進化を続ける松山ケンイチの魅力|“らしさ”が作るコントラスト
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いいのか悪いのか、声が良すぎて、そして滑舌が良すぎて脳に直接、言語が飛び込んできたような気がして驚いた。そんな体験をした大河ドラマ「どうする家康」でのワンシーン。そこに映っていたのは松山ケンイチが演じる本多正信の姿だった。
2002年にドラマ「ごくせん(第1シリーズ)」で俳優デビューして以来、着実にその実績を重ねていっている松山ケンイチ。
多くのドラマや映画に主演。大河ドラマ「平清盛」でも主演を果たしている。その“すばらしさ”を改めて語るのは野暮かもしれないが、過去の作品や最新作から改めて俳優・松山ケンイチの魅力に迫ってみたい。
実写化作品での再現度の高さ
あなたの松山ケンイチはどこからだろうか?私は例に漏れず映画『デスノート』でのL役だ。
特徴的なビジュアルに独特な雰囲気。映画実写化で、ファンとしてはLがどのように描かれるのかが注目のポイントだったのではないだろうか。Lの猫背な感じ、物の持ち方。その姿を観ただけで息を呑む存在感。役に対する研究と、どうやって役の癖を染み込ませたのか、その背景が透けて見えるような気がした。
その後も、漫画や小説の実写化に数多く出演しており、そのたびに再現度の高さに驚かされる。演技力だけではなく、そのビジュアルに持っていくまでの努力、そして原作へのリスペクトがあるからこそだろう。
アクションの鋭さ
松山ケンイチといえば、大河ドラマ「平清盛」を思い出す人も多いだろう。時代ものにも多く出演しており、過去には『清須会議』『関ヶ原』などがある。©2009 「カムイ外伝」 製作委員会
実写化と時代劇(と言っていいのか分からないが)という点では映画『カムイ外伝』での主演だ。貧しさから伊賀の忍になるが、自由を求めて抜け忍となったカムイを演じている。
伊賀の追い忍たちとの戦いの直後に領主の水谷軍兵衛(佐藤浩市)の愛馬「一白」の足を切り落とした漁師・半兵衛(小林薫)と出会う。そんな半兵衛が住む島にたどり着いたカムイは、半兵衛の妻として同じ伊賀の抜け忍・スガル(小雪)がいた。半兵衛たちと暮らしを共にしているうちに、家族としての情を感じていくようになっていき……。
©2009 「カムイ外伝」 製作委員会
追われる立場としてのスリリングな展開はさることながら、アクションが凄まじい。ワイヤーアクションも見どころではあるが、やはり殺陣だろう。スローモーションと、光の具合からよりそのアクションが際立たせられる。そんな中で松山の強さが感じられる殺陣が光る。
カムイとしての若さと迷い、怒りがときどき剣に出てくるように感じられるのがセリフ以上に雄弁だ。20代としての松山ケンイチの若さもにじむ雰囲気も、ある種ターニングポイントに感じさせられる部分がある。
落ち着いた松山ケンイチのカラー
100万回 言えばよかった」(c)TBS2020年から2023年にかけても松山ケンイチ出演作品が目白押しである。
2023年はドラマも「100万回 言えばよかった」と大河ドラマ「どうする家康」に出演。本作ではどこかつかみどころがない本多正信を演じた。家康(松本潤)が重要な役目に起用しようとすると、家臣勢からは「イカサマ師じゃ!」「悪知恵ばかり働かせる!」と言われ反対される始末。
しかし失敗を経つつも、家康の望みに応えてみせる。その直後に、正信は一向一揆で家康の敵側の軍師に。それに伴って正信の過去が明らかになる。第9話はまさに松山ケンイチ回。正信の緩急がそのまま物語の緩急になっていく。食えない感じと、魂でぶつけられる本音が、作品の中の相手役だけではなく、視聴者の心を揺さぶる。
この感じがどこかであったな、と思いついたのは「日本沈没-希望のひと-」だ。主人公の天海の親友であり、海底資源採掘事業「COMS」推進のための「日本未来推進会議」議長・常盤という役どころ。ノリが良くて、天海に対して親友としてアドバイスしつつも本音が見えない。敵か味方か、天海だけではなく視聴者もどちらなのか分からず、惑わされる。だからこそ、その存在から目が離せなくなる。
近年の作品に感じられるのは、「松山ケンイチらしさ」が作品の色により強く反映されていること。当然に思えるとはいえ、主演であるとその“らしさ”がより顕著になると感じた。
©2023「ロストケア」製作委員会
ナチュラルな「松山ケンイチ」が作品の中にいるのに、作品によって、その色を変える。きっと松山ケンイチの役者としての進化であるだろうし、「らしさ」をどのような作品に反映されるかによって自身の変化も感じられそうだ。
(文:ふくだりょうこ)
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