「虎に翼」”失踪男爵”というワードのインパクト<第28回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第6回を紐解いていく。
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香淑、涼子、梅子
友情で日本に残っていた香淑(ハ・ヨンス)が祖国・朝鮮に戻ることになり、しんみり。このままでは嫌だと思った寅子(伊藤沙莉)は「素敵な場所で楽しい気持ちになって帰ってほしい」と海に行くことを提案します。朝ドラで海の場面が出たら名場面。と思ったら、あいにく、空は曇っていて寒く、パーッと素敵で楽しいムードとは程遠いものでした。思えば、寅子たちの行く道はいつも思っていたものとは違う方向に行くと振り返ります。
でも「最後はいい方向に流れて」と香淑。この海もきっといい思い出。
かつて「ひよっこ」では水着で海と盛り上がったら雨で海にいけなかったというエピソードがあって、それもかえって良いエピソードになりましたし、曇った海で呆然と立ち尽くすのもまた一興です。
「こうやってずっと思い出をつくっていくと思っていた。5人で、いや6人でね」と梅子(平岩紙)。女中の玉(羽瀬川なぎ)も仲間と考えているのが良いですね。彼女も一緒に勉強していましたし。
涼子(桜井ユキ)は香淑の本名を聞いて、その名前(ヒャンちゃん)を呼びます。
ヒャンちゃんが帰国して、素敵な海の風景で終わるかと思えば、次は涼子の家庭問題が勃発。
彼女の父(中村育二)が芸者と駆け落ちしてしまいました。雑誌には「失踪男爵」と書かれていて、世間が揶揄しているのがわかります。
「花子とアン」では花子(吉高由里子)の親友・蓮子(仲間由紀恵)が自由を求めて駆け落ちしましたが、婿養子の男性が駆け落ちというのは興味深い。男性が女性(というか家とか権力)に抑圧されていることをここで描くとは。
自由に生きろと言って去った父・不在の家を守るため、涼子は受験を諦め、結婚することになるという皮肉。
心配してやって来た寅子たちに、涼子の母(筒井真理子)は酔っぱらいながら貴族議員院の男爵に口添えして試験に合格できるようにしましょうかと言います。何かに頼るのではなく、自分たちのちからで合格したいのだと寅子は断ります。
第27回では反体制派の者が試験に受かるわけないと特高警察が香淑に言っていましたし、実力があっても試験に受からないこともあるし、実力がなくても試験に受かることもあるという、公正な法を司るための試験にもかかわらず全然公正じゃないのです。
理想はあるけれど、なかなか思う通りにはいかない。まるであの日の海のように。
香淑、涼子が去り、さらに梅子も……。夫に離婚届をつきつけられ、子供に会わせないと言われてしまったからか試験に現れませんでした。海辺に立つ梅子の顔色がまた白すぎる。
寅子、優三(仲野太賀)、よね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)、中山(安藤輪子)が試験に臨みます。轟も今回は受けるんですね。がんばれ。
毎回、15分のなかにいろいろなエピソードが詰まっていて、前半の話を忘れてしまいそうになるくらいで、今回も、香淑との別れが別の回かと思うように、
話があれよあれよという間に進んでいきます。とはいえ決して、それぞれのエピがぶつ切りで物足りない感じはなくて、その瞬間の満足感がちゃんとあって、エピソードの配分とつなぎ方がじつに達者。これ、ともすればただの羅列になってしまいがちですが、そうならないところは才能でもあり鍛錬の賜物でもありなにより真摯に取り組んでいるんだろうと感じます。
お腹を下しそうな優三を変顔でリラックスさせる寅子の場面も良かった。
さて、忘れてはいけないこと。ドラマから離れて現実の話です。2024年5月7日、放送法の改正案が衆議院本会議で賛成多数で可決され参議院に送られました。インターネットを通じた番組などの提供をNHKの必須業務にすることなどを柱とするものです。
法の改正が悪いことではないという気持ちにドラマを見て思っていたところに絶妙のタイミングです。はて。
(文:木俣冬)
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