「silent」第6話レビュー:奈々(夏帆)が見た”叶わぬ夢”が『ラ・ラ・ランド』のようでしんどい
主人公・紬(川口春奈)は突然別れを告げられた元恋人・想(目黒蓮)と8年ぶりに再会。彼は難病により、ほとんど聴力を失っていた……。
音のない世界でもう一度“出会い直す”ことになった二人と、それを取り巻く人々が織り成す、せつなくも温かい物語。
本記事では、第6話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
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「silent」第6話レビュー
紬(川口春奈)と湊斗(鈴鹿央士)が別れ、想(目黒蓮)と二人で会っている関係は継続していた前回。三角関係が早々に終わりを迎え、今後どう展開していくのか気になっていた第6話。
ここ数話でうすうす感じていたが、当初とんでもなく優しい物語だと思ったこの作品は、もしかしたらとんでもなく残酷な物語なのかもしれない……そう感じるような、苦しいエピソードだった。
耳が聞こえなくなり、ひとりぼっちの想に手を差し伸べたのは…
大学時代の想の回想シーンは、見ているこちらもつらくなった。スポーツ推薦で入った東京の大学、親を心配させたくなくてそのまま入学したが、耳が聞こえなくなっていったため「あいつは指示を聞かない」と外され、部活(サッカー部)を辞めることに。
その噂を聞きつけたフットサルサークルのメンバーに声をかけられるが、呼びかけられても気づかず、近くで大きな声を出され(この時点では完全に聞こえなくはなっていない)、陰口を叩かれる。
補聴器をつけて自転車に乗ると警官に呼び止められ、イヤホンを外すように言われる……さまざまな出来事に傷つき、自分が悪いわけじゃないのに謝るくせがついてしまった。
そんなとき、就活セミナーで出会ったのが奈々(夏帆)だった。
別の友達に留学に行ってきて楽しかったと話していて、耳が聞こえないながらもいろいろなチャレンジをして、充実した生活をしていたのであろうことがわかる。奈々は想が自分を見ていたのに気づき、筆談で話す。
(通常このような場合「声をかけた」と書くことが多いのだが、奈々は話すわけではないから不適切だし、表現が難しい)
想は初めて、自分の苦しい胸の内を人に話すことがきた。
同じ「想が苦しみを吐露する場面」でも、1話ラストのどんどん感情が爆発していくような感じとはまた違い、静かに少しずつ、苦しさを絞り出すような演技だった。
「違うのに。ただ、誰かに聞いてほしかった。静かに話だけ聞いてほしかったんです」
「ただ不安だってことを、言葉にできないのが苦しかっただけで」
「声出さないから大丈夫。静かに話聞いてあげられる」
そう書いた奈々。もちろん静かに聞いてほしかった=話さないでほしかったというわけではないだろうが、このときの想には、どんなにうれしいことだっただろうか。
「私は生まれつき耳が聞こえない。でも、幸せ」
「音がなくなることは悲しいかもしれないけど、音のない世界は悲しい世界じゃない」
「私は生まれてからずっと悲しいわけじゃない。悲しいこともあったけど嬉しいこともいっぱいある」
「それは、聴者もろう者も同じ。あなたも同じ」
「同じ」という手話を笑顔で真似した想は、久しぶりに笑ったのかもしれない。
奈々は想にとって、つらい暗闇から救い出してくれた人だったんだ。
紬への嫉妬で、取り乱す奈々が苦しい
回想の奈々は、明るく生き生きとしていて魅力的だった。物語序盤でも想を気遣い、明るく接している場面を何度も見ていた。リュックのチャックをわざと開けておくのがあざといという声もあったが、それも想を好きだからだと思えばかわいいの範疇だし、少なくとも想を優しく見守る味方だったはずだ。でも、想と紬が接近したのを知り、二人でいるところを見てしまい、さらに「話がある」と想に呼び出され、何かと思えば紬とのことを切り出そうとされ、自分の気持ちには気づかれてないと思っていたのに「ずっと気持ち無視して曖昧な態度だったけど」なんて言われてしまった奈々は、もう冷静ではいられなかった。
さすがにそんな言い方をされてしまったらみじめすぎるし、いっそ気づかないふりをしてほしかった。想は基本優しいと思うけど、たまに相手を思ってかえって傷つけるところある。こればかりは奈々がかわいそうだ。
奈々はまくしたてる。
「昔の恋人と昔の親友、想くんと再会したせいで別れちゃったんだ、可哀想だね」
「どうしたの? 手話わかんない? 筆談しようか?」
「あの子(紬)に聞こえない想くんの気持ちはわからないよ」
「18歳で難聴になって23歳で失聴した女の子探して恋愛しなよ」
言ってはいけない、言うべきではないひどい言葉だけど、奈々自身も苦しかったし傷ついたのではなかろうか。
こんなことを言ったり想を傷つけたりしたいわけじゃないけど、言わずにはいられないような状態だったのかもしれない。
恋愛でみっともなくなる自分、恋愛に限らず言ってはいけないことを言ってしまっている自分を痛感するのはしんどい。湊斗が聖人すぎただけで、奈々の反応が普通だよなという気もする。
想は多分それをわかっていて、怒るというより悲しそうな、心配そうな顔をした。
「奈々、よくそういうこと言うよね、自分はろう者だから聴者と分かり合えないって」
そう言った想に「私たち、誰も分かり合えないね」と言ってしまう奈々。
(ろう者は音声言語を取得する前に失聴した人なので、想は現在ろう者でも聴者でもなく、中途失聴者と呼ばれるらしい)
でもこの場合は明確に聴力の差があるけど、そういった差がなかったとしても、相手と全く同じ状況で気持ちをわかるなんて無理に近いと思う。それでも分かり合いたいとお互い歩み寄ることが人付き合いだという気もする。人と人の関係って、難しい。
しんどすぎる、奈々の”叶わない夢”
ショーウインドーで眺めていた、”青いハンドバッグ”を持って歩く奈々。電話がかかってきて、通話する奈々。
……ここで何かおかしいとわかる。だって奈々は、電話できない。
反対側の道に同じく電話をしながら笑顔で歩いてくる想。
奈々と出会ったとき、すでに想はほとんど聞こえなくなっていたから、これもまたありえない。
二人は手をつないで道を歩く。
できないのは、電話をするだけじゃない。
ハンドバッグを持つことも、手をつなぐことも、手話を使う奈々にはできない。
映画『ラ・ラ・ランド』にも出てきたような、「叶わなかったことを見せる」映像がしんどすぎた。
前回の湊斗の回想タイミングもしかり、序盤は「なんて優しい物語なんだろう」と思っていたこの作品が、「なんて心をえぐるような見せ方をするんだろう」とちょっと思ってしまった。
道でばったり会った紬をカフェに連れていく奈々(ええ……)。
紬に手話のことを聞いて「プレゼント使いまわされた気持ち」「好きな人にあげたプレゼント、包み直して他人に渡された気分」と手話で言う奈々。想に手話を教えたのは奈々だった。
奈々だって想が人とコミュニケーションを取るために教えたんだし、実際想が友達がいないのを気にかけて、自分の友達と引き合わせようとしたこともあった。だから、そんなことを言うのはお角違いだってきっと奈々だってわかっている。
でも想は、手話をかなりマスターしてきた頃、奈々に「奈々にだけ伝わればいいから」と言っていた。
実際ほかに友達がいなかったし、奈々が大切な人なのは事実だったのだろうけど、そんな思わせぶりなことを言われたら期待してしまう。ひどい。そんな風に言った手話を、今は紬と話すために使っている。それは奈々にはつらいことだったし、裏切られたような気持になってしまったのかもしれない。
喫茶店を飛び出した奈々は、想とばったり会い、泣きながらスマホを耳に当てるのだった。
一度も言葉を話したことのない奈々が、それでも声がわかってしまうほど嗚咽していてつらい。
しかし、想と出会った頃の朗らかな奈々と、苦しさのあまりひどい言葉をたくさん言ってしまう奈々の表情が全然違って、夏帆の演じ分けに圧倒されてしまった。
これまでのストーリーだと、それなりに楽しそうに見える奈々を見て、同じ聞こえない人でも、生まれつき聞こえない人よりもともと聞こえたけど聞こえなくなった人がつらいのかな? となんとなく思ってしまっていたが、浅はかだった。もともと聞こえない人にも、願っても叶わないことがたくさんあるのだ。
想と奈々、出会った頃と今の対比がつらい
たびたびこの物語で使われる手法だが、今回も対比の使い方が印象的だった。「聴者もろう者も同じ あなたも同じ」という言葉で想を救った奈々が「みんな分かり合えないね」という状況。
「私は生まれつき耳が聞こえない。でも、幸せ」と言っていた奈々が「たまに夢に見る、好きな人と電話したり手繋いで声で話すの。 憧れるけど恋が実ってもその夢は叶わない」と言わずにはいられない状況。
きっと想と会うまでだったいろいろあった奈々が、想を救ってくれた奈々が、想とのことでこんな気持ちになってしまっていることが、しんどいなぁ。
奈々と正輝(風間俊介)の関係が気になる
「聞こえる人と聞こえない人は分かり合えない」という発言や相関図も隣、ドラマ内でも正輝のシーンの後に奈々のシーンが流れるなど、この二人に過去に何かあったと想像していた人も多かったのではないだろうか。次回予告で二人が会うシーンがあるように見え、どういう関係なのか非常に気になるところだ。
奈々にだって幸せになってほしい。
紬と想を素直に応援しづらくなってくる展開
初回を観た後は、この二人がなんとかまたよりを戻せるといいなと願っていたが、湊斗のことや奈々のことを考えると、何となくまっすぐに応援しづらい人も出てきそうだ。少なくとも想はいい人だしなとも思っていたが、今回の奈々への発言(回想含む)はうーんと思うところもあった。紬が想に一方的に「佐倉くんは違う」と告白されてないのに振るみたいな言い方をしたときに「え、何を言い出すの」と思ったけれど、想もほぼ同じことをしていた。湊斗にはさんざん想と会うことなど平気で言っていたのに、奈々と想との関係を気にする紬にももやっとした。
もちろんまたうまくいってほしいと思っているけど、それでもそう思う。完璧にいい人なんていないってことだよな。ちなみに奈々を「唯一二人で会える友達」と言った想に「ねえ俺は? 今二人で会ってるんですけど」と拗ねる湊斗、可愛すぎた。っていうかいい奴だな、湊斗。
想の妹・萌(桜田ひより)の涙がつらい
想の部屋のCDを夫に捨てさせようとする母・律子(篠原涼子)。本人に聞いてからにした方がという夫の意見は最もだ。そこへ「萌がもらう」と言った萌。「お兄ちゃんが好きなの聴かないでしょ」と言われるが、「お兄ちゃんだって聴くから取っておいたわけじゃないでしょ」と言う。律子は想のことを想っているようで、捨てようとしたのは自分がつらいからのようにも見えた。
こっそりCDを運ぶのを手伝ったお父さんに頭を撫でられ、微笑んだ瞬間に泣き出す桜田ひよりの演技がすごかった。当たり前だけど、失調者本人だけでなく、家族の苦しみもあるんだな。
(文:ぐみ)
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