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2023年06月09日

“安藤サクラ”の魅力を3本の映画から分析——幅広い役柄への説得力と存在感

“安藤サクラ”の魅力を3本の映画から分析——幅広い役柄への説得力と存在感

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©2023「怪物」製作委員会

映画『怪物』が2023年6月2日(金)より公開中。

『万引き家族』の是枝裕和監督と『花束みたいな恋をした』の坂元裕二による脚本というタッグで送り出した本作は、第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞の二冠に輝き、現時点で映画.comでは4.1点、FIlmarksでは4.2点など圧倒的な高評価を記録。初日から3日間の興行収入は3億2500万円とヒットもしており、さらなる伸びが期待できる。

『怪物』は俳優陣の熱演も大きな見所。そして、ここでは『怪物』を含む、安藤サクラが主演を務めた映画3本それぞれにおける魅力を紹介しよう。観ればきっと、ストレートに安藤サクラの唯一無二にして尋常ではない「凄み」がわかっていただけるはずだ。

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1:『0.5ミリ』次々と脅迫していくのにかわいい

(C)2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

何より破格なのは3時間16分という上映時間。それでいて、グイグイと引き込まれるエンターテインメント性を持つドラマだ。実は監督の安藤桃子は、主演の安藤サクラの実姉。つまりは「姉妹タッグ」による作品ということにも注目すべきだろう。

監督自身の介護経験から着想を得て書き下ろした小説が原作とのことだが、まったくもって心温まるハートフルな内容ではなく、むしろそのまったく逆。なんと、家も貯金もない女性が住む場所を手に入れるため(それ以外の理由でも)、だいたい犯罪行為をしている男性の弱みを次々と握っていくという「脅迫ロードムービー」と呼んでも差し支えない内容なのだ。

つまりはまったく「正しくない」系の主人公であり、男性たちを手玉に取る時点で客観的には悪女そのもののはずなのに、それでも「キュートに思える」ということが、何よりも驚きだった。



ちょっとした仕草や、時折見せる屈託のない笑顔は本当に愛らしく、ドキッとしてしまう方は多いのではないか。脅迫をしてくるとんでもない役柄であっても、過剰に不快感を持たせるのではなく、安藤サクラだからこその「好きになってしまう」魅力を持たせていることに驚嘆せざるを得ざるを得ない。

テーマと言えるのは普遍的な「人と人との距離感」、そして「この世に生きる意味」という壮大な射程を捉えた物語でもある。「0.5ミリ」という意味不明にも思えるタイトルも、観終えれば奥深いものに思えてくるだろう。ネタバレ厳禁のどんでん返しにも期待してほしい。

2:『ある男』人知れず涙を流す、思慮深くて優しい女性

©2022「ある男」製作委員会

同名小説の映画化作品であり、事故で亡くなった夫が「別人」だった理由を探るミステリーで、安藤サクラは文具店で働いている最中、親切な男性から「友達になりたい」と言われて、本当に友達になる。そして真摯な対話を経て、2人は心から信頼し合える夫婦へとなっていく。

友達になったその時に「当たり前のこと」についてクスクスと笑ったりと、その後にささやかな家族の生活の愛おしさを描く物語の前半部は、誰もが「幸せになって……」と願いたくなるだろう。

©2022「ある男」製作委員会

だが、夫は不慮の事故により亡くなってしまう。安藤サクラがシングルマザーを演じることは『怪物』と同じだが、そちらよりもさらに生真面目で、だからこその悩みを抱えて人知れず涙を流してしまうような「力になってあげたくなる」普通の女性だった。

だからこそ、夫を亡くしさらに別人であることに戸惑う様が痛切に感じられる。そして父親へ当たり前の疑問を持つ息子への思慮深い諭し方を観れば、きっと優しい以上に繊細な性格であることがわかるだろう。



そして、この『ある男』は「自分以外の誰かになりたい」という、ある意味では普遍的な願望を描いた寓話でもある。窪田正孝演じる謎の男「X」が抱えていた切実な事情はもちろん、妻夫木聡演じる弁護士は在日韓国人三世で人種差別的な言動に敏感になっている。

安藤サクラ演じる女性は、その2人の人生に関わりながらもどこか客観的な視点を忘れないでいる、極めて観客に近い立場であるため、感情移入できる方は多いだろう。

そうしたコンプレックスを持ったがゆえの願望に対し、人それぞれが主体的に考えられる「宿題」を持ち帰ることができることが本作の意義。『蜜蜂と遠雷』や『愚行録』の石川慶監督が堅実な演出で人生の深淵を見せる、その手腕にも期待してほしい。

3:『怪物』息子と友達のように接するからこそ、怒りのギャプが際立つ

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本作での安藤サクラは、息子とまるで友達のように接する、極めてフランクな印象を持つシングルマザー。その気の良さや親しみやすさが映画冒頭から大いに感じられるからこそ、担任の先生にひどいことを言われた息子のために小学校へ向かう彼女の怒りが、ギャップとしてより際立つ。

何より圧倒されたのは、その後の学校側のひどい対応を目の当たりにしての、田中裕子演じる校長へ「私が話しているのは、人間?」と聞いた時。「本当に信じられないものを見ている」ことがわかる、目を見開いたその表情を忘れることができない。

©2023「怪物」製作委員会

その安藤サクラは、『万引き家族』に続いてのタッグとなる是枝裕和監督から「安藤さんは底知れない女優さんですよね。『万引き家族』のとき、自分はまだこの人のいちばん深いところにタッチできていないと思ったので、もう一度お仕事できるチャンスを狙っていました。でもまだ底は見えません」「子ども思いの優しい母親の奥から、抑えようのない感情が出てきてしまう、その怖さを見事に表現してもらいました」と語っている。

この言葉通り、表現力は文字通りに底知れないものがあるし、「普段は優しい人が怒ると怖い」こともこれ以上はないというほどの演技で教えられた気がしたのだ。

©2023「怪物」製作委員会

その安藤サクラと、不遜な言動を繰り返す永山瑛太演じる担任の先生、そして息子とその友達の関係がどのように変化していくかも、大きな見所となっている。息子のことを何よりも大切にする、シングルマザーの想いがどこに行き着くのかにも、注目してほしい。

安藤サクラの幅広く、魅力的な役柄



安藤サクラの魅力は彼女が纏う空気と存在感、そして幅広い役柄に説得力を持たせる圧倒的な演技力に集約されるだろう。

ここに挙げた3作品以外でも、『愛と誠』では超クセの強いエキセントリックな役、『百円の恋』では32歳の引きこもりのダメ人間がボクシングで一念発起する様、『DESTINY 鎌倉ものがたり』良い意味で漫画チックな「っすよ〜」な口調が愛らしい死神などなど……それぞれの役柄が脳裏に焼きつくほどにインパクトがある。

画面に出てくれば、即座に「見逃せない」「好きになってしまう」というのは、とんでもないことだ。

最新作で演じるのは、特殊詐欺を生業とする女性

その安藤サクラの次回作は、2023年9月29日公開予定の『BAD LANDS バッド・ランズ』

黒川博行の小説を『燃えよ剣』や『ヘルドッグス』の原田眞人が映画化した作品で、安藤サクラが演じるのは特殊詐欺を生業とする女性。その弟を山田涼介が演じることでも話題となっている。



「安藤サクラ×山田涼介×原田眞人監督による予測不能のクライムサスペンスエンタテインメント!」と銘打たれた本作は、解禁された特報からただならぬ雰囲気に満ち満ちている。前述した『0.5ミリ』のように「正しくない」役柄も演じてきた安藤サクラがどのような怪演を見せるのかにも期待しつつ、公開を心待ちにしたい。

(文:ヒナタカ)

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