©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会
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映画コラム

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2023年06月27日

<君は放課後インソムニア>原作漫画・アニメ・実写映画の異なる魅力

<君は放課後インソムニア>原作漫画・アニメ・実写映画の異なる魅力

▶︎映画『君は放課後インソムニア』画像を全て見る

現在、週刊ビッグコミックスピリッツにて連載中の漫画「君は放課後インソムニア」。繊細な男子目線で描かれた、オジロマコト氏による青春漫画の秀作だ。

4月からアニメ化もされて話題となっている同作が、2023年6月23日(金)より実写映画として公開中。

本記事では、原作漫画・テレビアニメ・実写映画それぞれの異なる魅力を紐解いていく。

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1:漫画ならではの画力と描写


「君は放課後インソムニア」。この先は親しみを込めて「君ソム」と呼ばせてほしい。君ソムの最大の魅力は、なんといってもあの空気感だろう。

物語の舞台となるのは、石川県七尾市。高校生の中見丸太(なかみ がんた)と曲伊咲(まがり いさき)が、“不眠症”というお互いの秘密を共有したことで距離を縮めていく。

急ぎすぎず、遅すぎず、柔らかく周りの人間を巻き込みながら、視野を広げ、交流を深める。その成長過程が、1コマ1コマ丁寧に描かれた表情や距離感やセリフから鮮明に伝わってくる。

原作より先にアニメから君ソムに入った者として一番印象的だったのが、丸太と伊咲が大声で叫ぶシーンだ。

アニメ版では満点の星空の下で「ワァアアアアアアアア」と楽しそうに叫ぶ二人が最高に微笑ましかったのに対し、漫画では吹き出しを含めてすべての音が一切排除されているのである。画力だけで魅せた最高の夜をはしゃぐ二人からは、音も色もない誌面にもかかわらず、その声や波の音がはっきりと聞こえてくるようだった。

ちなみに、現在単行本で13巻まで発売されているが(2023年6月時点)、まだ完結はしていない。

映画でもアニメでも描き切れない、さらに成長し切なさを増した丸太と伊咲の未来がどうなっていくのか……。そして変わらず近くにいるクラスメートたちの関係性からも目が離せないので、アニメの、映画のその先が気になる人には是非漫画をオススメする。

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2:アニメで生きたキャラクター



アニメ化の最たる魅力は、キャラクターが“生きている”と感じられることではないだろうか。もちろん漫画でも生き生きと描かれているのだけど、アニメの生み出す生命力が凄まじいことは言うまでもない。

丸太の不器用さと伊咲の明るさは、声が入ったことでさらにキャラが立っているし、クラスメートたちも然り。

蟹川のツンデレ、穴水の熱血クール、野乃さんのおっとり具合は特に際立つ。概ね原作通りに進んでいくのもアニメの特徴で、丸太が伊咲を含む周りの人間と、どう関わりを持っていくのかが丁寧に描かれている。そのおかげで、幼馴染の受川いわく「小学生の頃のカッコいいガンちゃん」に少しずつ戻っていく過程にも説得力があるのだ。

日常系はこういう丁寧さが最も大切なのだと心からおもう。



そして“生きている”と感じるのは人物だけではない。これでもかというほど綺麗に描かれている風景の数々も、主役級の存在感を醸し出している。眩い星空・揺れる水面・夜空から朝焼けまで、トキメキのシャッターチャンスばかりだ。

そしてそして、さらに生命力を得ているのが、猫である。学校に居ついている地域猫の通称“ツー”や、白丸先輩の飼い猫“ロロ”。丸太と伊咲、そして倉敷先生との縁にもツーは深く関わっているし、ロロの存在は白丸先輩のひとり暮らしに絶妙に馴染んでおり、彼女の人となりに不思議なほど説得力を持たせている。

何よりも、自由に動きまわっている猫、かわいい。

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3:実写でもブレないキャラクターイメージ



実写化による一番の懸念点は「別物として扱われる」ことだと、個人的にはおもう。

キャラが別人のようになっていたり、そもそもの設定がガラッと変わっていたり、世界観が崩れているなど、残念な気持ちになったことがある人は少なからずいる。そういう作品は、原作とは別物として扱わなければ到底受け入れられないのである。

君ソムは、そんなこちら側の不安を見事に拭い去ってくれた。森七菜の演じる伊咲、奥平大兼の丸太が、原作やアニメのイメージとブレずに“そこに居る”のだ。


特に森七菜に関しては、原作者のオジロマコト氏が「伊咲役は森七菜さんしかいない」と熱望したというのも納得のキャスティングだ。

森七菜の放つ透明感は、誰よりも明るく元気に飛び回っているのに、病弱だった過去を持つ少女という儚げな雰囲気をしっかりと感じさせる。


奥平大兼は、初の青春映画とは思えないほど、黒髪・眼鏡の男子高生がハマっていたので驚きだった。映画『ヴィレッジ』でみせたやんちゃな人懐っこいイメージとはガラリと変えてきていて、実は君ソムを観ても同一人物とはまったく気づかなかったほどである。

また倉敷先生役の桜井ユキや白丸先輩役の萩原みのりも、さすがの存在感で“そこに居る”。見た目はもちろん、雰囲気やしぐさ、話し方まで役そのものだ。



そして実写化による最大の功績は、写真ではないだろうか。天文部として活動する丸太と伊咲は、丸太のカメラで星空写真を撮るという目的を軸にストーリーが進んでいく。夜の景色・星空・昼の風景でさえも、実際に石川県で撮影された景色は、丸太がカメラにおさめた数々の写真を一層引き立てる。

能登半島・真脇遺跡で見た星空は息をのむほど美しく、この素晴らしい景色を感じるだけでも一見の価値ありと思わせるほどだった。

変わらない“君ソム”の空気感


原作漫画・テレビアニメ・実写映画、どこから入っても君ソムの空気感は変わらない。

ちょっと恥ずかしくて、くすぐったくて、胸の締め付けられる切なさもあって、同年代なら恐らく共感の嵐なのだろう。青春時代を懐かしむ年代からみると、思わず目を覆ってしまうほど真っすぐな感情がまぶしくて、それが少し羨ましくもある。

君ソムのこそばゆい瑞々しさから放たれるエネルギーは、まだまだ広がりを見せそうだ。

(文:加部)

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