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映画コラム

REGULAR

2023年10月14日

重度障がい者殺傷事件を描く映画『月』の「多くの人が目を逸らしてきたこと」に向き合うための「5つ」の覚悟

重度障がい者殺傷事件を描く映画『月』の「多くの人が目を逸らしてきたこと」に向き合うための「5つ」の覚悟



1:感情移入しやすい主人公との、真っ向から言葉をぶつけ合う対決

元有名作家の洋子(宮沢りえ)は、森の奥深くにある重度障がい者施設で働き始める。光の届かない部屋でベッドに横たわったまま動かない、きーちゃんと呼ばれる入所者と出会った洋子は、自分と生年月日が一緒のきーちゃんのことを他人だとは思えなくなる。

一方で洋子は職員による入所者へのひどい扱いや暴力を目の当たりにする中で、同僚のさとくん(磯村勇斗)にも異変が起こっていることに気づく。

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原作は、「寝たきりの重度障がい者のきーちゃんの想念が展開し続ける」特徴を持つ、かなり難解なところもある小説だった。一方でこの映画では「重度障がい者施設で働き始める」主人公の視点を新たに置くことで、「この場所を初めて知る」観客と一致しているため、誰にでも感情移入しつつ物語を追うことができるだろう。

オダギリジョー演じる夫はうだつが上がらないが朗らかでキュートな人物であるし、磯村勇斗や二階堂ふみが扮する職員も「こういう人はいそうだなあ」と思えるリアルな人物造形になっていた。

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そうした親しみやすさがあるからこそ、2人の職員が憔悴していく様、はたまた他の職員が「必要悪」とでも言いたげな態度で他の職員が入所者に暴力を振るう様がギャップとなり戦慄する。

そして、これまで「普通の青年」にも思えた磯村勇斗が歪んだ「正義」を語り、観客に近い倫理観を持つ役柄の宮沢りえが、真っ向から言葉をぶつけ合う様は圧巻だ。

それまでの「小さな積み重ね」が伏線となっていたからこそ、この2人の会話劇から目が話せなくなるだろう。

2:徹底的なリサーチが行われた施設のリアリズム

本作ではこの題材を扱うに当たって、徹底的なリサーチが行われている。石井裕也監督はアプローチできる重度障がい者施設には可能な限り入ったそうだ。劇中の障がい者施設はその取材を反映したセットで作り込まれている。

映画を観た障がい者施設の従事者からは「数年前の環境を思い出すほどによく再現されている」という声もあったそうだ。

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脚本も兼任している石井裕也監督は「この映画で描いた、障がい者施設で起こっていることに関しては、全部事実です。障がい者施設の中のことに関しては、絶対に嘘はつくまいと思って、事実としてあったことしか描かないと決めていました」と矜持を語ると同時に、「僕が実際に見たのはそういう劣悪な環境の施設ばかりではありませんし、今まで問題があった施設でも、日々改善の努力がなされていることはきちんと強調しておきたい」とも語っている。

劇中のような重度障がい者施設は実際に存在していて、これまで間違っていたことも行われてきたが、劇中の出来事が全ての施設に当てはまるわけではないことを、確かに留意したほうがいいだろう。

その上で、そう是正される前の「虐待の常態化や、閉鎖的な労働環境」を映画で体感し、「こうなってはならない」と思うことにも、大きな意義がある。

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