「舞いあがれ!」第13回:日曜劇場のようで日曜劇場とは違う理由
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2022年10月3日より放映スタートしたNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」。
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
本記事では、第13回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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焦げてしもた
なかなか上等なアヴァンでした。【朝ドラ辞典 アヴァン(あばぁん)】アバンタイトル。タイトルバック(主題歌とスタッフ・キャストのクレジットの入った映像部分)の前の短い場面のこと。これまでのあらすじ的なことが描かれたり、ちょっとしたコントのようなものが描かれたりする。掴み、導入部としてのセンスが問われる。
仕事がうまくいかず元気のないお父ちゃん(高橋克典)を励まそうと飛行機づくりに励む舞(浅田芭路)。
飛行機の骨組みを作るため竹ひごを曲げようとするがうまくいきません。この作業をしているのが古書店デラシネ。
舞は火を使って竹ひごを炙り、貴司(齋藤絢永)は読書にいそしんでいます。
子供のたまり場、駄菓子屋的なところがデラシネになっています。
詩書くの楽しい?と貴司が聞くと、八木(又吉直樹)は意外な回答をします。
「しんどい」
ここで八木が語った言葉を全部引き写すのは遠慮しておきますね。ただ、「みんなが船の上でパーティしてるときにおっちゃんは息苦しうなる」と言い、それを乗り越えるために詩を書いているという意味のことを違った表現で話すのです。
社会は船に乗り合わせて航海しているようなものですが、集団でいることが得手ではない人もいるということ、そういう人たちは必死で何かにすがっていて、それが例えば文学だったり芸術だったりします。
貴司と八木の会話を聞きながら、舞は竹ひごを焦がしてしまいます。
ここまでがアヴァン。なぜ詩を書くのかという哲学的なことをまじめに語ったあとのたけひご焦がし。舞は貴司と八木の言葉をたぶん、頭では理解していないでしょう。でも、
彼女にとっての詩は、無心にたけひごを炙るーー飛行機を作る行為なのです。
どんな言葉や願いや景色が君を幸せにするだろうback numberの主題歌「アイラブユー」のなかの歌詞が胸に響く朝でした。
アヴァンから主題歌だけでご飯が何杯も食べられるような回でした。
主題歌明け、お父ちゃんが竹ひごの曲げ方を教えてくれて、念願の遊園地にも行き、飛行機にも乗ります。
夕方、高い場所から、東大阪の町を眺める舞。
「キラキラしてるな」と目を輝かせる舞を見て、浩太はまだ諦めるわけにはいかないと闘志を燃やし、営業に励みます。
日曜劇場「半沢直樹」で主人公が街の光を見おろしながら語った「あの小さな光のひとつひとつのなかに人がいる。俺はそういう人たちの力になれる銀行員になりたい」というようなことを浩太はここでは言いません。
この手の台詞はエンタメでよく使われがちで、この原点は昭和22年に戦後初の新聞小説として連載され、後に朝ドラの原作のひとつにもなった林芙美子の「うず潮」(昭和39年、朝ドラ第4作)ではないかと筆者は思っています。小説にはこういう一節があります。
向こうの、きらめく灯火の下には、それぞれの人の世があり、悲劇や喜劇が演じられているのであろう……
「舞いあがれ!」ではこの手の台詞を大きく省き、でも言葉がなくてもその思いが伝わってきます。その代わり、詩を書く人の気持ちを言葉にしました。そこにこのドラマの特性があるような気がします。
何度も断られた営業先がついに仕事を回してくれました。それは特殊ネジの試作。どこにたのんでも断られている面倒な案件でした。
この営業先の人も決してただの意地悪ではなく、「岩倉さんのとこに仕事を回すことはその工場から仕事を奪うことや」と言っています。
物語にはおおまかに分けて、主人公主体のミクロな視点のもの、世界全体を俯瞰したマクロな視点のものがあり、好みは人それぞれですが、「舞いあがれ!」は後者でしょう。
(文:木俣冬)
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