橋本淳×稲葉友インタビュー『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』で10年ぶりの共演。お互いが感じたこととは?
物語はひきこもりの男・ちばしん(橋本淳)の元に小学校時代の友だち・ながちん(稲葉友)が現れ、「俺死んでるから、一緒に俺の死体を見に行ってほしい」という突拍子もない相談をしてきたことから始まる。そこから、ながちんの思い出の地を2人で巡るという少し不思議な青春ロードムービー。
監督・脚本を務めるのは、劇団「なかないで、毒きのこちゃん」を主宰する鳥皮ささみこと、猪股和磨。橋本淳、稲葉友のほか監督が率いる劇団のメンバーも出演している。
今回CINEMAS+では、ダブル主演の橋本淳と稲葉友にインタビュー。撮影中の秘話から役作りまで、さまざまな角度からお話を伺った。
人を包み込んでくれる“温もり”のような映画
▶︎本記事の画像を全て見る――まずは、今回の作品で橋本さん、稲葉さんのダブル主演と聞いたときの印象を聞かせていただきたいのですが、10年前に舞台で共演されていたと伺っています。
稲葉友(以下、稲葉):つかこうへいさんの舞台「飛龍伝」で“あっちゃん”とは長い期間、共演していましたが、今回のお話をいただくまではなかなか機会がありませんでした。でも、お互いの舞台を観に行ったり、食事をしたりする仲だったので今回のお話をいただいたときは素直に嬉しかったです。
橋本淳(以下、橋本):僕は今回のお話をいただいたときにまずは監督の人柄が作品に出ているし、全体的に面白そうな作品だなと感じました。次にながちんの役が“友”だと聞いて、友だったら全幅の信頼を寄せているので思いっきり委ねられるなと感じました。共演は10年ぶりでしたが、10年という年月は感じられず、共演できることが楽しみで仕方なかったですね。
――橋本さんと稲葉さんはお互いのことを“あっちゃん”、“友”と呼び合っているのですね。
稲葉:そうですね(笑)。取材のときはお互いを名字で呼ぶこともありますが、基本は“あっちゃん”と“友”です。
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――完成された作品をご覧になって、どんなことを感じましたか?
橋本:脚本を読んだときに感じた優しさや癒やしが、スクリーンにより鮮明に反映されたなと感じました。人肌っぽい温かさ、人を包み込んでくれるようなものを感じる作品になったのでたくさんの方に観ていただきたいです。
稲葉:僕は完成した作品を初めて観るときはなかなか冷静に観れないのですが、第三者的視点に立って観ると、人と人の温もりを感じることができる作品だと思いました。ちばしんとながちんの2人もほっこりしていて、「かわいらしい奴等」と映りました。
――作品は、2022年の夏に約1週間で撮影したと伺いました。今回はロードムービーとのことで外での撮影は大変だったのではないでしょうか。
橋本:そうですね。かなりタイトなスケジュールだったので体調面は厳しかったですが、天候にはそこそこ恵まれました。撮影はシーンを順番通り撮っていく形だったので、一つひとつ積み重ねている感じがまさに2人のロードムービーを作っているという感覚でした。とにかく勢いで撮りきるぞ!という雰囲気があったので共演者、スタッフが一丸となって走り切りました。
稲葉:タイトなスケジュールの中でも、僕と同じくらい疲れている人が横にいたので(笑)、がんばれました。あっちゃんは疲れているとすぐにわかるから……。
橋本:うん、そうだね。低体温な男なので(笑)。
稲葉:あとは僕たち、コーヒーが好きなので撮影中にアイスコーヒーをおごり合っていました。お互いを気遣いながら撮影を乗り切った感もありますね。
「相手があっちゃんだから大丈夫」という信頼のもと演じ切れたながちん役
▶︎本記事の画像を全て見る――次にそれぞれの役についてお話を聞かせてください。まずは橋本さん。30歳のひきこもり、ちばしん役がかなりリアルでした。どなたかをモデルにしたり、参考にされたりしたのでしょうか。
橋本:特定の人をモデルにしたわけではないですが、知り合いに人との距離感の取り方がちばしんに似ている人が何人かいるので、その方たちを参考にしたり、自分の中にある「ちばしんと重なる部分」を引き出しながらリアルさを追求しました。ちばしんという30歳のひきこもりの男性がこれまでどうやって生きてきたのかという、歴史やバックボーンを大事にしながら役を作っていきました。
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――次に稲葉さんに伺います。今回の役は、泣いたり笑ったりかなり破天荒なむずかしい役だったのではと想像しますが、台本を手にした時点でこんな風に演じようと思い描いていたのですか?
稲葉:最初からこんな風に演じようとは決めず、本読みやリハーサルで試しながら少しずつながちんを作っていきました。なによりも相手があっちゃんなので、どんな球を投げても大丈夫だろうという信頼感があったので、気負いすることはなかったです。強いて言えば、シーンを牽引する元気で明るい役だったので、多少は疲れましたがあっちゃんが隣で理解してくれていたので安心して演じることができました。
橋本:夜中の撮影でもテンションを上げていないといけない友は、本当に大変だったと思います。
稲葉:一瞬時間が空くと自然と眼が閉じてしまうこともありましたが、バッと起きてテンション上げて……。まさにロードムービー感がありました。
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――今回の作品を観てお2人の役が逆だったらと考えました。それはそれでまた面白い作品になっていたように感じましたが、いかがでしょうか?
橋本:ながちん役は友の疲れ具合を隣で見ていたからやりたくないな……(笑)。
稲葉:僕のちばしんはこれまで演じてきた役に似ている面もあるので、アリかもしれないけれど、あっちゃんのながちんは見てみたいですね。
橋本:友が演じるながちんは傍若無人に振る舞っていても、友が優しい人なので自然と愛のあるながちんになっていました。でも、僕が演じていたらもうちょっと雑でもっと無責任で押しつけがましいながちんだったかもしれません。
稲葉:そしたら僕はもっとぐずぐずしたちばしんだったかもしれない (笑)。
この映画のお陰でかつての親友に思いを馳せることができた
▶︎本記事の画像を全て見る――猪股監督からこんな風に演じて欲しいという要望や、シーンごとのアドバイスなどはあったのですか?
橋本:演じた後に微調整はありましたが、基本は自由に演じさせてもらいました。
稲葉:ここはこうして欲しいというリクエストに近い形でアドバイスをくれていました。
橋本:あと、僕らに対して演出の仕方が違うことが印象的でした。友に対してはとても具体的で明確。僕には、押し方と引き方の具合やふわっとしたイメージを伝えるような感じでアドバイスをくれていました。
――本作は猪股監督が「あの頃の親友に向けて創った作品」と明言していますが、その言葉を受けて、それぞれ思い出す親友はいますか?
橋本:まさにこの映画を撮っている最中に、小学生のときに仲が良かった友だちのことを思いました。ふと「あいつ何しているかな?」と思い、連絡を取った人もいますが、コミュニティが変わったせいか、ちょっと寂しく感じることもありました。もう少しこの映画に早く出会っていたら、また関係性が違ったかもしれませんね。人との繋がりって本当に不思議だなとつくづく感じました。
稲葉:僕は家族ぐるみで長く付き合っている親友のことを思い出しました。大人になって時間が作れなくなってもなんとなく電話で話したり、本人抜きで家族と会ったりすることもあります。彼からこの映画の撮影に入る前に結婚の連絡があって、人生の節目を報告してくれたことが嬉しかったです。
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――それぞれの親友にもこの映画を観ていただきたいですよね。
稲葉:そうですね。ちょっと照れくさいですけど……。
――最後になりますが、これから作品をご覧になる方にメッセージをお願いします。
稲葉:多くの作品の中には観るのに覚悟がいる作品もありますが、『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』は、元気でも元気でなくても、どんな状況で観ても楽しめる作品になっています。優しさのなかにも胸にぐっとくるものもあるので、身構えずふらっと映画館に足を運んでいただけたら嬉しいです。
橋本:いろんな年齢・性別の方に楽しんでいただける作品です。そして観終わった後に昔の友だちに連絡をしたり、いろいろと考えたりと実行に移す力をくれる作品になっています。人は生きているだけで傷ついたり、苦しかったりもしますがこの作品は自己も他者も肯定してくれる優しさがつまっています。途中「これは何を観させられているんだろう?」と思うところもありますが(笑)、ゴールに辿り付くとほっと癒やされ、豊かな気持ちになることができるので、ぜひ映画館で作品を楽しんでください。
(撮影=渡会春加/取材・文=駒子)
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