「舞いあがれ!」第30回:舞はなぜ由良の飛行の手伝いをすることを選択しないのか
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
本記事では、第30回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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それぞれの転換期
2005年になり、次の人力飛行機はアイビス号。みんなで研究していると舞(福原遥)は心ここにあらずで、部活動を休みたいと言い出します。航空学校を受験するための勉強とバイトをするためで。由良(吉谷彩子)以外は一瞬、反対しますが、すぐに理解を示し応援に回ります。麗しくも見えますが、由良が飛ぶまではサークルで頑張ろうという滅私の気持ちがないのが意外ではありました。もちろん、他者に気兼ねして自分のやりたいことを諦める必要はないし、舞は由良の代わりに頑張ったのだからお役御免でもいいのかもしれません。が、結果的に空を飛ぶという最高の快感を得られたわけで、その恩返しとして、次に飛ぶ人に協力していくことも大事なのではないかしらとも思いました。飛ぶ鳥、後を濁さず的な。序盤、他人思い過ぎるほどの舞ちゃんだったからこそ余計に気になってしまって……。
なぜそんなに気になるかといえば、部員が少なくなってしまっていたからです。新たな戦力がいれば託せる気がしますが、頼もしい先輩たちが引退して明らかに戦力不足に見えるからです。例えば、眼鏡キャラが3人も。眼鏡差別するつもりはないです。ただ、残った部員6人中、3人が眼鏡で彼らはどうも体力なさそうなんですよ。
心配になるではないですか。
ただ、場合によって、舞がパワー全開、バイトと勉強と部活をやり遂げて航空学校に入ったら入ったで、体力あり過ぎ、こんなになんでもできるわけないと思われますから、苦渋の決断で何かを諦めることに今回はなったのかもしれません。
その頃、貴司(赤楚衛二)は行きつけの古書店デラシネが閉店すると知ってショック。八木(又吉直樹)はなにかに呼ばれたから行くのだと謎の言葉を吐きます。会社ではうまくいかず、頼りの人物と場所がなくなると途方にくれる貴司に短歌を作ることを勧める八木。
嬉しさは
忘れんために
悲しさは
忘れるために
短歌にしてみ
さらにその頃、久留美(山下美月)は、父・佳晴(松尾諭)が怪我して警備会社をやめてしまいます。父子家庭で、ふたりを支えるはずの父が夢を失い経済的基盤ももろく、精神的にも元気がないため、久留美が幼い頃からいろいろなことを我慢して、経済的にも負荷を負ってきました。看護学校の学費はがんばって勉強して学費免除を受けています。ものすごく明るく見えますが、かなり大変なのです。
子供のときは憂いを全面に出していましたが、成長とともに内面を見せないように明るく振る舞う術を知ったのでしょう(勝手な妄想ですけど)。内面を正直に出す人よりも隠している人のほうが忍耐強いし、その分、メンタルにも負担がかかっていると思われます。
そんな久留美が雨のなか、舞を訊ねて来て、相談します。離れている母から連絡が来ているものの久留美はこれまで連絡をとっていないようで、でもちょっと心が揺れています。久留美のお母さんはどうしていなくなってしまったのでしょうね。そしてなぜ久留美はお父さんを選んだのでしょう。
幼馴染の貴司と久留美に比べると、舞は家の工場は経営が順調で、父母の仲もよく、夢にも向かってまっしぐらできる環境は整っています。部活もかなり充実していますし……。
おまけに、サークルの由良も舞と比べてついてないことが多いです。
主人公は恵まれていて、その他の人たちは恵まれていない。物語ではどうしてもそういう図式になりがち。そうならないために、お父さんは困った人に設定して、主人公が奮起する契機にするパターンがあったわけですが、お父さんが困った人だと視聴者がしんどい気持ちになるからか、主人公ではない人物のお父さんに悩みを背負わせるパターンが「おかえりモネ」や「舞いあがれ!」です。そうなったらそうなったで、主人公が恵まれ過ぎている!となるので、どうすりゃ良いんだ? と作り手はいつも悩ましいことでしょう。
【朝ドラ辞典 壁(かべ)】朝ドラに限ったことではなく、物語にはたいてい主人公の進路に壁が立ち塞がる。それを乗り越えることがドラマになるから。ただ、朝ドラではとてもわかりやすい書き割りのような壁が出てきがち。
類語:試練、悩み、進路
(文:木俣冬)
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