『桜のような僕の恋人』で魅せた中島健人の“表情”
夏の晴人:恋も仕事も、一生懸命になる
美咲に「変わります」と宣言してから、晴人は前の職場である写真事務所で働き始め、カメラマンになる夢を再び追いかけていた。
近況報告とデートに誘うための電話では、早口で前のめり気味なのは変わらないが、声のトーンは前よりも明るくなっていた。美咲に誇れる自分に近付いたからだろうか。
デート先は、晴人が予約したおしゃれなフレンチのレストランだった。晴人は「こんな店、慣れてなくて」と、上品な店内の雰囲気とは真逆の申し訳なさそうな表情を見せる。美咲のために背伸びをしたのかと思うと、愛おしさが込み上げてきた。
仕事や夢について話す2人の会話は、こちらまで楽しくなるようなワクワク感がある。特に仕事の話をする晴人は堂々として頼もしく思えるのだ。また美咲の話を聞く時の表情も穏やかで、優しい笑顔が印象的である。
晴人がなんの前振りもなく、突然美咲に誕生日プレゼントを渡した時は正直驚いたが、彼のぎこちなさと緊張している様子を見て応援したくなった。プレゼントの中身は、晴人いわく「美咲さんの色」である桜色のシザーケースだった。慣れない店で、慣れない贈り物を渡す晴人の不器用さに、誰もがキュンとしてしまうだろう。
デートが終わり、何か言いたそうな美咲を見て、居ても立っても居られなくなった晴人は自転車を担いで、美咲を追いかけた。
「自転車はその場に置いておけばいいのに」と心の中で思ったが、それくらい無我夢中だったのだ。重い自転車を持ち上げて、美咲のために必死に走る晴人は見ていていじらしかった。
このデートを機に、2人は付き合うことになる。卓球をしたり、古着を試着したり、映画を観たり。幸せそうに過ごす2人の姿を観て、こちらまでニヤけてしまった。特に、早朝の渋谷の街を駆け抜ける晴人と美咲の姿は、2人だけの世界を生きているようで微笑ましかった。
また風邪を引いた美咲の元へ、晴人がお見舞いに行く場面が特に印象に残っている。「熱が出た」と美咲から連絡を受けると、徹夜明けの体で自転車を猛スピードで飛ばして、彼女の家へ向かった。髪はボサボサで疲れた顔をしていても、必死に自転車を走らせる様子から、心から美咲のことを心配していると伝わってくるのだ。
「すっぴんだから」という理由でマスクをしていた美咲に対して、晴人は「気にしないし、むしろ見たいです、すっぴん」と前のめりで、今までにないくらい目を見開いて美咲を見ていた。少年のような、あまりにもまっすぐな眼差しに、思わず笑ってしまう。
大切なものを扱うように、恐る恐る美咲のマスクを外す様子には、こちらまでドキドキしてしまう。「綺麗です」とすっぴんの美咲の目をまっすぐ見て伝えた晴人の言葉に、嘘はなかった。
美咲のお見舞いに行った日の別れ際、2人は花火大会に行く約束をしていた。花火大会で晴人は「結婚してくれませんか」「僕はこの先も、美咲さんと生きていきたい」とプロポーズをする。堂々とした声で、相手に伝わるようにはっきりと話す晴人の様子は、春のオドオドした姿とは大違いだった。
美咲や仕事が、晴人をよりたくましい人間へと成長させたのだ。晴人の堂々とした態度を見て、こちらまで嬉しくなる。
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