ゆっきゅんがDIVAになる前に出会った『おとぎ話みたい』(山戸結希 監督)という“奇跡”
一本の映画が誰かの人生に大きな影響を与えてしまうことがある。鑑賞後、強烈な何かに突き動かされたことで夢や仕事が決まったり、あるいは主人公と自分自身を重ねることで生きる指針となったり。このシリーズではさまざまな人にとっての「人生を変えた映画」を紹介していく。
アイドルユニット「電影と少年CQ」の活動と並行しながら、新世代「DIVA」として歌い、踊るゆっきゅん。チャーミングでポジティブで、そして自分らしく生きるDIVAにとって、心の指針となる映画とは?
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『おとぎ話みたい』
気鋭の映画監督とミュージシャンがコラボレーションする映画祭「MOOSIC LAB 2013」に向けて制作されたのが本作。監督はこの作品の後、『溺れるナイフ』などを手掛けた山戸 結希、音楽は4人組ロックバンド・おとぎ話。趣里が演じる田舎に暮らす高校生の高崎しほの初恋を描く。配給:寝具劇団
自分のための映画なんて、ないと思っていたのに
私が東京に出てきた理由は、地元では上映されなかった『おとぎ話みたい』を映画館で観て、上映会でもブルーレイでも何度も繰り返し観て、いつまでも新しくたくさんの感情に出会える人間になるためだったのかもしれない。そう思えるほど、私にとってこの映画は、8年前に観たときから変わらず自分の支柱にあるようでもあり、たった今の最先端にあるような気もする、特別な作品だ。セリフ覚えちゃった。上京してダンサーになることを夢見て、同級生にはまるで興味がない高校3年生高崎しほ。踊りを褒めてくれた出戻り文化人の社会科教師に数ヶ月恋焦がれる高崎しほ。詩的な感情言語の奔流をモノローグでもセリフでも止めることのない、頭も心も体もバッキバキに冴えっぱなしの高崎しほ。
この作品や主人公についての冷静な批評がどうもピンと来なかったのは明らかに、私自身の高崎しほ性が強すぎるからであった。「自意識過剰な女の子を描くのが上手い」とか言われてるのを見て、マジかみんなはこんな感じで生きてないんだ、って初めて知った。自分のための映画なんてないと思っていたのに。とはいえ『おとぎ話みたい』は共感芸術だったのではなく、共感を平気で超えてゆくスピード感と飛躍する角度があった。直接言わないだろそれは、ということまで全部言葉にするのだ、高崎さんは。
どうしても何度も出会い直したくて、大学生の頃、時折開催されていた山戸映画の上映会には出来るだけ通った。監督の思考や問題意識や言葉を走るように追いかけた。今よりずっと若かった私は初めから「わかるー」って思ってたんじゃあなかった、でもわかりたかった。今の自分にはこれが必要ってことだけわかっていた。批評誌『ユリイカ』で山戸特集が組まれるよりも前に山戸結希についての卒業論文を書いたこと、これで私はしょうもないマウントを取り続けるだろう。知性も才能もある女の子の孤独を歌った歌がこの世に足りてないと思って、山戸映画の血液を滾らせながら『NG』という歌さえ書いた。卒論なんかよりずっといい出来だった。だからこれからは批評自体よりも、自分の批評的実践に賭けてみようと思ったのだ。
卒業式を抜け出して屋上で先生への愛の言葉を語り叫びながら踊るクライマックスは、バンドおとぎ話の音楽、趣里さんの身体と声と言葉、美しいショット、山戸監督の映画および観客への祈りの全てが奇跡的に絡み合っていて、やっぱり今までに観た映画のシーンで一番好きだ。この映画に胸を張っていられるように居たい。まだまだ懐かしくならない恥ずかしい切迫を感じられる自分であり続けたい。
(文・ゆっきゅん)
Profile
ゆっきゅん
DIVA
1995年岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。歌姫と映画を愛するBRAND NEW DIVA。 サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」の活動と並行して、2021年からセルププロデュースによるソロ活動「DIVA Project」を始動。最新EP『YETA』好評発売中。
Twitter:@guilty_kyun
https://nex-tone.link/A00110504
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