使った血糊は2.5t以上! 話題沸騰中の韓国映画『オオカミ狩り』キム・ホンソン監督インタビュー
そんな韓国アクションに、これでもかと大量の血が流れる新たなハイテンションムービーが加わった。その名も『オオカミ狩り』(4月7日公開)。フィリピンから韓国へ向かう犯罪者集団を乗せた移送船を舞台に、警察や“怪人”まで入り乱れての監獄バトルロイヤルが勃発する。
今回CINEMAS+では、日本でも話題沸騰中の『オオカミ狩り』を手掛けたキム・ホンソン監督にオンラインインタビューを敢行。最初に日本語で「はじめまして。よろしくお願いします」と丁寧な挨拶が飛び出したホンソン監督から、作品にまつわるエピソードをじっくり聞くことができた。
※こちらのインタビューは、一部ネタバレを含みます
『オオカミ狩り』の着想は実際の出来事から
──本作は警察、犯罪者、さらに怪人まで出てきて船内で戦うという、これまでにないシチュエーションでとても面白かったです。まずは制作のきっかけについて教えてください。
キム・ホンソン監督(以下・監督):そのように言っていただきありがとうございます。前作の『メタモルフォーゼ/変身』(2019年)という作品を撮ったあと、私は「何かアクション映画を作りたい」と考えていました。それもただのアクション映画ではなく、まるで生もののようにリアル感満載で、いままでに見たことがないような作品を撮りたいなと。
そうやって構想を練っている時、たまたまニュースで2017年に韓国で罪を犯してフィリピンに逃げた47人の犯罪者を韓国の刑事が捕まえたという情報を目にして。普段からニュースを見るのが好きでよく見ているのですが、その情報を知って非常に興味深いと思いシナリオを書き始めましたね。
ただそれだけだと1990年代の『コン・エアー』のような、少しオールドな感じの映画になってしまう。そこで何か付け加えようと考えていたところ、ある新聞に第二次世界大戦の時に生体実験がおこなわれていたという記事があったんです。じゃあこのふたつを組み合わせて、想像力を働かせながら何か新しい物語を作っていこうと進めた結果、『オオカミ狩り』のシナリオが出来上がりました。
──実際にあった出来事をモチーフに物語を組み立ていったのですね。
監督:もちろん内容は違いますけどね。アイデアをそこに持ってきたわけです。
“運命的”なソ・イングクのキャスティング
──狂気ほとばしる犯罪者ジョンドゥ役に、日本でも人気の俳優ソ・イングクがキャスティングされています。彼を起用した理由を教えていただけますか。
監督:私自身これまでソ・イングクさんの出演作をよく見ていたので、いつか一緒に作品を撮りたいとは思っていました。その矢先にこの『オオカミ狩り』のプロデューサーとイングクさんの事務所の代表が兄弟のように親しいということがわかって、それでシナリオを渡すことになったんです。
もう少し経緯を説明すると、私としてはイングクさんと一緒にやりたくても、彼はドラマの準備できっと忙しいだろうと思っていました。だからはじめはシナリオを渡すつもりはなかったのですが、プロデューサーと代表が親しいなら渡してみようということになって。わずか2日後には全部読み終えて「出演します」と言ってくれました。『オオカミ狩り』のシナリオとキャラクターを気に入ってもらえたようで、本当に運命的なキャスティングになりましたね。
それにちょうどイングクさん自身も、強烈なキャラクターを演じたいと思っていたようなんです。これまで彼が演じてきたのはいわゆる善人、良い人の役ばかりで、ヴィラン(悪役)を演じたことはなかったですよね。ジョンドゥを演じることによってイメージ認知に繋がったり演技の幅が広がるので、それは本人にとっても良いことだし、私自身もぜひ彼に出演してほしいという気持ちがあった。だからお互いにとって、ウィン・ウィンの良い結果になったと思います。
──ジョンドゥという名前には「名無し」という意味がありますが、どういった理由でキャラ名にしたのでしょうか。
監督:確かにジョンドゥという呼び名には「身元不明の死体」「名前がない」というような意味が含まれています。でもじつは今回のキャラ名についてはその意味ではなくて、少し古い名前をつけたかったのでジョンドゥにしているんですよ。
映画では描かれていない前日譚として、私の中ではジョンドゥの過去についても考えがあります。ジョンドゥ自身はいわゆるチンピラで、その世界に生きてきた人物。そのジョンドゥの父親がもともと全国区のヤクザであり、そういったヤクザの父親がつけるような名前にしたかったというのが理由です。韓国での「ジョンドゥ」には“洗練されていないちょっとダサい名前”という印象があるので、この名前を選びました。
怪人をつくり出した現実の恐ろしい出来事
──犯罪者集団に加えて途中から怪人も参戦してきますが、キャラクターを創造するにあたってモチーフや参考にしたものはありますか?
監督:私の場合シナリオを書いている最中やプリ・プロダクション、撮影中、あるいは作品を公開するまで他の作品はいっさい観ないようにしています。他の作品を観て、そこから何か影響を受けてしまうのが嫌で。ただ今回の怪人──私たちは怪人αと呼んでいます──をつくる上で何か影響があったとしたら、これも実話からになります。
先ほど第二次世界大戦の頃に生体実験がおこなわれていたとお話しましたよね。調べてみたところその実験というのが、たとえば目をずっと隠した状態、目が見えないように閉じたさせた状態が長く続いた後に視力がどうなるか調べるというもの。あるいはがん細胞を敢えて体に植えつけてがん細胞がどうなるかを見たり、他人の体をつなげた場合に果たして体は動くのか、といった実験がおこなわれていたそうなんです。
それを知って、「だったらその時に生体実験を受けた人物が100年後に果たしてどうなっているのだろう」と考えてつくり出したキャラクターが怪人α。体は腐っていたのだろうか、目はどんなふうに変化していたのだろうか、といったことを考えながら特殊メイクチームとデザインしていきました。
じつは一番最初につくったデザインというのがあまりにもグロテスクすぎて、ちょっと直視できないくらいのビジュアルだったんです。けれど商業映画として制作するわけですから、そこまでグロテスクだと困ったことになるぞと。それで少し純化させて、目で見られるような姿につくり変えています。
そうやって想像を働かせていたので、怪人αをつくる際に何か直接的に参考にしたものはありませんでしたね。もしかしたら無意識のうちに過去の作品からなんらかの影響を与えられたところはあるかもしれないけれど、少なくともデザインする上で参考にしたものはなかったです。
「これ以上は撮らない」と決めていたこと
──本作はとにかく血の量、出血量がすごかったですね。いったいどれくらいの血糊を用意されたのでしょうか。
監督:まず今回はふたつの種類の血糊をつくりました。ひとつは私たちが「1番の血」と呼んでいたもので、人の体に入ってまた出ていく血糊。たとえば口の中に入れておいて口から吐き出す血ですね。もうひとつ、「2番の血」と呼んでいたのが銃弾を浴びた時など体から出てくる血です。
そのふたつはつくり方も違っていて、1番の人体に入ってまた出ていく血というのは今回新しく独自につくったものです。おそらくいままで韓国ではつくられていなかった血だと思いますよ。これは非常にきれいな水に砂糖を入れて、食べてもいい着色料を混ぜながらつくりました。
ちなみに1番の血は特殊メイクチームがつくっていて、2番の血は特殊効果チームがつくったもの。これは決して食べてはいけない血になります(笑)。
量については特殊メイクチームがつくった1番の血は正確にわかっていて、2.5t使いました。なぜ正確な数字がわかったかというと、血糊を入れておく筒状の入れ物があって、中に入れられる量が決まっていたからです。その入れ物の数を数えて計算したら2.5tという数字が出てきました(笑)。2番の血はどれだけ使ったのかわからないのですが、NGになったものも含めて、撮影期間中に使った血糊は1番の血だけでそれだけの量になります。
──すごいですね(笑)。そのように出血シーンや凄惨な場面が多く描かれていますが、監督の中で「これ以上はやめよう」というリミッターは決めていたのでしょうか。
監督:これ以上は撮らないと限界を決めていたところはありましたね。この映画は単なるホラー映画ではなくて、あくまでも見せたいのは非常にリアルなアクション。私たちの間では「ハイパーアクションホラー」あるいは「アクションハイパーホラー映画」と呼んでいましたが、そのためにはコアな映画にしてはいけないので、「内臓が飛び出る描写はやめよう。内臓が見える画面は排除しよう」と決めていました。
ただ結局のところ削除することになりましたが、じつはエンディングのあたりでワンカットだけ内臓が飛び出るところを一度撮ってはいるんですよ。限界を決めてはいたものの、その時はちょっと強烈なものも試してみたくて。トライしてみたけれど全体の流れと合わなくて、やはり内臓が見えないものにしようとなってそのカットは使わないことになりました。
ですから私たちが決めたリミットというのは、人間であれ動物であれ内臓を見せないことが基準になっていますね。
──最後の質問になりますが、『オオカミ狩り』も含めた韓国映画、とくに近年の韓国アクション映画の完成度の高さと熱量には驚かされるばかりです。面白いものをつくる秘訣のようなものがあるのでしょうか。
監督:そのように言ってもらえて嬉しいです。ただ、それは難しい質問ですね。というのも監督によってカラーが違うし、韓国映画の中にも良い作品があればちょっと残念かなという作品もあります。それは日本も同じかもしれませんよね。濱口竜介監督や黒沢清監督のように完成度の高い作品があるし、そのおふたりの作品以外でも完成度の高い映画はたくさんあります。
もしかしたら「韓国映画がすごい」と思ってくださるみなさんが、韓国映画の良いものを選んで観てくれているのかもしれないですね。韓国映画にだって残念な作品はたくさんあるので、みなさんに“作品を選ぶ眼”があるのだと思いますよ。
(取材・文=葦見川和哉)
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