映画『明け方の若者たち』原作者・カツセマサヒコが語る「原作に忠実な映画作りに感謝しかない」
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過去には“エモい”恋愛妄想ツイートが熱烈な人気を呼び、14万人以上のSNSフォロワーを有する小説家・ライターのカツセマサヒコ。自身の経験をベースにした初の小説『明け方の若者たち』が実写映画化され、2021年12月31日に公開される。
学生最後の飲み会で出会った“彼女”に一目惚れした“僕”。「私と飲んだ方が楽しいかもよ?」と誘い出された夜の公園で過ごしたひととき、下北沢での初デートを経て、どんどん深まっていく二人の関係性に焦点を当てた本作。彼女と過ごす時間にのめり込んでいく“僕”を北村匠海、どこかミステリアスな魅力を持つ“彼女”を黒島結菜が演じる。
今回『明け方の若者たち』原作者のカツセマサヒコにインタビュー。キャストや制作陣に対する、熱い感謝の思いを語ってくれた。
初小説が映画化「きっと実現しないと思っていた」
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――11月14日に行われたプレミア上映会で、ついに『明け方の若者たち』がお披露目となりましたね。公開までの経緯を含め、率直なお気持ちを聞かせてください。
「ようやく皆さんに見てもらえる!」っていう、楽しみな気持ちが強いですね。そもそも、無事に公開できること自体がすごいなと、僕は思っていて。コロナ禍で、これまで通りの撮影ができない状況下で、よく企画を通して撮影して、上映まで辿り着けたなと……。もう、キャストの皆さんや制作陣に対して、尊敬の念しかありません。
「(明け方の若者たちを)映画にしませんか?」と企画書を渡された時は「きっと実現しないだろうな」って思ってたんですよ、実は。
――え、そうだったんですか?
素直に嬉しく思う気持ちもあったんですけど、仮に僕がOKして、無事に映画制作が始まったとしても、公開に至るのは5年後くらいかな、と思っていました。
一冊の小説が刊行されて映画化されるまでの期間って、大体3〜5年ほどかかってるイメージがあって。だからこそ、ここまでスピード感をもって映画制作が進んだことに驚いています。
僕と彼女、どちらもハマり役で絶妙なキャスティング
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――“僕”を北村匠海さん、“彼女”を黒島結菜さんが演じていらっしゃいます。キャスティングについてのご感想を聞かせてください。
映画化の話が持ち上がる前から、「実写化するなら“僕”には北村匠海さんがぴったり!」って読者の声が多かったんです。僕自身も、北村匠海さんが主演で実写化したら最高だなと思ってました。けど、まさか実現するとは、夢にも思ってなかったです。
なので「北村匠海さん主演で決定です」って言われた時には、率直に「これは嘘だな」と思いましたね(笑)。あまりにもベストな配役すぎて、疑いの気持ちが抜けませんでした。
“彼女”が黒島さんに決定したのは、正直に言うと意外でしたね。僕の中の”彼女”は、愛嬌で懐に入っていくイメージの女の子だったんです。その反面、黒島さんはクールで涼しげで、かっこいい美人だったので。
――実際に、黒島さん演じる“彼女”をご覧になっていかがでしたか?
もう、黒島さん以外の“彼女”が想像できなくなりました。それくらいハマり役だと思います。“僕”との年の差を上手く生かした、どこか余裕のある接し方が絶妙で。
もしも他の方が“彼女”を演じられていたら、また違ったテイストになったのかもしれません。だけど、黒島さんだからこその味が感じられました。役柄そのものに真摯に向き合ってくれている姿勢が感じられて、嬉しかったです。
「原作を超えてきた」と実感するシーンに映像の力を痛感
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――実際に完成した映画をご覧になって「小説を超えてきたな」と思う映像表現はありましたか?
“彼女”の秘密が明らかになるシーンには唸らされました。“僕”と“彼女”が出会った冒頭のシーンを回想することによって、それが答え合わせになる仕組みになってるんです。「こんな辻褄合わせの手法があったのか!」と驚きました。映像で表現するのは難しいと思っていたシーンなんですが、ふたりの共通の話題である「音楽」をトリガーにして、見事な伏線回収を実現してくれましたね。
今回、コロナ禍のせいで、予定していたロケ地が使えなくなった場合も多かったらしいんです。でも、結果的に「変更後の方がぴったりだな」と思えるシーンが多かったのも救いでした。
小説のなかで描いている道筋とは違うけれど、きっと僕の知らないところで、彼らはこういうやりとりもしてたんだろうな……と想像できて。アナザーストーリーとして、僕が書きたかったなと悔しく思うシーンばかりです。それはそれで、幸せなことなんですけど。
――カツセさんは、脚本には一切タッチしていないんですか?
脚本の3稿めと8稿め、最終稿の段階で目を通させてもらい、気になった点だけ意見としてお伝えしました。原作者の視点で感じたことはしっかり伝えて、最終的にはお任せするスタンスでしたね。
たとえば、“僕”の友人である尚人のセリフって、相当かっこいいんですよ。「良い男になろうぜ」なんて、実在する人間が口にしていたらキザすぎるじゃないですか。文章で読めば違和感のない言葉でも、映像で見ると不自然に感じるかも知れないと思って、そのことは正直に制作者側にフィードバックしました。
でも、尚人のセリフに関しては、演じていただいた井上(祐貴)さんの表現力が凄まじくて。僕が危惧していたよりも、まったく違和感なく聞こえました。むしろどんどん井上さん演じる尚人が好きになっていって、最終的に井上さんのことも大好きになっている自分がいて。映像の力を痛感しました。
本作の脚本は12稿くらいまで改編を重ねて、最終稿に近づくにつれてどんどんブラッシュアップされていったんです。映画はこうやって磨かれていくんだなと、肌で感じました。
物語としての救いはない、原作に忠実なラストシーン
――脚本の段階で練りに練られたうえで、映像作品として形になったんですね。『明け方の若者たち』原作ファンの方にとっては、映画を見ることで、より世界観が膨らむのでは?
映画を見たあとに、ぜひ原作も再読してほしいです。“僕”と“彼女”が、初デートの時にヴィレッジヴァンガードで待ち合わせたシーンなんて、原作から飛び出てきたみたいにそのままですから。
「書いたことを全部実現できるなんて、僕にしかできない魔法なのでは?」と錯覚してしまったくらいに、感動しました。ヴィレヴァンのシーンは撮影現場にも立ち合わせてもらったので、余計に感慨深かったです。ただの文字列だったものが、生命を帯びていく瞬間を味わえる。原作者の僕だからこそ体感できることなのかな、と思いました。
――小説の表紙を写し撮ったようなラストシーンも、印象的ですよね。タイトルデザインは書籍と同じデザイナーさんに依頼されたと伺いました。
“僕”が、なくした携帯を探すけど見つけられなかったシーンですね。視認性を上げるために小説のタイトルに比べてロゴのフォントを太くしていますが、空は加工せず、そのままの色味を生かしています。小説の表紙と近い色になるまで、待ちの時間があったと聞きました。2月という極寒の時期の撮影で、北村さんは「ほとんど記憶がない」と言ってましたね(笑)。
マカロニえんぴつの曲で「残酷だったな、人生は思っていたより」って流れるんです。まさに、その歌詞のまんまのエンディングなんですよね。
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――ある意味、物語としての救いはなく、どこまでもリアルな終わり方ですよね。
原作に忠実に作ってくれた制作陣に、とにかく感謝しかありません。せっかく映画にするんだったら、物語が盛り上がるクライマックスを作りたくなるじゃないですか、作り手としては。そこをグッと堪えて、原作に寄り添う映画作りをしてくれた姿勢に、愛を感じましたね。
もう、あのエンディング以外は考えられません。原作を読んでいただいた方も、そうじゃない方も、ぜひ楽しんでもらえることを願っています。
(撮影=渡会春加/取材・文=北村有)
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(C)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会