映画コラム
ウォーターゲート事件:『大統領の陰謀』で語られなかった真実
ウォーターゲート事件:『大統領の陰謀』で語られなかった真実
20世紀に入って報道が確立されるようになると、立法、司法、行政に続く第四の権力とされるようになりました。
大変固い入りの文章で、申し訳ありません。
そんな第四の権力=報道の力がなんと時のアメリカ大統領(リチャード・ニクソン)を辞任にまで追い込んだのが“ウォーターゲート事件”です。
ケネディやリンカーンなど暗殺によって任期を全うできなかった大統領は少なくありませんが、政治的なスキャンダルによって辞任に追い込まれたのは、後にも先にもこのニクソン大統領だけです。
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そもそもウォーターゲート事件ってなに?ざっくり解説
ことの発端は1972年。
ワシントンD.C.にあるウォーターゲート・ビルにある民主党本部に不審者が侵入する事件が起きました。
そう!ウォーターゲートというのは水門とは全く関係ないビルの名前なのです!
侵入者はビル内の民主党本部に盗聴器を仕掛けようとしていましたが、警察に逮捕されてしまいます。
やがて、犯人グループが元CIAの職員であったり、ニクソン大統領再選委員会の関係者であることが判明し、当初は否定されていたもののワシントンポスト紙の調査報道により、政権内部の人間が事件に深く関与していることが暴露されました。
さらにホワイトハウスの中枢部が捜査妨害に直接かかわったことが判明するに至り、ついにリチャード・ニクソン大統領は任期途中で辞任することになります。
後にも先にも死亡以外の理由で、任期を全うできなかった大統領は彼だけです。
追い詰めたのは無名の若手記者
【予告編】一連のウォーターゲート報道に取り掛かったのは、ワシントンポスト紙の若き無名の記者ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタイン。
記者としての実績はほぼないという状況の2人でしたが、ただの侵入事件と思って調べ始めたウォーターゲート・ビル侵入事件の裏にある巨大な“陰謀”を知ると、それを全身全霊をこめて追いかけ続けることになります。
2人の調査報道は後に著書『大統領の陰謀』としてまとめ上げられ、ピュリッツァー賞を受賞することになりました。
その完全実話ノンフィクションの映画化に興味を持ったのが、当時アメリカン・ニューシネマの若手スターとして人気者だったロバート・レッドフォード。ロバート・レッドフォードはアメリカン・ニューシネマの後の時代の自身のキャリア形成を考えている中でこの題材に出会いました。
共演には同じくアメリカン・ニューシネマで注目を浴びたダスティン・ホフマン。そして、ボブ・ウッドワードをロバートが、カール・バーンスタインをホフマンが演じることになりました。
監督は50年代から映画界で活躍してきたアラン・J・パクラ。
映画はニクソンが辞任してから2年後の1976年に公開され、その年のアカデミー賞8部門ノミネート、4部門受賞という高い評価を受けました。
徹底したリアリズムの中で描かれなかった真実
物語は当時のアメリカ人ならだれでも知っている出来事を忠実に描かなくてはいけないこともあって、徹底したリアリズムが求められました。ある意味ドキュメンタリー映画を撮るようなものだったのでしょう。
ニクソン大統領を筆頭に閣僚の実名がバンバン出ますし、ワシントンポスト紙の記者もウッドワード、バーンスタインを筆頭に隅々まで実名で登場。証言をした人々に至るまでリアリティを追求し続けました。
大きな舞台となるワシントンポスト紙の編集部のセットは、実物同然の精巧な作りになっていたと言われていて、見学に来たワシントンポスト紙の現役の記者が、“馴染みのいつもの場所に”忘れ物をしていったという逸話が残っているほど。
そんな徹底したリアリティを追求し続けた映画『大統領の陰謀』ですが、ひとつだけ劇映画的な描写があります。
それはボブ・ウッドワードの秘密の情報源“ディープ・スロート”の描写です。
カール・バーンスタインも正体を知らなかったというこの謎の情報源の描写だけは、当時ウッドワードが完全に口を閉ざしたこともあって、完全な再現をすることができませんでした。
“ディープ・スロート”とは何者なのか?
その真相はウォーターゲート事件の最後の謎とされていました。
そんな謎が明らかになるのは2005年のこと。当時のFBI副長官を務めていたマーク・フェルトが名乗りだし、ウッドワードも追認しました。
この政権の重要人物であったマーク・フェルトがなぜ秘密の情報源“ディープ・スロート”になったかは2017年の映画『ザ・シークレットマン』で詳しく知ることができます。
珍しくアクションが全くないリーアム・ニーソン映画です。
激動の時代故、前後の出来事も映画に
時はベトナム戦争という泥沼にアメリカがはまっていた時代。それゆえに映画的なトピックに溢れています。
ワシントンポスト紙がワシントンの地方紙から、全米を代表する新聞となったのが、ベトナム戦争に関する国防省の特別文書”ペンタゴン・ペーパーズ”に関する一連の報道。
映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、ウォーターゲート事件の直前の出来事ということで、『大統領の陰謀』と共通する人物が多数登場し、ボブ・ウッドワードも若手記者の一人として登場するほか、映画の最後はウォーターゲート・ビル侵入事件が描写されています。
当時のニクソンを描いたものに、オリバー・ストーン監督の1995年の映画『ニクソン』という映画があります。
また”ウォーターゲート事件”で失脚したのちにニクソンが政治的な再起を目指したものの、イギリスのトークショーの司会者デービッド・フロストとの対談で自分の非を認めてしまい、政治家として致命的なダメージを負ってしまう顛末を描いたのが、2008年の『フロスト×ニクソン』という映画。
また、完全にフィクションの世界ですが『フォレスト・ガンプ/一期一会』や『ウォッチメン』にもニクソンとこの時代の様子は描かれています。
『大統領の陰謀』を経て、世界はどう変わったか
ボブ・ウッドワードはその後も調査報道ジャーナリストの代名詞的な存在として、現在も第一線を走っていて、歴代大統領についての独自調査に基づいた著書を多く発表しています。80年代の大統領選挙のスキャンダルを描いた『フロントランナー』にも登場。彼の著書は日本語訳も多いので、日本でも読みやすくなっています。
カール・バーンスタインもジャーナリストとして活躍、ワシントンポスト紙の副編集長を務めた経験もありました。
また、『恋人たちの予感』『めぐり逢えたら』のノーラ・エフロン監督と結婚していた時期もありました。
”事実は小説より奇なり”という言葉がありますが、映画『大統領の陰謀』を見ているとまさにその言葉を実感することができます。
(文:村松健太郎)
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