「舞いあがれ!」長年工場で働いてきた章との別れに涙<第65回>
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
本記事では、第65回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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とてもしんみりした回でした。仕事はじめ2日目、どうしていいのやら……。
リーマンショックで経営難に陥っている実家のために舞(福原遥)はなんとかしたいと思っていますが、兄・悠人(横山裕)は、いずれ航空会社に勤務して
工場を継ぐわけではないのだから、無責任だと指摘します。なんてドライな悠人。でもこれも真理で、実家の工場の問題に限ったことではなく、世の中ではこういう問題がつきまといます。誰かが困ったとき助けたい気持ちはあるけれど最後までつきあえるか問題です。とことんつきあえないと中途半端と逆に批判されたりともすれば偽善とまで言われることもあります。被災地に関しても、何かしらのボランティアに関してもこういうことが往々にしてありますね。
落ち込んだ舞は柏木(目黒蓮)に国際電話します。遠距離の恋人の声を聞くだけで励みになる……のでしょうか。工場の状況を考えると、遠い恋人ということすらうまくいかない状況の暗喩のように思えます。ひょっとして柏木って寂しさの概念?と思えてしまうほどです。紅白歌合戦では福原遥さんと目黒蓮さんが主題歌を歌うback numberを紹介していたのですが。
「研修中だけどいろいろ学んでる」、うーん時間がなかったのかな、このセリフ。もうちょっと具体的な学びのワードがあったら良かったのに。
新規の仕事の可能性が出てきたものの、いよいよ会社の状態は悪く、さらにリストラが必要と追い込まれていく浩太(高橋克典)。社員たちはいつ首を切られるか戦々恐々で、社員の山田(大浦千佳)はまたしても舞にきつい嫌味を言います。でも舞は別に給料をもらっているわけではないと思うのですが、ほかに当たる人がいないから、社員のストレス緩和ーーサンドバッグの役割も舞に課せられた仕事なのかもしれません。舞が意地悪言われても山田に気遣い話しかけるのは自分の任務がわかっているからなのかもとフカヨミ。
そうこうしていると、初期メンバーの章(葵揚)が他社に行くと言い出します。以前からあやしい電話がかかってきていましたし、子供が3人いるので
仕方ないのです。こういったエピソードでよくありがちなのは、こんな状況での裏切りですが、そこまでひどい話にはなりませんでした。いや、むしろ、章はちゃんといい仕事をして会社に報いてから辞めるのです。先に船から降りる側にも正当な理由があり、共に働いてきた者たちの情は変わりません。浩太は残念がりつつも章を送り出します。
「もう一緒に働かれへんちゅうこっちゃ」「おまえがいてくれへんようになったら寂しいわ」とどこまでも人情派の浩太。「寂しい」とか言わず明るく見送ればいいのにとも思いますが、ストレートに「寂しい」と言ったほうが泣ける場面になるという作り手側の判断でしょう。
そんなに一緒に働きたい、あるいは人を辞めさせたくないと思うのであれば、
いっそ会社をいったんなくしてしまえばいいのではという気もしないではありませんが。悠人はそういう発想だと思います。一方、従業員全員仕事をなくすよりはリストラがまだマシなのではないかというめぐみ(永作博美)の発想(一応辛そうではありましたが)。ちょっと待て。切られる側にしてみたらたまったものじゃないですよ。お金がないよりも不要だと思われることは最高にきついですからね。人がほんとうに死ぬのは忘れられたときという言葉がありますが、不要な人として選ばれたのは死んだも同じですから。なんてことを思う視聴者もいるから、お話を作るのは難しいものです。
弱った浩太に、いざとなったらお好み焼きを一緒にやろう、「うめづいわくら」で漫才でもという勝(山口智充)の笑いにくるんだ人情と、なんといっても章がいい仕事を残して辞めていくことです。切られると愚痴るより、こういうほうが断然気持ちいいです。
【朝ドラ辞典 紅白歌合戦(こうはくうたがっせん)】その年の朝ドラに出た俳優が紅白になんらかのゲストで出るのは恒例。司会や審査員や主題歌を歌ったアーティストの紹介をしたり。「あまちゃん」や「ひよっこ」などは出演者総出で大掛かりな寸劇を行った。
(文:木俣冬)
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