「地上300mの心拍数」——超高層で起きる“最悪”を描いた3本

金曜映画ナビ

地上から見上げれば、超高層は文明の誇り。
けれども、ひとたび異常が起きれば、その高さは逃げ場のない“縦のダンジョン”に変わる。
今回の「金曜映画ナビ」は、摩天楼を舞台にした名作・異色作を3本ピックアップ。
超高層火災パニックの金字塔『タワーリング・インフェルノ』、企業の欲望が渦巻く昭和サスペンス『超高層ホテル殺人事件』、そして“あの日”を密室劇で捉え直す『9/11(ナインイレヴン)』。
足がすくむスリルと同時に、人間の小ささと逞しさが見えてくる。


1. 『タワーリング・インフェルノ』(1974年)

(C) 1974 20th Century Fox Film Corporation and Warner Bros. All rights reserved.

——炎は上へ、恐怖も上へ。パニック映画の金字塔

サンフランシスコに完成した世界最高層「グラス・タワー」。
落成式の祝宴が進む中、中層階の電気室から出火。
スプリンクラーは機能不全、エレベーターは阿鼻叫喚。建築家ダグと消防隊長オハラハンは、炎と闘いながら何百人もの命を“上へ逃がす”ための策を捻り出す。

見どころ

  • オールスター群像劇:ポール・ニューマン×スティーブ・マックィーンの二大スター競演。
    衝突と協力、そのダイナミズムが火勢とともに加速する。
  • 実感の特撮・スタント:巨大セットを“本当に燃やす”旧来の方法論が、物理的な恐怖を画面に定着させる。
  • 映画史級の名場面:屋上水槽の決死作戦。
    知恵と蛮勇が同居するスペクタクル。

制作背景・トリビア

  • 異例の大手スタジオ共同製作。
    二つの原作を統合して一本化した“合同超大作”。
  • スターの格をめぐる火花も名物。
    ポスターの“斜めクレジット”は映画宣伝史の逸話。
  • アカデミー賞で撮影・編集・歌曲の3部門受賞。
    主題歌のロマンティックな余韻が、地獄の夜に人間味を取り戻す。

レビュー

“高さ”は文明の誇示であり、リスクの増幅器でもある。
半世紀を経ても古びない大画面の圧。


2. 『超高層ホテル殺人事件』(1976年)

(C)1976年松竹株式会社

——摩天楼ホテルで起きる“おもてなし”無用の連続殺人

新宿副都心を思わせる高層ホテルの開業記念パーティーで総支配人が転落死。
激震の中、創業者も倒れ、後を継いだ息子・杏平は、政財界の利権渦巻くホテルを守ろうと奔走するが、次々と不可解な死が…。
きらびやかな宴は、たちまち血の匂いを孕んだ“密室化”した摩天楼へ。

見どころ

  • 昭和サスペンスの旨味:高層ホテルという“閉じた箱庭”に、情念・思惑・出世欲が渦巻く。
  • 大胆なトリック:転落死を装う“常識外”の仕掛けは語り草。
    理詰めと劇的が同居する。
  • 俳優の色香:由美かおるの妖艶、近藤正臣の二枚目。
    視線の交錯がそのまま火種に。

(C)1976年松竹株式会社

制作背景・トリビア

  • 森村誠一のベストセラーを映画化。
    超高層が“新しい日本の象徴”だった時代空気が濃い。
  • 後年も繰り返し映像化された人気作で、昭和の企業サスペンスの雛形としても楽しめる。

レビュー

高層=先端という祝祭ムードを、嫉妬と利権が侵食する。
夜景の美が、そのまま人間の浅ましさを照らす。

(C)1976年松竹株式会社


3. 『ナインイレヴン 運命を分けた日』(2017年)

(C)2017 Nine Eleven Movie, LLC

——世界貿易センタービルで“止まった”エレベーター、動き出す人間

2001年9月11日、世界貿易センター北棟。
偶然乗り合わせた5人が衝突の衝撃でエレベーターに閉じ込められる
窓もなく、情報もわずか。頼りは無線越しのオペレーターの声だけ。
見知らぬ他人が“運命共同体”になるまでの90分。

見どころ

  • 極限の会話劇:密室は人間をむき出しにする。
    プライド、悔恨、祈り——“語ること”が生の術に変わる。
  • 豪華キャストの真剣勝負:チャーリー・シーン、ジーナ・ガーション、ウーピー・ゴールドバーグらが、呼吸と間で緊張を編む。
  • “あの日”の別視点:巨大な事件を、名もなき5人の“個人的地獄”として圧縮。
    記憶に新しい史実へ、静かな再接続。

(C)2017 Nine Eleven Movie, LLC

制作背景・トリビア

  • 舞台劇『Elevator』を基に映画化。
    証言や通話記録の調査を重ね、フィクションにドキュメンタリーの質感を導入。
  • 主演チャーリー・シーンの真摯な演技は、キャリアの転機として語られる一本。

レビュー

高層の閉塞を、声と意思でこじ開ける小さな英雄譚。
誰かの「あなたは一人じゃない」という言葉が灯になる。

(C)2017 Nine Eleven Movie, LLC


3本に通底する“高さ”の寓意:逃げ場のない縦社会で、何を信じるか

超高層は舞台装置として魅力的だ。
エレベーターが止まり、階段は煙で塞がれ、屋上は運に委ねるしかない。
横へ逃げる自由を奪い、縦だけを強いることで、映画は登場人物の選択と性格を極端に浮かび上がらせる。

  • 『タワーリング・インフェルノ』は、テクノロジーの慢心を人間の知恵と献身で乗り越えるドラマへ。
  • 『超高層ホテル殺人事件』は、繁栄の象徴に忍び込む欲望と虚栄を暴く。
  • 『9/11』は、世界規模の悲劇の只中で個人の尊厳を拾い上げる。

3本とも、“高さ”は単なる背景ではなく、人間の本性を試す圧力装置だ。
手のひらに汗が残るのは、恐怖のためだけではない。
自分ならどうするか——という倫理の体温が確かに宿るからだ。


スクリーンを降りても、上を見上げてしまう夜に

摩天楼は今日も眩しい。
だが、今日の一本が、あなたの“見上げ方”を少し変えるかもしれない。
炎の中で交わされる無言の連携(『タワーリング・インフェルノ』)。
シャンデリアの影でうごめく野心(『超高層ホテル殺人事件』)。
暗闇の箱の中で重なる鼓動(『9/11』)。

高さは、恐怖の単位であり、希望の単位でもある。
スクリーンのこちら側にいる私たちは、そのどちらにも震えながら、もう一度、上を見上げる。
——高所恐怖症の方は、本当にくれぐれもご用心を。

配信サービス一覧

『タワーリング・インフェルノ』
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『超高層ホテル殺人事件』
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『ナインイレヴン 運命を分けた日』
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