インタビュー

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2023年06月05日

新作歌舞伎『刀剣乱舞』演出・尾上菊之丞「歌舞伎ならではの世界観で見たことない景色を作り上げたい」

新作歌舞伎『刀剣乱舞』演出・尾上菊之丞「歌舞伎ならではの世界観で見たことない景色を作り上げたい」

公演迫る、『刀剣乱舞』について


――歌舞伎の『刀剣乱舞』には女方は出ますか?


菊之丞:刀剣男士の話ではありますが、女方も出てきます。

――『FF』でも活躍された尾上松也さんが主演です。松也さんの役者としての魅力をお話ください。

菊之丞:松也さんには大らかさと愛嬌があります。歌舞伎の上で大らかさとは、大きさでもあるんです。技術のうまさはもちろん大事ですが、それとはまた違う、存在自体の、柔らかさ、大きさというものが、松也さんには備わっていて、それが魅力になっています。強い役もできるけれど、武張った役者じゃない。彼の柔らかみというか、丸みは、三日月宗近という、一見、ふわっとして、でも、芯があり、何かが奥に潜んでいそうなミステリアスな存在と重なる気がしています。そして愛嬌がある役者は、舞台の上でとても魅力的に感じるのです。

――松也さんは『刀剣乱舞』をご存知だったのでしょうか?

菊之丞:今回は松也さんの企画ですから、よくご存知だったと思います。時には先方のほうから歌舞伎化しませんかという提案が来ることもあれば、役者から提案することもあって。『FF』は菊之助さんが企画者でした。

――菊之丞さんと松也さんがダブル演出ですが、菊之丞さんに松也さんが声をかけたのでしょうか?

菊之丞:はい。松也さんの生家は、私の実家兼稽古場のすぐそばで、同じ音羽屋一門の仲ですから、子どもの頃から稽古にもお見えになって、うちの父親に手ほどきを受けていたんです。僕も稽古のお手伝いするようになって、その縁でずっと一緒にやっていまして、何かにつけて松也さんが踊るときには、僕が振付けをさせてもらっています。

おととし、松也さんの「挑む」という自主公演のファイナル公演『赤胴鈴之助』では僕は演出をさせていただきましたが、それも、松也くんからぜひと声をかけてくれたものです。今回も、ぜひ協力してほしいということで、それは喜んで、という流れですね。


――演出に関してはどのようなやりとりをされていますか?

菊之丞:我々ふたりの場合は、すべてをできるだけ共有して、コンセンサスをなるべく取るようにしています。つまり、ふたりが一体になっていような形ですね。それは比較的珍しいやり方だと思います。演劇の場合、演出家が現場のトップで、演出家が思い描くものを役者さんたちが体現するものですが、歌舞伎は少し違って。歌舞伎の場合は主演俳優が演出家を兼ねることが多く、先輩が若い人に教える形で作られています。ともかく僕と松也さんの場合はぜんぶ共有してやっています。

――共有スタイルは珍しいのですね。

菊之丞:もちろん、ふたり演出の場合でも共有はしますが、僕らの場合、ふたりでとにかくたくさん話をして、意見を交換し合って、スタッフに話をするとき、出来る限り同席しています。

――歌舞伎ならではというところで、花道を刀剣男士が走るであろうことが楽しみです。

菊之丞:もちろんそうですね。花道は、たくさん使うと思います。コロナ禍も少し落ち着いてきたから、客席との距離感を縮められたらいいなあと思っています。ほかに、歌舞伎が常々から使っている、歌舞伎をやる劇場ならではの舞台装置――せりやすっぽん、廻り舞台などはケレンとして使っていきます。これらを駆使することが歌舞伎を演出するときのひとつの楽しみでもあるんです。

やっぱり見たことのない景色をどうやって見せるのかは課題であって。例えば、同じ材料を使っても、今まで見たことない景色を作り上げたいという欲求は作り手には必ずありますから。それが第一目的になると本末転倒で、その試行錯誤の繰り返しです。

――最後に。最近の歌舞伎は新たな題材で新しいお客さんが来ていると思いますが、そういう状況をどういうふうに思われていますか?

菊之丞:江戸時代から常にそういう繰り返しを経てきた芸能ですから、新たな芸能が出てきたり、今は、コロナ禍があって、お客さまが劇場から離れたりと、波があるのは当然のことで。優れた舞台がたくさんあるなかで、歌舞伎をはじめとした古典芸能が生き残っていくためには、新しいお客さまを呼び込まないといけません。新作で新たなお客さまに喜んでいただきながら、歌舞伎の本質的な良さを提示したいと思っています。

(撮影=大塚秀美/取材・文=木俣冬)

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