4：フック船長もまた、大人になれなかったのかもしれない

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後半では、かつては親友同士であったピーターとフック船長それぞれの、愛憎入り混じる関係性が描かれる。何しろ、子どもの頃のフック船長は母に会いたいと願って島を出たものの、結局は辿り着けないまま海賊になってしまった。対してピーターは、フック船長が自分を置いてってしまったことを裏切りだとも思っている。

ピーターは永遠に歳を取らない、子どものままでいられる存在だ。フック船長もまた見た目は大人になったとしても、悪いことをする海賊にしかなれなかった、転じて「大人になれなかった」存在とも言える。

現実で精神的に大人になれない大人を指す言葉に「ピーターパン症候群」があるが、見た目だけが大人になって「自ら去ったのではない、追い出されたんだ」などとピーターに責任を転嫁し、それでいて今も子どものピーターにこだわり続け、海賊として勝負に挑み続けるフック船長もまた、ピーターパン症候群と呼べるだろう。

5：現実主義的なウェンディの素質を肯定する

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そして、その切ないフック船長の姿と対比されるように、ウェンディが大人になる道を探す物語も並行して綴られる。アメリカ先住民のタイガー・リリーからは「どこへ行くかはあなた次第」とアドバイスをされ、そして海賊とも剣で戦うウェンディは勇ましかった。

そして、ネバーランドについて、ウェンディが「思ったより現実的ね」だと言い、ピーターが「そうだよ現実だよ、もっといい現実さ」と答える場面もある。それ以外でも、ウェンディは海賊との戦いに巻き込まれることに文句を言ったり、ロスト・ボーイズのお母さんにはなれないことを告げるなど、ファンタジー世界のネバーランドにおいても無邪気に冒険を楽しむのではなく、現実的な考えを持って行動していた。

つまり『ピーター・パン&ウェンディ』は、ファンタジー世界の冒険を描いているようで、もともと現実逃避をしない、現実を見据え続けているウェンディの「大人になれる素質」をしっかりと捉えているとも言える。

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ファンタジーの魔法で簡単に解決したりはせず、そのウェンディの意志を肯定し続けることも、この『ピーター・パン＆ウェンディ』の素敵なところだ。現実にも、このウェンディと同様の視点を持っている子どもはいるだろうし、そうした子どもを勇気づける物語にもなっているのだ。

そのネバーランドを、ピーターが「もっといい現実」と言ったのも、彼にとっては「本当にそう」なのだろう。その言葉は現実逃避をしてしまった悲しみというよりも、「この世界でも自分らしく生き続ける」彼の矜持と意思を示しているかのようだった。

おまけ：『PAN ネバーランド、夢のはじまり』の後日談と思ってみるのもいいかも？

そのピーターと、フック船長の「馴れ初め」を描いたような実写映画もある。それは、2015年の『PAN ネバーランド、夢のはじまり』だ。

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こちらでは、ピーターが孤児院からネバーランドへとさらわれてしまうことから始まり、そしてフックと出会い友情を育んでいく過程が描かれる、いわば「ピーター・パン エピソードゼロ」的な内容でもあった。

そして、この『PAN』のエンディングを思い返すと、今回の『ピーター・パン&ウェンディ』の物語へと「つながる」ような印象があったのだ。



もちろん、この2作は直接的な関係はない。だが、両者とも『ピーター・パン』の物語にさらに広がりと深みを与えてくれることは間違いないし、続きが作られることがなかった『PAN』より後の物語が、『ピーター・パン&ウェンディ』として観られたように思えるのが嬉しかった。ぜひ、併せて観てみることをおすすめする。

（文：ヒナタカ）

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参考ページ：Peter Pan & Wendy(2023) - Trivia - IMDb