『ミナリ』レビュー:韓国系移民家族の運命を描いた壮大かつ秀逸なホームドラマ
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
1980年代のアメリカ、アーカンソー州の高原を舞台に、農業でひと山当てようと夢見て引っ越してきた韓国系移民家族の数奇な運命を描いたホームドラマの秀作。
映画は理想主義者の夫(スティーヴン・ユン)と、彼に振り回されがちな現実主義の妻(ハン・イェリ)との関係性や、田舎生活を嫌がる長女(ケイト・チョー)と病弱な弟(アラン・キム)、そしてまもなくして韓国からやってくる祖母(ユン・ヨジョン)などを中心に、夫の仕事がどうなっていくのか? それに伴って家族の絆はどう変わっていくのか? などに興味が絞られていきます。
特に弟デビッドと祖母スンジャのぎくしゃくしながらもどこか微笑ましい交流は映画の中の大きなキモともいえ、子役アラン・キムの可愛らしさもさながら、韓国映画界が誇る名女優ユン・ヨンジャの名演に触れるだけでも、本作を見る価値は十分にあるといえるでしょう。
また夫の仕事に付き合うアメリカ人ポールを演じるウィル・パットンが、さりげなくも印象深い存在感を披露してくれています。
なお、タイトルの『ミナリ』とは韓国語で香味野菜の「セリ」を意味しますが、この野菜が家族にどう関わっていくのかは、直にその目でお確かめください。
監督は『君の名は。』ハリウッド実写版を撮ることが決定している韓国系アメリカ人リー・アイザック・チョン。
アメリカ映画ではありますが、『パラサイト 半地下の家族』を筆頭に現在ノリに乗っている韓国映画界とも呼応するコリアン・パワーを、さらに痛感させられること必至。
移民に対する差別的な描写は抑え目ながら、それでもどこか周囲と孤立している異邦人「一家」の悲喜こもごもに焦点を当てているのも妙味です。
現在世界各国の映画祭を席捲している本作、中でも観客賞を数多く受賞しているあたり、国の別を抜きにした「家族」の存在に世界中の人々が共感している証左ともいえるでしょう。
広大な地を活かしたスケール感もさりげなく巧みに描出されており、映画ならではの醍醐味もとくと堪能できる逸品です。
本年度のアカデミー賞の発表が楽しみになってきました。
(文:増當竜也)
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Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24