続・朝ドライフ

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2022年08月04日

「ちむどんどん」第84回:和彦に三郎が「全然わからねえ」。視聴者の気持ちを代弁してくれた

「ちむどんどん」第84回:和彦に三郎が「全然わからねえ」。視聴者の気持ちを代弁してくれた


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2022年4月11日より放映スタートしたNHK朝ドラ「ちむどんどん」。

沖縄の本土復帰50年に合わせて放映される本作は、復帰前の沖縄を舞台に、沖縄料理に夢をかける主人公と支え合う兄妹たちの絆を描くストーリー。「やんばる地域」で生まれ育ち、ふるさとの「食」に自分らしい生き方を見出していくヒロイン・比嘉暢子を黒島結菜が演じる。

本記事では、その第84回をライター・木俣冬が紐解いていく。

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房子と三郎の恋物語

愛する暢子(黒島結菜)を幸せにするために、三郎(片岡鶴太郎)に会う和彦(宮沢氷魚)。
三郎と房子(原田美枝子)がなぜ結婚しなかったか訊ねます。

和彦の発想が「全然 わからねえ」と首を傾げる三郎。そりゃそうです。

余計なお世話ですが、ふたりが破局した理由よりも、なぜ房子が沖縄県人会を抜けたか、その理由から聞いたほうが婉曲かつ適切ではないでしょうか。

和彦は頭がいいからか、過程を飛び越してしまったのでしょうね。

重子(鈴木保奈美)は、県人会から破門されるような素行の悪い房子の親戚である暢子は青柳家の嫁にふさわしくないことにしたいだけで。それは素行の悪さではなく恋愛問題であったということなのですが、和彦はそこをすっ飛ばして、いきなり結婚しなかった理由を聞いてしまう。それは早計かと思います。

ただ、これには作者の狙いがあると推測できます。作者は、このエピソードに限らず、何度も和彦のコミュニケーション能力の未熟さを描いているからです。

イタリア人シェフの取材のときは記事の主題について最後まで聞かず、沖縄の遺骨収集の取材のときは、いきなり切り込んで拒否され、「聞き出す」と鼻息荒くして、田良島(山中崇)に叱られていました。重子には手紙で重子の気持ちを受け入れていきたいと記したものの、あまり彼女の気持ちを慮る様子はいまのところありません。極めつけは愛(飯豊まりえ)です。彼女が何か話そうとするたび、遮って自分の話をしていました。

今回は、三郎と房子が結婚しなかった理由。戦後間もなくくらいの頃で、30年くらい経過して、いまだにふたりは気にしながら会わないようにしているのですから、あまりぐいぐい聞くものではないでしょう。三郎が房子のようにいまだに独身であればまだしも、三郎には妻・多江(長野里美)がいるのですから。蒸し返していいか配慮が必要でしょう。

百歩譲って、三郎と房子と多江の幸せのためであればいいですが、「暢子の幸せのため」ですからね……。身勝手ですよね。

暢子は暢子で、自分の幸せのために、お弁当を無理やり重子に作り続けています。

こうまで主人公と相手役を、悪気はないにしても利己主義であるように描くのは、ゆくゆく、
彼らが自力で、他の考え方ややり方があることを気づいてほしいと思っているからだと信じたいです。

自分が思うことと、他者が思うことは違う。それは、房子と三郎の関係にも現れています。

三郎は房子を捨てたため、憎まれていると思い込み、
房子は三郎を捨てたため、憎まれていると思い込んでいます。

房子が三郎を捨てたと思い込んでいるのは、そう思い込まないとやりきれないからという気もしますが(これ「おちょやん」を思い出しますね)、ものは考えようなのです。主観ですから。

この主観こそが厄介です。主観は大事だけれど、主観を曲げずに主張し続けると、おかしなことになります。客観が必要です。1対1で争わず、もうひとり客観視できる人がいると、問題解決しやすいのはそのためです。

恋愛問題に限らず、どんな問題も、当人同士だと勝手な思い込みでおかしなことになってしまうから、問題の本質に到達するにはどうしたらいいか。その誠実な思いが物語にうまく溶け込ませられていないのを感じます。暢子が、フォンターナに入ったばかりのとき、勝手に前菜を醤油味にしてしまったことと似ています。

つまり、作り手のなかではこの物語は狙いどおりだけれど、いつものフォンターナ(朝ドラ)の味が好きな客としては醤油味を受け入れられない。

受け入れられないから、ほんとうなら、三郎がこれまで酒の席でお茶ばかり飲んでいたことに、伏線回収!と喜んだり、優子(仲間由紀恵)が過去の話をして、タイトルバックが優子と賢三(大森南朋)だったとわかったら、サプライズに大喝采したり……するところ、それができない。

自制心のない主人公と相手役を描きながら、作り手自身は驚くほど自制心を強くして、あれこれ指摘されるがままになっている。これはなぜでしょうか。そこが、この混沌とした物語を解く鍵ではないかと思います。田良島に鮮やかに推理してほしいです。


(文:木俣冬)

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