これから訪れる「真夏」にお届けしたいホラー映画4選

Photo by Ján Jakub Naništa on Unsplash 

なかなか梅雨が明けず、暑いという実感を得られているのかすらあやふやな2020年の7月ですが、それでもやはり夏は夏。

そして夏といえば、ホラー映画!

今回は特選の4タイトルをご紹介したいと思います。

冷房の効いた部屋で、ブルブル震えながらご覧ください。

レザーフェイスの狂気錯乱!
『悪魔のいけにえ』(74)

墓荒らしが問題になっているテキサス州の夏に帰郷してきた5人の男女が道中ひとりのヒッチハイカーを拾いますが、これを機に謎のソーヤー一家によって恐怖のどん底に突き落とされていきます……。

これぞマスター・オブ・ホラーの異名をとるトビー・フーパー監督の出世作。

真夏の汗も引くかのような乾いた不気味な世界観が全編を覆いつくす中、残虐非道な行いに快楽を見出すソーヤー一家の人々の狂気とそれゆえの恐怖が、これでもかという尋常ならぬ破壊力を伴う演出によって紡ぎだされていきます。

中でも人の皮で作ったマスクを顔に貼り、チェーンソーで若者たちを襲う一家の4男ババ、通称レザーフェイスの存在感は圧倒的で、以後彼を主軸とするシリーズ作品が幾度も作られることになっていきました。

意外なのはこの作品、チェーンソーで人が切り刻まれていくといったあからさまな残虐スプラッタ描写はなく、徹底した不穏な演出のみを貫きながら恐怖を構築し得ていることで、劇中音楽もなく、逆に効果音を際立たせる趣向もなされています。

ミステリか? 怪談か?
『八つ墓村』(77)

横溝正史原作のミステリ小説を『砂の器』の名匠・野村芳太郎監督のメガホンで映画化した超大作。

祖父を名乗る男の毒殺事件に遭遇したことをきっかけに、自身が生まれたとされる“八つ墓村”を訪れた青年が猟奇連続殺人事件に巻き込まれていきます。

この村ではかつて戦国時代に8人の落武者が村人らに惨殺されたことからもたらされた“祟り”の伝説が、今なお人々の心の片隅に染みついているのでした……。

本作が公開された1977年は『犬神家の一族』(76)に始まる横溝正史ブームで『悪魔の手毬唄』『獄門島』といった作品が映画化されて人気を博し、同時に坂口安吾原作の『不連続殺人事件』、江戸川乱歩原作の『陰獣』、夢野久作の『少女地獄』、森村誠一の『人間の証明』などが映画化され、空前のミステリ映画ブームが到来していました。

しかし、それら以前から企画されていた本作は、一見祟りの概念を用いた殺人事件といった原作小説の枠を逸脱し、見る者にトラウマを引き起こすかのような凄惨な残虐シーンの数々とともに、もしやこれは本当に祟りが引き起こした事件なのではないかと思わせる描写がなされていました。
(特に8人の落武者惨殺シーンや、昭和初期に繰り広げられた32人村人殺し、そして村の地下にある広大な鍾乳洞で繰り広げられるクライマックスと、そのおぞましき顛末は圧巻!)

このことで公開当時は原作ファンの間で激しい賛否が巻き起こりましたが、今では秀逸な現代怪談映画として評価されています。

実は1977年、ミステリ映画と共に『犬神の悪霊(たたり)』『HOUSE』といったホラー映画や『恐竜・怪鳥の伝説』といった猟奇怪奇風味のパニック映画も公開されており、本作もその流れから見ていくと当時の社会や映画界の流れなども見えてくるかもしれません。

ユニークなキャステイングで実現!
『ゲゲゲの鬼太郎』(07)

もはや説明も不要な水木しげる原作の人気漫画を『空飛ぶタイヤ』『居眠り岩音』などの俊英・本木克英監督のメガホンで2007年に映画化した実写作品。

ここでは邪悪な妖怪石をめぐっての怪事件にご存じ鬼太郎が挑むといったストーリー。

恐らく大半の方が気になるのはキャスティングの妙味でしょう。

鬼太郎(ウエンツ瑛士)、ねずみ男(大泉洋)、猫娘(田中麗奈)、砂かけ婆(室井滋)、子泣き爺(間寛平)、そして目玉おやじの声はTVアニメ版の田の中勇が演じています。

ゲスト・ヒロインとして井上真央が登場することで、原作よりも成長して思春期真っただ中(ちょっと反抗期も入っている?)鬼太郎の青春映画的な風味もまぶされています。

本作は好評につき、2008年には続編『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』も作られましたが、第1作が陽性のテイストとみなすと第2作は陰性のおどろおどろしい要素が強まっており、またここでぬらりひょんを演じた名優・緒形拳の映画遺作にもなりました。

両作共にツボにキャスティングと、CGを駆使した妖怪ワールドの妙味に唸らされる快作です。

インディペンデント映画の新風ホラー
『血を吸う粘土』(17)

デジタルをはじめとする映像表現技術の躍進は、21世紀の若いインデイペンデント系を含む映画人に多大なチャンスをもたらすようになっており、その中でファンタステイック・ジャンルの映画作品の制作も以前より盛んになっています。

特殊造形作家として数々の映画やドラマ野特殊メイクを担当する梅沢壮一が初めて監督した『血を吸う粘土』もその1本。

とある山奥の美術大学予備校に転入してきたヒロインが、倉庫に眠っていた水粘土の粉に水をかけて粘土に戻して課題制作に使います。

しかしこの粘土、かつて無残な死を迎えた彫刻家の怨念がこもった呪いの粘土“カカメ”であり、次々と予備校生を襲っていくのでした……。

アイデアとその実践でいくらでも面白い映画は作れるという一つの例ともいえる作品。

本作も好評につき、続編『血を吸う粘土 派生』(19)が作られ、また梅沢壮一は『恐怖人形』(19)『シグナル100』などの特殊メイクの仕事と並行しながら、第3作『積むさおり』を自主製作で監督するなど旺盛な活動を示し続けています。

現在、映画を目指す人々の指針のひとつとしても注目すべき作品であり、映画人でもあります。

(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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