インタビュー

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2023年08月03日

ファーストサマーウイカ「自分の中にある“普通”に気づいて、ショックを受ける」不満で繋がったシスターフッドを演じて考えたこと

ファーストサマーウイカ「自分の中にある“普通”に気づいて、ショックを受ける」不満で繋がったシスターフッドを演じて考えたこと

「おいしい家族」「ずっと独身でいるつもり?」のふくだももこ監督が、西加奈子の短編小説「炎上する君」を映画化、8月4日(金)より公開となる。

本作は、日常的に起こっている女性への抑圧に傷つき、憤っている2人の女性・梨田と浜中のシスターフッドを描いた作品。ひょんなことから脇毛を生やしてダンスをすることで自分たちを解放するようになる2人が、高円寺周辺に出没すると噂の、足が炎上している男を探しはじめるというストーリーだ。

ここまでの情報で、どうもメッセージ性が強い映画なのではないかと想像される人もいることだろう。しかし、筆者が同作品を見て感じたのは、清々しいほどの爽快感だった。

いったいなぜそう思ったのか、浜中演じるファーストサマーウイカにその疑問をぶつけると、彼女はこの映画の持つ「余白」について語ってくれた。
 

本作への出演の自信につながったできごと

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――非常に清々しい映画だなと感じました。出演が決まったときの気持ちを教えてください。

ファーストサマーウイカ:西さんの原作を読んだときに、メッセージがぎっしり詰まっている作品だなと感じました。それをふくだ監督とうらじさん、別の仕事でお会いしたことがある2人と一緒にできることが嬉しかったです。

――撮影は、映画の舞台ともなっている高円寺で行なわれたそうですね。印象的だったことはありますか?

ファーストサマーウイカ:高円寺だからこそ起こりそうな作品の空気感だなと思いながら撮影していました。それをより一層確信したのが、うらじさん演じる梨田にそっくりな人にたまたま出会ったとき。あの瞬間、映画というフィクションがフィクションじゃなくなったというか、この物語への信ぴょう性が増したように思えました。

――それはすごい。

ファーストサマーウイカ:あまりにも感動しすぎて「私たちが撮っている映画の主人公にそっくりで……」と伝え、うらじさんと3人で写真を撮りましたもん(笑)。あのとき「私たちが作っているものって嘘じゃなかった、本当なんだ」って思えて、より一層頑張ろうと思えました。圧倒的な本物が現れたおかげで、この作品に対する自信が出てきたんです。
 

大きな共通項で結ばれた梨田と浜中の絆

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――映画と原作では、梨田と浜中が親友となった背景が異なっていましたね。原作では学生時代から続いている関係性でしたが。

ファーストサマーウイカ:そうですね。相棒であることに変わりはありませんが、時間に価値観の重きを置いていない点は、ふくだ監督のこだわりを感じました。おそらく原作のように高校時代からの親友という設定だと、似たもの同士だったのかとか、お互いにないものを持っていたのかというところを容易に想像できると思うんです。

でも、そうじゃないからこそ、時間が育む以外の絶対的な味方、相棒のような2人として描かれているのかなと。

――そのような関係性を演じる上で、どんなことを意識されましたか?

ファーストサマーウイカ:今回に関しては、描かなかった部分が大きい気がしたんです。原作のあるものを映画化するときって、原作に描かれていない部分を補填して、膨らませて、実写化するのが多い一方、今回はそれと逆の発想で、そぎ落として余白を創ることで、観てくれる人に想像を与えるんじゃないかなと。

1つ大きな共通項「世の中に対する不満」を持つ梨田と浜中が出会って、絶対的な味方になった。目的や思考が同じだった瞬間に生まれる、生まれてきた場所や人種を飛び越えた強い結びつきを実感しました。
 

不満で結ばれた梨田と浜中が重たくない理由

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――映画で核となる梨田と浜中が脇毛を生やしてダンスをする点も、映画オリジナルですよね。

ファーストサマーウイカ:ダンスシーンによって、よりエンターテイメント性に富んでいて、そのコントラストによってメッセージがより伝わるのではないかと思いました。

――ダンスシーンは、どの程度振り付けが決まっていたのでしょう?

ファーストサマーウイカ:1回目に服を脱ぎ捨てて踊るシーンは、クランクイン初日、最初に撮影したシーンで。衣装合わせのときに見てはもらったものの、ほぼお互いアドリブでしたね。お互いの動きを見ながら、思うままに踊って。完全に即興でした。

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――そうだったんですね。梨田と浜中は世の中に対する不満で繋がっている一方、ダンスのシーンも、銭湯で不満を語り合うシーンも重々しい空気感や強いヘイトを感じないのが不思議でした。あれは、ダンスシーンのエンタメ性があってなのでしょうか?

ファーストサマーウイカ:それもありますし、2人が人に当たらず、何かを強要したり、ひけらかしたりすることもなく、承認されることに重きを置かずに、同じような人に救いの手を差し伸べることで昇華していたからではないかと感じます。

私自身、天邪鬼なので思想を押し付けられると「いや、自分で考えたいし」と思ってしまう部分があるんですよね。自分が能動的ならいいけど、人から言われる強制的なものにはアレルギーが出ますから。

――たしかに。押し付けがましさを感じない理由がわかった気がします。

ファーストサマーウイカ:梨田と浜中には、誰かに拡散してもらおうという欲がなくて、わかってもらいたいという欲だけなんですよね。だから、映画を観ている人たちにも「考え直してくださいね」って押し付けるわけではなく、余白の中で、それぞれがそれぞれの中に思うことと自問自答するんじゃないかなと思っています。
 

自分の中にある「普通」にショックを受ける

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――梨田と浜中は、しゃべり方が独特なキャラクターですよね。


ファーストサマーウイカ:2人以外の登場人物がナチュラルに話しているからこそ、アイコニックさが際立っているなと感じました。それに、年齢不詳で女性を前面に出していないアイコニックさゆえに、生きていたら誰しもが感じている世間とのずれを描くことができたのかなと思いました。

――なるほど。2人が不満を抱いていることが「女性なら共感する」というよりも「あるある」と思えたのは、2人のそういった部分のおかげかと納得しました。

ファーストサマーウイカ:生きている以上、何かしらにカテゴライズされていて、そのカテゴライズされていることに対する違和感って誰にでも当てはまりますからね。「男性なのに」「社会人なのに」「学生なんだから」みたいに。梨田と浜中は普通という名のものさしに対する違和感を、ポップに具現化した存在なんだと思います。中性的であるがゆえに、よりそう思わせるのかなと。

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――ウイカさん自身、カテゴライズされたときの違和感や、日常におけるものさしのずれを感じたことはありますか?

ファーストサマーウイカ:まさに今回の脚本を読んだときに、自分の中に無意識的にある“普通”に気付かされました。実は、最初、この話をもらったときに「脇毛を見せる必要があるのか」って一瞬思っちゃったんです。

「ノースリーブの衣装でお願いします」に対しては「はい」と言えるし、「水着のシーンがあります」に対しては「筋トレしなきゃな」程度なのに、「脇毛見せます」に対しては「脇毛か〜」ってちょっと引っかかって。考えてみればいつから剃らなきゃいけないものになったんだろうなと思ったんですよ。

――なるほど。

ファーストサマーウイカ:撮影を終えた今では、私にとってノースリーブも、水着も脇毛を見せることも同じくらいの速度で通り過ぎることなんですけど、この映画のインタビューを受ける中で「脇毛見せるシーン、抵抗なかったですか?」と聞かれることが多々あって。そのたびに「あ、私は脇毛を超えたんだな」と思います。

そうやって、知らない間に自分の中に備わっていた“普通”というものさしが小さいものから、大きいものまでいろいろあることに気づいたんですよね。それが自分の中に見えたときに少しショックを受けました。

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――なるほど。たしかに「普通だから」という理由で判断しちゃうことって何事においてもありますよね。

ファーストサマーウイカ:そうそう。「そういう人いるよね」とか「住む星が違う」とかもその類。それが自分の中にあったときって「まじかよ、こんな見方してたのか」ってショックだし、愚かだなと思っちゃうことがあります。

今回の映画は「こういう人たちもいるんですよ」ってアナウンスをしたいわけではないと思っています。むしろ、観た人が自分の中に1回立ち返って「あーやって言われて、もやっとしたのって、こうだからか」と居所のなかった感情や思考を洗い直す助けになるんじゃないかなと。でも、そう思わなくても、もちろん正解なんですけどね。ぜひ、それぞれの見方で自由に楽しんでほしいと思います。

(ヘアメイク=山本絵里子/スタイリスト=近藤伊代/撮影=渡会春加/取材・文=於ありさ)

<衣装協力:ワンショルダーレースビスチェ 110,000円 SHIROMA(https://shiroma.info)/刺繍ワンピース 11,990円 LEMON(TEL:050-1184-9183)/シアートップス 12,100円 bed 下北沢店(TEL:03-6804-8350)/その他アイテム スタイリスト私物>

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