映画コラム

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2020年05月26日

『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』レビュー:"地獄とは他人である"byサルトル——そこから紐解く愛の本質

『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』レビュー:"地獄とは他人である"byサルトル——そこから紐解く愛の本質

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。

58回目の更新、今回もどうぞよろしくお願いいたします。

ありのままに。少し前にそんな言葉が流行っていましたが、改めて大事なことだなと思います。しかし、なかなかにそんなことが出来ないのが現実。世間的に社会的に、色んな目を気にして、気を使ってしまい自分を曲げてしまう、それがリアル。

まぁでも、ずっと"ありのまま"でいられても周りは迷惑でしょうけど。。無理のない範囲でそうなりたいなと思っています。

自分にも他人にも負荷がかからないよいバランスはないものかと、そんな事を思いながらここ数年は生きている気がしています。確かな答えなんてものは、出ないのは分かっているので、思い悩むほどではないほどですが。

そんな時に、指針的な映画に出会うとやはりハッとなり、現在地を探れる。今回もいい作品に巡り合いました。

時代が進んでも残るであろう現代版ウィットなラブコメ。コチラをご紹介。

『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』




Netflix映画『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』独占配信中


アメリカの田舎町の高校に通う中国系アメリカ人のエリー(リーア・ルイス)。彼女はとても頭がよく教養もあるが、人種のことから差別を受けていて、内向的な性格もあるのか孤立した存在だった。妻を亡くし、英語も苦手なことで何も上手くいかないショックから引きこもり気味になってしまった父の代わりに、エリーは家計を助けるためクラスメイト達の論文の代筆をしてお金を稼いでいた。エリーは読書などから得た知識もあり、そういうことにはとても長けていたのだ。



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そんな時、アメフト部のポール(ダニエル・ディーマー)がエリーの代筆業を知り声を掛けてくる。好きな人に手紙を書いたのだけど、俺は頭が悪くて…代わりに書いて欲しい。と、いったものだった。その相手というのは学校の中でも美人なアスター(アレクシス・レミール)。エリーはそんなことは出来ないと断り続けるが、家の電気代の請求が迫っていることもあり、仕方なく手紙の代筆業を受けることに。

エリーは父が観ていた映画から引用した言葉を入れてアスターへの手紙を書くが、アスターから「ヴィム・ヴェンダースはわたしも好き、でも盗用はだめ」と知性あふれる返信が返ってくると、エリーにも火がつき始める。センスのあるウィットに飛んだ手紙のやり取りを繰り返すうちにアスターは少しずつ、その手紙を書いていると思っているポールに惹かれていく。

しかし、エリーの気持ちは複雑だった。それに伴い3人の関係性が複雑になっていき、、、



5月1日から配信がスタートした、Netflix映画の最新作。早速、業界内外色々なところで話題になっている作品ですね。

主人公のエリーは、中国系アメリカ人こともあり学校では差別的ないじりをされています。アメリカの田舎ではまだこのような感じなのでしょう。そう書き出すと陰鬱な印象を与えてしまうかもしれませんが、本作はオシャレにポップに描きます。

視聴者を選ばずに、間口を広く構えて、しかし描くべきメッセージは深く、と見事です。文学、映画、アート、哲学などが随所に埋め込まれて、知性と教養あふれるウィットな展開が本当にすばらしい。



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そして、メインキャラがそれぞれ個性的でいい味を出している。中国系アメリカ人のエリーとクラス1の美人アスターの、文学やアートへ造詣の深さからなる手紙やメールの応酬がクレバーすぎて、ホクホクが止まらん。(演出としてもメール画面の演出が可愛くテンポも良し)

その2人に対して、アメフト部のポールのいい感じのおバカさ加減がまたいいのです。(アメリカのアメフト部はおバカな立ち位置ばかりですね) エリーのような知性はないけれど、自分の思いを真っ直ぐに伝える様は、彼女とは対照的な人物。ストーリーが進むにつれて、ポールがただのおバカではないところが少しずつ見えてくる(失礼)のが、またよいのです。

差別をしてくるクラスメイトに対してしっかりと抗議したり、困難な状況に置かれたエリーを手助けしたり、その真っ直ぐな優しさにより2人を応援したくなる。(そうなればなるほど、後半の展開の受けが大きくなる) ポールを知的に教育してようとするエリーの、2人の描写もまた良し! エリーもまた自分自身に正直に生きるということをポールから教えられる。



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そしてなにより、エリーがずっと秘めていた思い。

序盤からだだ漏れなので、特にネタバレということもないとは思いますが、ポールが思い焦がれるアスターのことをエリーも好きなのです。

しかし、この街はカトリックがほとんどの田舎町、バレたら即避難されることになる、エリーは当然ことながら誰にもそのことを言えない。(そういうこともあり、性格的に内向していくのでしょう) とあることがきっかけで、エリーとアスターの距離も近づき、エリーの気持ちはどんどんと膨れ上がっていく展開に、ムズムズしてくる3人の関係。

そしてタイトルが指す意味とは。オープニングからテーマを出してくれるので、とても見やすくレールを示してくれる。

サルトルなど日本人がムッと構えてしまいがちな哲学的な話が出てきますが、どれもやはり本質的なことで、きっと誰もが共感するのではないでしょうか?



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監督のアリス・ウーの実体験から、本作は着想を得て制作。そしてなんと監督デビュー作の『素顔の私を見つめて…』から15年ぶりの新作で長編2作品目の待望作。次は何年後かは分からないけれど、監督の確かなユーモアと知性に富んだ作品を待ち続けたいと思います。

"いまを描いている"大事な青春映画になっている。

こういう作品に出会うと、やはり映画は時代を記録するものだなと感じます。

時代を映し出し、人間を映し出し、風景を映す。

ふと立ち止まり、鑑賞するなんていうのはどうでしょうか。皆様にも響けば幸いです。(映画『日の名残り』を事前に観ているとより楽しめます)

それでは、今回もおこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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