治療をした末に授かった待望の我が子であり、惜しみない愛情を注いでいました。

愛情深い母親としての顔と、不倫に苦しむ妻としての顔と、冷酷な猟奇殺人鬼としての顔を持つエリーゼは、とても複雑な人間に思えます。

しかしエピソード後半でエリーゼの過酷な生い立ちがさらに詳しく明かされたとき、エリーゼの起こした事件は、夫個人ではなく男性全体に対しての復讐だったのではないかと、女性である筆者は思わずにはいられませんでした。皆さんは、どのように考察されますか？

→「エリーゼ・マツナガ：殺人犯が抱える心の闇」Netflix配信ページ

「モルモン教徒殺人事件」（全3話）

モルモン教の古文書取引にまつわる、奇妙な事件の顛末について伝えるドキュメンタリー番組。アメリカ製作、2021年よりNetflixで独占配信中。

1985年ユタ州ソルトレイクシティで、モルモン教の古文書取引に関わっていた人物を狙った爆破事件が連続で発生しました。

犯人として逮捕されたのは、モルモン教の古文書を発見し一躍時の人となったマーク・ホフマン。捜査の結果、ホフマンが発見したとされていた古文書は全て偽造だったことが判明します。

モルモン教に対する憎悪が犯行動機にあったようですが、それ以外にも金銭欲や承認欲求も絡んでいたのではないかという印象を受けました。

せっかく並外れた技術と知能と粘り強さ（よく言えば）を持ちながら、それを悪事にしか活かせなかったというのは非常に残念な話です。

たとえ「許せない」と思うような出来事が起ころうと、憎悪に負けることなく、良心を大切に守りながら生きることの重要性を教えてくれるドキュメンタリーです。

→「モルモン教徒殺人事件」Netflix配信ページ

何不自由なく平穏に暮らしているときは、「犯罪者と自分はまったく別の種類の人間だ」と思えるかもしれません。
しかし上記のようなドキュメンタリーを観ていると、その差は紙一重であることに気づかされるでしょう。

（文・吉野潤子）