映像業界の働き方

SPECIAL

2023年04月28日

「みんなが夢を持って参加できる場所にしたい」│内山拓也 監督の働き方とは? 

「みんなが夢を持って参加できる場所にしたい」│内山拓也 監督の働き方とは? 

シリーズ「映像業界の働き方」では、映画、ドラマ、MV、CMなど、さまざまなメディアで活躍する人の“働き方”にフォーカスを当てます。

第一回目に登場するのは映画『佐々木、イン、マイマイン』で映画業界に強烈な印象を与え、またKing Gnu『The hole』のMVで世に名前を知らしめた内山拓也 監督。

まずはご自身の働き方の話からスタート。後半では内山 監督も参加する〈action4cinema / 日本版CNC設立を求める会〉活動の話や、業界全体のより良い未来についての話にも触れていきます。

誰にでも話せる雰囲気にしたい

内山拓也監督

ーーまずは内山監督ご自身の普段の働き方についてお伺いします。1日にどれくらいお仕事をされていますか?

内山拓也(以下、内山):僕は限りなくシームレスに生きてるので、 明確に何時間、ということはないですね。朝起きてぼんやり考え始めて、 寝る瞬間まで、というざっくりしたくくりで生活しています。それでもご飯のタイミングでちゃんと一息つけるようにしています。

ーーそうなるとオンオフの切り替えは難しそうですね。プライベートと仕事は意識して分けてはいないのでしょうか。

内山:ちょっとずつ、だらだらしないと続かない性格なので、明確に集中して頭を切り替え作業することは撮影期間以外は少ないです。今でも、朝起きたら絶対にスポーツのハイライトを全部見ないと気が済まないですし、作業しながらも別のモニターにサッカーや格闘技、野球、ボクシングなどとにかくスポーツを映しているなんてこともざらにあります。

ーー今の働き方はご自身に合っていると思いますか?

内山:そうですね。ただ自分で決められる分、ちょっと仕事を詰め込みすぎてしまうこともありますが。

ーー監督業となると、他のスタッフをどうマネージメントするか、どう接するかを考えなければいけない立場でもあります。その上で、内山監督が現場で心がけていることはありますか?

内山:ほとんどの現場は、プロデューサーと監督の采配にかかっていると思います。ですが、そこで、監督もプロデューサーやスタッフにお願いや相談をする立場だということを、お互いに理解し合わなければいけません。独裁的な監督もいる(いた)かもしれませんが、そこにはらんでいる潜在的な権力構造には自覚的であるべきだと思います。勿論、作品をつくる上で意思決定をし、全体を引っ張っていくリーダーは必要ですが、権力の勾配は出来る限り小さくすることに努めなければいけません。僕の場合は、監督は調整係だと思っているので、ヒアリングをしながらなるべくみんなで話し合うようにしています。行動としての心がけでいえば、助手の方を含め、「なんでも言ってね」と喋りかけるようにしています。なるべく縦割りや横割りのような組織構成を取っ払いたいと思っていて、全員が誰にでも話せる雰囲気にしはしたいと思っています。


ーーそれに対して現場のスタッフの方々からの反響はありますか?

内山:日本の映画業界は時間と予算にかなり制約を受けているので、今すぐに革命的なことを起こすのはまだまだ難しいと感じています。コミュニケーションによって劇的な効果を出すには限界がありますが現場を初めたばかりの若手のスタッフから言葉をもらう機会が増えて、それでみんなで作品を創作していけるなら意味はあるのかなと思っています。仕事以外にもプライベートの悩みを相談されることもあります。その際は出来る限りのことはして、なるべく寄り添えたらと思っています。それは、自分が相談者側の人間だったので、その時に苦しかった気持ちがわかるから。

ーー苦しかった気持ちというのは、映像の仕事を始めた頃にご自身が現場で感じたことですか?

内山:言えないことも多いですが、ディテールをオブラートに包んでお話すると、暴力を振るわれるとか、罵声を浴びせられるとか。きっと僕に嫌なことをしてきた人も、以前自分が同じ目に遭ってきたのだと思います。僕はそれを断ち切りたいです。いちスタッフを人間として扱わないような対応はしてはいけないと思います。その人の有限な時間を使って参加してもらっているということはしっかり考えなくてはいけない。自主映画を撮り始めてからはそのことをかなり意識するようになりました。

ーー自分が苦しい思いをしながらも、あとに続く人にも同じような苦しみを与えてしまう。悪しき習慣はどの業界にも根深く存在するものだと思います。

内山:みんなが習慣を断ち切る方法を知らない、ということもあるのかもしれません。特に日本においては。何かを訴えても、それが変わる歴史があまりなかったから。運動や訴えを起こして勝ち取った、という成功体験が少ないんですよね。そのマインドセットが受け継がれているから、基本的には「しょうがない」と思ってしまう。でも、きっと何か少しでも新しい発見があれば、「これっておかしい」「こう変わらなければいけない」という気づきはあると思います。そのあたりはものづくりにおいて僕も一番考えていることなのですが、時間と多くの労力がかかることだなと思っています。

ーーデモやストライキが冷笑されたり、それらに参加している人をあまりよく思わない人が多いのもそこに原因があるのだと思います。当時は苦しさを誰かに共有していましたか?

内山:根本的な相談はほぼできていなかったです。当時は特に自分の中に閉じ込めてしまっていて、それで身体を壊したこともありました。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!