「かしましめし」第3話:足元が良い道、悪い道を交互に進む千春たちをつなげるチュクミ
おかざき真里の同名漫画を原作としたテレビ東京のグルメドラマ「かしましめし」が放送スタート。前田敦子、成海璃子、塩野瑛久が演じる、人生につまずいたアラサー男女3人がどんな日も美味しく“かしましく”ご飯を食べる模様を映し出す。
本記事では、第3話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
「かしましめし」第3話レビュー
©「かしましめし」製作委員会このドラマは、千春(前田敦子)たちに良い時も、悪い時も無作為に訪れるのがいい。
ナカムラ(成海璃子)がお花見でナンパされた田口(倉悠貴)と会社で運命的な再会を果たした時、英治(塩野瑛久)は突然家に戻ってきた浮気者の恋人・辰也(吉村界人)にお金をせびられて心をすり減らしている。一方、千春は新たな仕事が舞い込み、迷いの最中にいた。
フィクションだと仲の良い友達同士に同時に危機が訪れ、同時にそれを乗り越える……みたいな展開になりがちだけど、現実は違う。自分の調子が悪い時は、往往にして友達の調子が良い。
そうなると、“隣の芝生は青い”なんて言うように、友達を羨ましがったり、勝手においていかれた気分になって寂しくなったりする。自分の調子が良くて、友達の調子が悪い時のことは棚に上げて。
©「かしましめし」製作委員会
ある日、千春たちがルームシェアする家に初めての客人がやってくる。3人と同じ美大に通っていた同級生のキクヨ(ラランド・サーヤ)だ。
千春とナカムラは買い物中、キクヨが表紙になっている雑誌を見つける。在学中から目立つ存在だったキクヨは己の道をまっすぐに突き進み、今や世界で活躍する現代アーティストになっていた。
人に対して成功とか失敗とか言いたくはないし、そもそも成功も失敗もないのだけれど、あえて記述するのであれば“美大生の成功例”みたいな人。もし自分が美大出身だったら、きっと眩しくて見てられない。
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そんなキクヨが雑誌から飛び出し、突然千春たちの家にやってきた。そして、そのまま一緒にチュクミ、いわゆる韓国式のイイダコ鍋を囲むことに。
すると、どうだろう。“成功した人”というレッテルを貼って心のどこかで自分から遠ざけていたキクヨが一気に近い存在となる。自己プロデュースのために被っているかつらを脱ぎ捨て、会社員のナカムラと変わらない愚痴をこぼすキクヨ。
そうそう、そうなのだ。いわば、雑誌に載っている彼女は私たちにとってインスタグラムの中にいる友達みたいなもの。今の時代、誰しも“人に見せる用の自分”と“人に見せない用の自分”を持っていて、人に見せる用の友達を見て圧倒されることが多いけれど、人に見せない用の友達に会った途端にその人の印象がガラリと変わったりする。
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キクヨが自分の憧れた会社へ就職できた千春に少なからず嫉妬していたように、案外自分も誰かに羨ましいと思われているかもしれない。悲しいかな、私たちは他人を比べて自分にがっかりしたり、逆に誇らしく思ったりもする生き物だ。
けど、例えば何事も笑ってやりすごす英治が、常に冷静で淡々としているナカムラが、心の奥底で抱えているものをこうしてドラマにしたら見ることはできるけど、私たちの日常はドラマじゃないから見ることができない。
キクヨの気持ちを千春は知ることができたけど、あの短い時間の中では自分の憧れた会社に就職した千春がパワハラを受けて退職し、今でもフラッシュバックに苦しめられているなんて事実をキクヨが知ることができないのもまたリアルだ。
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他人のすべてを知ることはできない。それでも知れる部分だけを見て勝手に羨ましくなったり、寂しくなったりもするけど、どこかで千春が言うように「みんな等しく道の途中」だということを覚えておきたい。
そして、たまにはそれを実感できるよう、一緒に食卓を囲み、一年を取る度に道の途中にいる自分たちをお祝いしよう。そうすれば、きっとまた前に進んでいけるから。
冒頭、恋人にすり減らされた英治の心は、美大の同級生・榮太郎(若林拓也)との再会で再び満たされる。良い時も悪い時も等しく人には訪れる。だから、悪い時は支え合い、良い時は喜び合って、みんなで生き延びていけたらどんなにいいだろう。
(文:苫とり子)
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