「おむすび」沙智(山本舞香)は「若い男子という生き者」が苦手だった【48回】
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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第48回を紐解いていく。
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美佐江にもつらい記憶が
結(橋本環奈)たちJ班は子ども防災訓練の炊き出しメニューを考えるにあたり、当時の話しを商店街の人々に聞くことにしました。当時、永吉(松平健)がトラックに乗って食材を持ってきたことは、大変ありがたい記憶のはずが、聖人(北村有起哉)はちょっと苦い顔をしています。父に助けてもらうのがいやなのでしょう。
永吉は、お菓子なども積んできたものの、途中で配ってしまい、結たちを見つけたときには物資は少なくなっていました。永吉の人の良さを感じさせるお話です。
お味噌汁には永吉が遠方からもらってきた豆腐が入って、充実したものになったのです。
豆腐は高齢者にも食べやすい。確かに。
永吉が被災地から遠い人たちが、心配だけど行ったら迷惑なのではないかと気にしていることを伝え、そこから、助け合いがはじまっていきます。
何か言いたかったり行動したかったりするけれど、動けない人はいるもので。その人たちに手を差し伸べるのが永吉であり、米田家なのです。
この回では、歩(仲里依紗)が、古靴のカスタムを渡辺(緒形直人)に頼む気まんまんで、大量に古靴を集めていました。なにかに熱中していると少しは気が紛れることを歩も経験していました。
豆腐は「栄養パンパン」という永吉。ずっと気になっているのですが、「おむすび」では「栄養パンパン」という言葉が時々出てきます。
「栄養たっぷり」とはよく言いますが「パンパン」って言います? はち切れそうに栄養が詰まっているという意味は伝わってくるのですが、なんか慣れないのは筆者だけでしょうか。
それにしてもすっかりチームワークの良いJ班。
仲良くなるといろいろわかってくるもので、沙智(山本舞香)の秘密がまたひとつ明かされます。それは
「若い男子という生き物」が苦手であること。近くにいるのが中年男性のモリモリ(小手伸也)で良かった。栄養学校には男子はまったくいないのか。陸上競技の場には同世代の男子は全然いない、わけないと思いますが……。
まあ、沙智の弱いところが出てそれは可愛げということでしょうかね。
沙智の弱点が現れたきっかけは四ツ木(佐野勇斗)。結に相談ごとがあって学校に来たのです。スランプに陥って、球の速度が出ない四ツ木に、結は速くないといけないのかと別の角度から考えることを示唆します。球が速くないなら速くないなりの良さを見つければいいと。
「他人の眼は気にしない」「翔也は翔也らしく」。この考えはギャルの掟であり、先日終了した連続ドラマ「無能の鷹」(テレビ朝日)の内容のようでもあります。「無能の鷹」は会社で何もできない主人公を、まわりがサポートして、彼女の個性を活かしていくお話で、ひじょうに勇気というか救いを感じるドラマでありました。
結のこの寛大な発想は、引いては震災経験者にはじつにいろいろな人がいるということにつながっています。どういうことかというと、震災で受けた衝撃から早く立ち直った人もいれば、なかなか立ち直れない人もいる。すぐにパワフルに動ける人もいれば、どうしても動けない人もいる。それを一定の基準で良い悪いと判断することはできないのです。
ところが美佐江(キムラ緑子)は、渡辺がいつまでも何もしないで塞いでいることを良く思っていません。彼女も震災で身内を亡くしているけれど、無理に明るく振る舞っているから歯がゆいようです。やっぱり、彼女がいつも妙に空元気ぽいように感じたのはそのせいだったのかもしれません。ただ、そのやり方を他者に求めるのは筋違いなのです。
かように、このドラマを見ていて、例えば「栄養パンパン」という言葉がしっくりこなくても、そういう言葉を使う人たちがいることを受け入れたいし、米田家の人たちが苦手と思っても、こういう人たちもいると受け入れたいし、渡辺も渡辺だし、美佐江もいくらなんでもキツイだろうと思っても、受け入れたい。「若い男子という生き物」も受け入れたい。「若い男子という生き物」が苦手な人も受け入れたい。「おむすび」は異なる価値観を受け入れるという、人類最大の問題に挑んでいるのです。
(文:木俣冬)
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