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お笑い

REGULAR

2023年05月31日

<考察>「ドキュメンタル」シーズン12から見る、松本人志が考える“お笑いの未来”

<考察>「ドキュメンタル」シーズン12から見る、松本人志が考える“お笑いの未来”

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「小学校の頃からお笑いのことを考えてきて、成れの果てですわな」
2016年からAmazonプライムビデオで配信スタートした、「HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル」。この番組の企画趣旨について、松本人志はそう語っている。
「コントの笑い、『すべらない話』みたいなこととか、大喜利とか、漫才、漫談、色々あるんでしょうけど、意外と誰もやっていないのが、無法地帯というか。(中略)自分が笑わず、相手をどう笑わせるかという。これが一番シンプルで、一番面白い奴を決めるには適しているかもしれない」
確かにルールは超絶シンプル。制限時間内に相手を抱腹絶倒させるのみ。それゆえに、自分のオフェンス&ディフェンス力が露わになってしまう。おそらく芸人にとって、これは歓喜であり恐怖であることだろう。

千原ジュニア(千原兄弟)、藤本敏史(FUJIWARA)、大悟・ノブ(千鳥)、後藤輝基(フットボールアワー)、ケンドーコバヤシ、秋山竜次(ロバート)、粗品・せいや(霜降り明星)…。数々の勇士たちがこのバトル・ロワイヤルに参戦し、ある者は勝利の雄叫びをあげ、ある者は辛酸を嘗めてきた。

爆笑を取るためなら、全裸になろうが、XXXしようが、XXXしようが(自主規制入ってます)、エヴリシング・オーケー。究極のカオス、ノールールのどつきあい。その純粋たるアルティメット・ファイトぶりが、コアなお笑いファンを虜にしてきた。

『人志松本のすべらない話』でケンドーコバヤシや小籔千豊が、『IPPONグランプリ』でバカリズムが一気に全国区となったように、この番組をきっかけにハリウッドザコシショウがその実力を天下に知らしめたことは、記憶に新しい。バリバリの地下芸人が、一線級のメジャー芸人たちをなぎ倒したのである。

これぞ下克上、これぞ実力主義。松本人志は「ドキュメンタル」を通じて、芸人たる者の凄さを改めて提示したかったのだろう。だが、シーズン11になると様相が一変する。綾小路翔(氣志團)、香取慎吾、上地雄輔、貴乃花光司、高橋克典、六平直政、森内寛樹。非芸人ばかりの著名人を集めて、予測不能のバトル・ロワイヤルが繰り広げられたのだ。

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正常性を保つ装置としてのツッコミキャラ

シーズン11を観られた方ならご存知かと思うが、貴乃花の無双っぷりは圧巻だった。泰然自若というべきか、はたまた明鏡止水というべきか、彼は透明で無垢なオーラを纏っている。そんな元横綱が、凡人には計り知れない胆力で、想像の斜め上をいくお笑い戦闘力を見せつけたのである。

日村勇紀(バナナマン)のモノマネでおなじみ“幼少期の貴乃花”を、自らセルフ・モノマネしてしまう場面を観たときは、時空が歪んだかのような衝撃を覚えたものだ。芸人のプロフェッショナリズムをカメラに収めてきた『ドキュメンタル』は、ここにきて非芸人のアマチュアリズムに舵を切ったのである。



その萌芽は、2020年10月に放送されたフジテレビ特番『まっちゃんねる』にあった。『女子メンタル』と銘打たれた女性版『ドキュメンタル』のコーナーには、朝日奈央、金田朋子、浜口京子、ファーストサマーウイカ、松野明美、峯岸みなみ(AKB48)、ゆきぽよの女性タレントが参戦。そしてシーズン2には、井上咲楽、神田愛花、菊地亜美、鈴木奈々、野呂佳代、浜口京子、ファーストサマーウイカ、丸山桂里奈が招集されている。

2回連続出場した浜口京子が、いかに圧倒的なモンスターぶりを発揮したかは、実際に番組を観て確認してほしい。計算を練り、策略を凝らす芸人たちを一撃で吹き飛ばしてしまうかのような、恐ろしいまでの破壊力。それを“天然”ゆえの破壊力と言ってしまえば簡単だが、松本人志は彼女がパフォーマンスを最大出力できるように、巧妙に舞台を整えている。

筆者が興味深く思ったのは、浜口京子と同じくファーストサマーウイカも2回連続出場していることだ。元アイドルながらコテコテ関西弁の毒舌キャラで、今テレビで最も重宝されているタレントであることは言うまでもない。そして彼女は抜群の機転の良さで、空気を読んで裏回しをしつつ、破壊的なボケには真正面からツッコミを入れられる貴重な人材でもある。

お笑いというのは不思議なもので、浜口京子を10人集めたら最強の爆笑コンテンツが生まれる訳ではない。そのボケを丁寧に拾い、カウンターとしてのツッコミが入ることで、笑いが増幅されるのだ。何より浜口京子が10人いたら、本当のカオスになってしまって収拾不可能となり、笑いではなく狂気が場を支配してしまう。

ある種の正常性を保つ装置として、ファーストサマーウイカ的なキャラクターが必要不可欠なのである。

無法地帯に秩序をもたらす者…カンニング竹山、藤本敏史

そして、『ドキュメンタル』の最新シリーズであるシーズン12。ISSA(DA PUMP)、カンニング竹山、近藤真彦、長州力、藤本敏史(FUJIWARA)、三浦翔平、若狭勝というメンツが集結した。芸人も非芸人も一堂に会した、まさしく「UNLIMITED」である。

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予告編でも流れているが、近藤真彦が往年のGジャンを羽織って「マッチで〜〜〜す」と叫ぶ場面は、マジでヤバい。…だがどう考えても、要注意人物は長州力と若狭勝だ。特に長州力は、浜口京子をも凌駕する天然モンスターぶりを発揮する。こんな猛獣を操るのは、機転の利くアマチュアではなく、老練なプロフェッショナルの仕事。芸人枠からカンニング竹山と藤本敏史が呼ばれたのは、おそらくそんな理由からではないだろうか。

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確かに天然キャラは特大ホームランを打つが、三振も多い。きっちりバントができて、犠牲フライを打ち上げることができる職人も必要だ。カオスを上手にコントロールし、場を仕切れる芸人がいてこそ、無法地帯に秩序をもたらすことができるのである。

今お笑い界のキングメーカー松本人志は、「全てのメンツをプロ=芸人で固める」のではなく、「プロ=芸人とアマ=非芸人をバランスよく調合する」ことで、『ドキュメンタル』のギアをさらにもう一段階上げようとしているのではないか。

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かつて萩本欽一は、素人を徹底的にいじることで新しい笑いのスタイルを確立した。“天然ボケ”という言葉は、ジミー大西に対して萩本欽一が発したものだとも言われている。芸人ファーストだった松本人志は、天然ボケの非芸人も座組に組み入れるハイブリッド型を目指すことで、かつての萩本欽一的笑いのその先へと、向かおうとしているのかもしれない。

(文:竹島ルイ)

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