<考察>福田雄一の作家性から紐解く『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』
ミステリとしてミスリードを誘う仕掛け
すっかり前置きが長くなってしまったが、以上を踏まえて『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』を観ると、非常に福田雄一的な題材であることが分かる。この作品は、赤ずきんちゃんが謎の殺人事件を解決するコメディ・ミステリー。「シンデレラ」や「ヘンゼルとグレーテル」といった名作童話が下敷きになっている。
冷静に考えると、童話の世界を舞台にして、日本人俳優が赤ずきんやシンデレラを演じること自体がだいぶ無理筋なのだが、あえてカキワリっぽい美術や、安っぽく見えるCGを使うことで(天下のNetflixなので間違いなくお金はかかっているのだが)、パロディとしての強度を高めている。
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』9月14日(木)よりNetflixにて世界独占配信
「カボチャの馬車を運転しますよ」というネズミに対して、赤ずきんが「免許持っているの?」と尋ねると、「この時代に免許とかありませんから」と返す。つまり童話の世界に免許証など存在しないという、お約束の破壊……いつもの福田節が唸りをあげている。
もしくは、シンデレラの継母イザベラを演じる真矢みきが、王子様に向かって「諦めないからー!」と叫ぶシーン。本人が出演している某CMの「諦めないで」というセリフを、セルフパロディしたことは明明白白。
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』9月14日(木)よりNetflixにて世界独占配信
もちろん、アドリブっぽいセリフの応酬も盛りだくさん。特に今作では、赤ずきんと魔女バーバラ(キムラ緑子)とのやりとりが秀逸だ。
「あなたの靴、シンデレラに貸してあげなさいよ」
「え、なんでワシが?」
「いや、まあいいからさ、じゃないから」
「ほら」
「脱がないから」
「ほらほら」
「脱がない!」
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』9月14日(木)よりNetflixにて世界独占配信
いやもう、頭のてっぺんから足の爪先まで、福田雄一的センスがスパーク。だがこの『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』が他の福田作品と異なるのは、これまでならばパロディとしての舞台でしかなかった<童話の世界>が、我々がすでに「シンデレラ」や「ヘンゼルとグレーテル」のストーリーを知っていることで、ミステリとしてミスリードを誘う仕掛けになっていること。
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』9月14日(木)よりNetflixにて世界独占配信
これ以上はネタバレになるので自重するが、実はなかなかに知的な構造になっているのだ。
いわゆるシネフィルの方々からは敬遠されがちな福田雄一だが、個人的には『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は、単なるパロディではない作品に昇華していると思っている。構えることなく、気軽にNetflixで視聴してみてほしい。
(文:竹島ルイ)
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