©2023「愛にイナズマ」製作委員会

不満をためている役のハマり度120% | 松岡茉優の魅力がわかる映画“6選”

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『愛にイナズマ』が2023年10月23日より公開中。わずか2週間前に『月』が公開されたばかりの石井裕也監督による、オリジナル脚本の映画だ。

タイトルからどういう映画であるかが想像つきづらいと思うが、「笑いと感涙の痛快エンタテイメント!」という触れ込み通りをそのまま期待すればよい、万人向けのラブコメディドラマでありながらも、予想外の感動もある作品なので、あえて予備知識をまったく入れずに「そういう話だったのか!」と驚いてみても良いだろう。

ここでは、何よりも主演の松岡茉優を推したい。窪田正孝、池松壮亮、若葉⻯也、佐藤浩市らなど豪華キャスト共演の中でも、これまで演じてきた役柄の総決算と言えるほどのハマり役だったからだ。そんな松岡茉優の魅力を知れる代表的な映画を紹介しよう。

1:『勝手にふるえてろ』(2017年)



綿矢りさによる小説の映画化。松岡茉優が演じるのは、恋愛経験がなく、中学時代の同級生への思いを今も引きずる「イタい」女性。その「こじらせ」感がなんともおかしくも愛おしくて、同時に共感もしてしまうコメディドラマとなっていた。男性も彼女と同じかそれ以上の一方通行の恋心を放出させる渡辺大知演じる青年に「こういうところは自分にもあるかも……」と思ってしまうかもしれない。

この主人公を下手に演じてしまうと、わざとらしくなってしまったり、はたまた嫌悪感を抱くキャラクターになってしまってもおかしくない。だが、松岡茉優だからこその「険悪な空気の中に漂うキュートさ」のおかげでまったく憎めず、もはや彼女以外は考えられないほどの、唯一無二のキャラクターにもなっていたと思う。爆笑必至かつ複雑な感情が駆け巡るクライマックスまで見届けてほしい。

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2:『万引き家族』(2018年)



第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し話題を席巻した本作は、出演者それぞれが「もはや俳優ということを忘れて、実在する間違っているけど愛おしい人にしか見えない」ことも大きな見どころ。松岡茉優が演じるのは「JK見学店」という風俗に勤務している女性で、家族の中では比較的常識人に見える時もあるが、何か本当の心を押し殺しているような危うさと苦しさが伝わってくる。

特に、「痛いよね、これ痛いよね」「あったかいね」とJK見学店の常連客に語りかける場面では、共感力が高すぎるあまり深く傷ついていることと、その溢れんばかりの優しさを、松岡茉優は複雑かつ繊細な表情で見せきってくれた。なお、是枝裕和監督は松岡茉優に合わせて、キャラクター設定を含めて脚本を書き直していたそう。それだけ彼女の存在が重要だったと思い知らされる。

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3:『蜜蜂と遠雷』(2019年)



直木賞と本屋大賞をダブル受賞した小説を映画化。登場人物の生活描写はごく最小限で、その他のほぼ全てがコンサート会場の中だけで展開するストイックな作風ながら、音楽と画の力で語りきっている。石川慶監督は『愚行録』『Arc アーク』『ある男』と小説の映画化のため再構築がそれぞれ見事だが、今回の2時間の映画への「圧縮」ぶりには感嘆するばかりだ。

実質的に4人いる主人公それぞれの個性もまた大きな見どころで、お互いが良きライバルであると同時に、良き理解者でもある関係性はどこか危ういが同時に清々しい。松岡茉優が演じるのは他キャラクターよりも繊細で、だからこその大きな変化も訪れる「かつての天才少女」。孤独であるがゆえのピアノを心の拠り所にしつつも愛していることがわかるその表情、そして鈴鹿央士とピアノの連弾のシーンは白眉だろう。

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4:『劇場』(2020年)



又吉直樹の小説の映画化作品。山崎賢人がダメ男を好演しており、淡々と日常を追い続ける内容でありながらも、「劣等感を持つ人は過度に褒められることが辛いこともある」事実も提示される、良い意味で心をグサグサと刺されるような痛切さもあるドラマ。松岡茉優が演じるのは、そのダメ男がずっと部屋に上がりこんでいて、生活費をまったく払おうとしなくても、強く責められず、甘やかしてばかりの女性だ。

その様は健気と同時にやはり不憫で、ダメ男のほうも決して彼女を愛していないわけではない、というのが余計に共依存的な関係を強固にしてしまう。そんな危ういカップルのやり取りを眺めているだけで、たまらない感情を呼び起こされる作品だった。エンドロールも含め映画館で観ることを前提した作りにもなっているので、家で観る際もなるべく「浸る」ように鑑賞することをおすすめしたい。

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5:『騙し絵の牙』(2021年)



大泉洋をイメージして主人公を「当て書き」された小説を実際に大泉洋主演で映画化。宣伝ではどんでん返しがセールスポイントになっているが、本編の魅力はどちらかと言えば「利益」や「面白さ」などの目的で揺れる編集部の人間たちによるパワーゲーム。複雑な価値観の交錯する様がとても面白く、豪華キャストそれぞれが持ち味を最大限に生かした濃厚な作品になっていた。

吉田大八監督は多くの作品で「脆く儚い、何かの価値観にすがって生きている人」の話を描いているが、今作で松岡茉優が演じる生真面目な若手編集者もまさに「本が好き」なことが一貫していて、その一途さを応援したくなる。それでいて「お前誰だよ!」というツッコミは爆笑ものの面白さであるし、大泉洋演じる上司へ「なんか、ずるいなあ」と言った時の表情も忘れられない。松岡茉優のチャーミングさがあってこそ、良い意味で釈然としない気持ちも残るクライマックスも、痛快に感じることができたのだと思う。

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6:『愛にイナズマ』(2023年)



松岡茉優が演じるのは、映画監督デビューを目前に控えていながらも、全てを失ってしまう女性。そこに至るまでの会話劇はかなり痛々しく、特に慇懃無礼な態度で否定と冷笑をし続ける助監督役の三浦貴大が心の底から大嫌いになれる(褒めている)が、だからこそ不器用でも彼女に真摯に向き合おうとする窪田正孝との関係が愛おしくなっている。

そして、今回の松岡茉優の魅力の筆頭は「キレ芸」。いくら不憫な状況だとしても、彼女が家族に強いることは意味不明かつ理不尽なのに、さらに逆ギレそのものな言動をして呆然とさせて、それを窪田正孝がフォローをしているようでまったくできていない、といったボケとツッコミの応酬ががおかしくて仕方がない。とはいえ物語の根底には切なさがあり、口では何だかんだと言いつつも、家族をお互いに思う様が繊細にも描かれている、それがこの世にはびこる悪意への、せめての抵抗になるかもしれないと思える、優しい物語にもなっていた。

松岡茉優は「不満を溜めている」役にハマる

その他、意地の悪い少女を演じていた『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、浮世離れしたクイーン役だった『ちはやふる』三部作、3人のきょうだいの中でも中立的だからこそ不満を募らせる『ひとよ』(2019年)なども、やはり強く印象に残る。

さらに、『映画 聲の形』(2016年)のいじめをしてしまう小学生男子、はたまた『バースデー・ワンダーランド』(2019年)の学校に通えず前に進めなくなった少女など、アニメ映画での声の演技も抜群に上手い。2023年11月23日公開予定の『劇場版 シルバニアファミリー フレアからのおくりもの』にも大期待だ。



こうして作品を振り返ると、松岡茉優は総じて「何か不満を溜めている」役がこれ以上なくハマっていると思い知らされる。ヒリヒリした空気を感じさせ、それが「爆発」してしまいそうな危うさと苦悩がその表情からわかるからこそ感情移入もできるし、時にはそのイタさを気兼ねなく笑えるコメディにも昇華させるほどの親しみやすさも備えている。

それが爆笑もののキレ芸で、見事に爆発した『愛にイナズマ』は、松岡茉優のある種の「到達点」にも思えたのだ。ファンは是が非でも劇場で見届けてほしい。

(文:ヒナタカ)

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