「舞いあがれ!」会社畳む→潰せへんの急展開は朝ドラらしい<第69回>
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
本記事では、第69回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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お父ちゃんのノート
社長代行になったものの、経営がうまくいくとは思えないため、めぐみ(永作博美)は会社を畳むことにしました。社員はそのまま雇ってもらえるように工場を買って残してくれるところを探します。そんなふうにうまくいくかどうか……。諦めきれない舞は、パイロットになるべきか、工場を守るべきか、悩み続けます。柏木(目黒蓮)の言うようにパイロットの夢を諦めないでほしいと願う久留美(山下美月)と「トビウオは水のなかにおってもトビウオや」と言う貴司(赤楚衛二)。ここでも2択で、心が決まりませんが、浩太の残した「歩みノート」を読んで心が動き、悠人(横山裕)に投資してほしいと頼みに行きます。が、悠人は頑なで……。
浩太(高橋克典)と喧嘩したまま二度とあえなくなったと傷をえぐる舞に向けた、悠人の険しい表情が印象的でした。やっぱり気にしているのでしょうね。
信用金庫が視察に来る日、めぐみと舞が工場を掃除するために早めに出勤すると社員たちが工場の掃除をしていました。この工場にこんなに人がいるのはじめて見ました。たぶん、これが通常なんでしょうけれど、いつもはそんなに人を入れて撮影できないのでしょう。
亡き浩太の心・「ええ仕事は機械の手入れから」をみんな引き継いでいる社員たちの明るい表情に、信用金庫の人たちも活気があると好印象です。
逆にそれでめぐみはやっぱり会社を続けるという気持ちになってしまいました。失いかけたものが惜しくなる気持ちは誰しもあるもので、だから断捨離は進まないわけですが会社という大きなものをやっぱり続けると決断することはかなりヘヴィーです。
この大きな決断ーー畳むから続けるまでが、まるで部屋の断捨離の「捨てる」から「残す」箱に入れ替えるように、15分の間に展開するストロークの短さは朝ドラならではです。いやむしろお金がからむ問題はじつはスピードが命、待ったなしなのでしょう。ゆっくり考えている時間はないのです。
めぐみが華奢で小柄なので大丈夫か心配になりますが、祥子(高畑淳子)が亡き父の職業・船を引き継いだわけは「あん船に乗ればいまもまだふたりで働いちょる気がすっとさ」と、父を忘れないためであった話を聞いて強く影響されたのでしょう。
夢に向かうとか、誰かのためにとか、前向きな話ではありますが、亡くなった人のことを決して忘れないという思いもこのドラマにはそっと織り込まれています。これこそが朝ドラだなあと感じます。
(文:木俣冬)【朝ドラ辞典 田舎から誰か来る(いなかからだれかくる)】朝ドラでは主人公の地元からはじまって上京してセカンドステージとなる。ご当地ドラマの側面もあるので主人公がたまに地元に帰るエピソードが不可欠。あるいは、地元(田舎)から遠路はるばる親や幼馴染が上京してくるというエピソードも。「舞いあがれ!」では祥子が浩太の死をきっかけに上京してきて、めぐみや舞や悠人に重要な言葉を投げかけて帰って行った。
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