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<体張りすぎ>トム・クルーズvsジャッキー・チェン、命がけのスタント論

▶︎『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』画像を全て見る

スリリングなストーリー展開もさることながら、トム・クルーズの体を張った生身のスタントが何かと注目を集める『ミッション:インポッシブル』シリーズ。断崖ジャンプが話題の最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が7月21日(金)に公開を迎え、改めてトムの(無謀ともいえる)アクションシーンに注目が集まっている。

トムのアクションスターぶりが語られる中で、たびたび比較対象として名前を見かけるのがカンフーマスターのジャッキー・チェンだ。70年代から香港アクション映画界を牽引し、いまや全世界に影響を及ぼしているのはご存知のとおり。

そこで今回は、歳を重ねてもなんのその。映画のためなら命を懸けるトム・クルーズとジャッキー・チェンの「生身のアクションのすごさ」について紹介していきたい。

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飛びます、飛びます


『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は前述のとおり、以前からトム演じるイーサン・ハントがバイクで断崖から飛び出す場面に大きな注目が集まっていた。もはやそのスケールは「すごいね!」「カッコいいね!」と単純に感嘆の声を上げるようなレベルではなく、「んなアホな」「トム死ぬて」とツッコまずにはいられないような状況といえる。



わざわざ長大なジャンプ台を設置するなどメイキングシーンを大々的に見せた場面だが、実は本編をとおして観ると「見せ場のひとつ」にすぎない。

他にどのようなアクションが繰り広げられているのかは観てのお楽しみだが、どのシーンからも生身のアクションにこだわるトムの熱量が間違いなくスクリーン越しに伝わってくるはずだ。(観客やファンとしては冷や冷やものだが)

ミーム化した宙吊りミッション



フィルモグラフィを振り返ってみて、トムのアクションが注目を集めるようになったのは『ミッション:インポッシブル』第1作からだろう。往年の名ドラマ「スパイ大作戦」を自身でプロデュースしたこともあり、現場レベルで発言権を手にしたことが容易に想像できる。

例えば(『デッドレコニング』でカムバックを果たした)CIAのキトリッジ(ヘンリー・ツェニー)ら追手から逃れるため、巨大な水槽を爆破して洪水を巻き起こすシーン。そしてブライアン・デ・パルマ監督の名演出もあってミーム化したCIA本部内での宙吊りミッションシーン。クライマックスでの高速列車TGV上のバトルについては、現在のトムなら CGを使わずにやろうと言いかねない。

ジョン・ウーとのタッグ


それでもまだ、まだ第1作は大人しい方だった。第2弾『ミッション:インポッシブル2』(『M:I-2』)では香港の名匠ジョン・ウーを監督に招いており、冒頭からトムが自分でやりたいと要望したロッククライミングシーンが待ち構えている。映し出されるのはその辺の岩山などではなく、ユタ州立公園に指定されている高所恐怖症なら直視できないレベルの渓谷の岩肌。

しかもこの場面、「休日を過ごすイーサン・ハント」のシーンで本編アクションには関係がない(一応敵地潜入時の伏線にはなっているが)。CG処理で消されてはいるものの、命綱は1本のみ。監督止めなよと思わずにいられないが、よくよく考えてみたらジョン・ウー監督も規格外の火薬量と爆破で知られる人だかあかんわこれは

エスカレートするスタント



『M:I-2』では物語が進むにつれて、バイクチェイスやダグレイ・スコットとのナイフファイトなど危険なアクションが加速。さらに第4弾『ゴースト・プロトコル』ではドバイの超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」での宙吊り潜入アクションに挑み、撮影環境そのもののスケールアップに繋がっていく。

その後もトムの歯止めは効かず、第5作『ローグ・ネイション』の飛行機ぶら下がり(「オープンザダー!」のシーン)や第6作『フォールアウト』のHALOジャンプ、ヘリコプターからの落下スタントといったシーンを生み出した。

『フォールアウト』や『デッドレコニング PART ONE』は時として物語よりもトムのアクションシーンがピックアップされがちだが、筆者個人としてはそれが映画にとって悪手だとは思わない。



むしろCGやLEDパネルによるバーチャル撮影全盛期の中で、(昨年大ヒットを記録した『トップガン マーヴェリック』のように)生身のアクションにこだわることも映画ならではの醍醐味だといえる。ライブアクションを突き詰めることで、エンターテインメントとして「どのように見せるか」という意識が映画の魅力を底上げしているのは間違いない。

つまりトムが意味もなしに命懸けのアクションをしているはずがなく、そこにあるのは俳優兼プロデューサーの立ち位置から観客に良質な映画体験を提供しようとする「根っからの映画人」としての気概。だからこそファンは、いや誰もがトムに尊敬の眼差しを向けるのではないだろうか。

アクション界の生きる伝説、ジャッキー・チェン

歳を重ねて大掛かりな命懸けのスタントこそ見せなくなったが、やはり無謀といえる生身のアクションにおいてジャッキー・チェンは疑う余地のないレジェンド的な存在だ。『スネーキーモンキー 蛇拳』や『ドランクモンキー 酔拳』などのヒットで70年代から急速に知名度を上げたジャッキーは、ブルース・リーに次ぐカンフーアクションスターとして日本でもブームを巻き起こしている。


そんなジャッキーの命がけのスタントとして、真っ先に『プロジェクトA』を思い浮かべる映画ファンは多いはず。特に時計塔からの落下シーンは香港映画史だけでなく、世界のアクション映画ファンの記憶にいまも刻まれ続けている衝撃的なワンシーン。仮に本編を未見だとしても、時計塔の針にぶら下がった状態からワイヤーなしで落下し、シェードを突き破りながら地面に激突するクリップをどこかで目にしているかもしれない。



映画が公開された当時はCG技術が発展しておらず、俳優やスタントマンにとって全身を使ってありのままのアクションに挑むことがひとつの矜持だったといえる(このあたりの時代背景については日本でも公開されたドキュメント映画『カンフースタントマン 龍虎武師』が詳しい)。

いま観ても「ここまでするのか」と驚かされるが、ジャッキーに限らず当時の香港映画にとって危険なスタントは当たり前のこと(?)でもあった。

現代アクション劇の傑作!

ポリス・ストーリー REBORN(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

時計塔からの落下時に大怪我を負っているジャッキーだが、香港映画の明日を担う存在として「もうやめよう」となるはずがない。『プロジェクトA』から2年後、現代アクション劇の代表作といえる『ポリス・ストーリー/香港国際警察』が公開されたのだ。

香港警察と麻薬組織の対決を描いた本作は、ストーリーこそシンプルながらとにかく構成が巧い。序盤から急斜面に建つ民家群をド派手に突き抜けるカーチェイス(もはやチェイスでもなくなるほどの破壊行為であり、あのマイケル・ベイが『バッドボーイズ2バッド』で再現した)を繰り広げ、その直後にはジャッキーが傘1本で走行中のバスにぶら下がるスタントを披露している。

序盤でそんなに見せて大丈夫?と心配にもなるが、第2幕ではジャッキーのコミカルな演技を全面に押し出したコメディパートで観る者を飽きさせない。それでいて第3幕はシリアス路線に舵を切り、こちらまで「痛み」を感じそうなカンフーファイトや女優陣も体を張ったアクションで作品のクオリティを底上げする。



そしてここぞとばかりにピックアップされるのが、ショッピングモール上階から電飾を弾けさせながら地階へポールを滑り降りるジャッキーの規格外スタントシーン。ジャッキーが覚悟の声を上げて手摺りから飛び出し、そして地階に着地(激突ともいう)するまでを1カメ・2カメ・3カメと3度も見せる本作屈指のスタントになっている。

日本でもジャッキーブームが巻き起こっている中での真打と呼べる作品だけに、当然本国に限らず映画はヒットを記録。ジャッキー演じるチェン刑事の恋人役マギー・チャンも本作でブレイクを果たし、シリーズ第2作『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』、ミシェル・キング名義時代のミシェル・ヨーもメインキャストに加わった第3作『ポリス・ストーリー3』まで出演した。

▶︎『ポリス・ストーリー REBORN』を観る

本物のサメとの共演も



ちなみに前3作と比べて存在感は薄いが、シリーズ第4弾『ファイナル・プロジェクト』もジャッキーらしさ満載でおすすめしたい作品。核爆弾の行方をめぐってこれまでになくワールドワイドな展開を見せる本作では、カンフーアクションに加えて銃撃戦やチェイスシーンなどエンタメに徹した見どころが多い。

中でも水族館内での水中格闘は斜め上のスタントというか、本物のサメが泳ぐ水槽で撮影がおこなわれている。不測の事態が起こり得る高所からの落下やカースタントも大きなリスクを伴うが、たとえ1匹でも作り手側のコントロール下にないサメがいる水中でのアクションは危険極まりない。

ハリウッドで成功を収めた『レッド・ブロンクス』



『ファイナル・プロジェクト』より少し遡るが、ジャッキーのスタント史を振り返る上で『レッド・ブロンクス』も重要な作品。ニューヨーク・ブロンクス地区を舞台に街の暴走族やギャングが入り乱れる本作は、ジャッキーアクションが炸裂すると同時にアジアンヘイトの現実も描かれている。ジャッキーが逃げ場のない路地でビール瓶を何本も投げつけられる場面もそのひとつだ。

シビアな展開も見せつつ、それでもクライマックスでしっかり“魅せる”のがジャッキーイズム。水上を疾走するホバークラフトにしがみついて巻き上がる海水を浴びながら手を離さないだけでも十分驚愕に値するシーンだが、同シーンの撮影に足首を骨折した状態で挑んでいたことにも驚かされる。

さすがにギプスをしている状態とはいえ(そういう問題ではない)、ギプスだとわからないように靴の模様に塗ってその場をしのいだ(だからそういう問題ではない)ところが香港映画らしい

なおトム・クルーズも『フォールアウト』でビルからビルへ飛び移った際に足を強打して足首を骨折しており、そのまま演技を続けた結果NGとならず本編に使われている。

もちろん危険なスタントシーンは、俳優本人とアクション部、スタントマン、監督との信頼があってこそ。『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー』第1、2作はジャッキー自身が監督や武術指導を務めつつ、成家班(ジャッキーのスタントチーム)とアクションを組み上げた。

『ポリス・ストーリー3』や『ファイナル・プロジェクト』『レッド・ブロンクス』のスタンリー・トン監督はスタントもこなせる人物であり、その後もたびたびジャッキー作品を手掛けるほどふたりの間には信頼関係が確立している。

まとめ

アクション映画には源流があり、ジャッキーのバスター・キートン(アメリカの喜劇俳優)好きは有名な話。クラシックコメディの要素を自身の映画に幾度となく反映しており、例えば『プロジェクトA』で挑んだ時計塔からの落下シーンはハロルド・ロイド主演作『要心無用』が元ネタになっている。



そんなジャッキーに多大な影響を受けてアクションの道に進んだ人物も多く、日本では『るろうに剣心』シリーズの谷垣健治氏や『キングダム』シリーズの下村勇二氏両アクション監督が挙げられる。


危険なアクションに挑み続けるトム・クルーズも作品上での接点はないものの、ジャッキーイズムの影響を受けているのは間違いないだろう。そして『ミッション:インポッシブル』シリーズを観て育ち、トムのように観客を驚かせられる俳優になりたいというスターの卵がどこかにいるかもしれない。

命がけの危険なスタントを時代遅れと切り捨てるのではなく、ジャッキーやトムの「挑戦する心」を次代に語り継ぐことが観客にできるふたりへの恩返しになるはずだ。

(文:葦見川和哉)

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