海賊ジャック・スパロウに先駆けた海洋冒険映画『コン・ティキ』

(C)2012 NORDISK FIRM PRODUCTION AS

7月1日より『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』が公開となります。ジョニー・デップ扮する海賊ジャック・スパロウが大活躍するシリーズ第5弾、今回は彼の出生の謎も解き明かされるということで、心待ちにしているファンの方も多いかと思われますが、その監督を務めるのはノルウェー映画界の才人ヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドリム。

今回は、このコンビがハリウッド進出するきっかけになった冒険歴史スペクタクル映画『コン・ティキ』を紹介いたします。

古代の筏で太平洋横断に挑んだ
人類学者の大冒険!

映画『コン・ティキ』は1947年、古代ペルーの筏を再現して太平洋横断に挑んだトール・ヘイエルダールの冒険を、総製作費20億円をかけて描いた作品です。

ノルウェーの若き人類学者だった彼は、南太平洋諸島に暮らすポリネシア人の祖先はアジアから来たという通説に対し、南米から来たアメリカ先住民族であると主張し、それを証明するために自ら1500年前の材料と技術を用いてマストとキャビンを持つ大型の筏コン・ティキ号を作り、彼に賛同する5人の仲間とともに同年4月28日にペルーのカヤオ港を出港し、ポリネシアまで、およそ8000キロにも及ぶ航海、いや無謀ともいえる漂流の旅へと乗り出していくのでした。

何の動力も持たない筏が、果たして風と海流だけで南太平洋まで漂着できるのか?

当然ながら道中、鮫の襲来や荒れ狂う嵐、現代の材料や技術を一切使わずに作った筏の強度に対する不安、命綱であった無線機の故障などなど、さまざまな危険が彼らに襲いかかっていきます……。

実話の映画化なので結果を記してしまいますと、コン・ティキ号はフンボルト海流に乗ってヘイエルダールの予測通りに西進していき、102日後の8月7日、ツアモツ諸島ラレイア環礁で座礁し、その旅は終わります。

もっとも、これでヘイエルダールの学説が正しいと証明されたわけではなく、現在に至るも否定的見解のほうが優勢を占め、熱い議論が闘わされています。

ただし、彼らが行った漂流実験そのものに対しては、称賛する声が圧倒的です。

ヘイエルダールは48年に漂流航海の模様をまとめた『コン・ティキ号探検記』(児童向け『コンチキ号漂流記』もあり)を出版。これは全世界で5000万部の大ベストセラーとなり、本作の原作にもなっています。

1951年には長編ドキュメンタリー映画“Kon-Tiki”が製作され、同年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。

インカ帝国の太陽神ビラコチャの別名から命名された“コン・ティキ”号は、現在ノルウェーのコンティキ・ミュージアムに展示されています。

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リアリティあふれる海洋シーン
そして人間描写!

映画『コン・ティキ』は、『戦場のメリークリスマス』『ラストエンペラー』などで知られる大プロデューサー、ジェレミー・トーマスが構想16年を経て完成させた執念の作品であり、ノルウェーで2012年に公開されるやその年最大のヒットとなり、ハウスゲンの第40回ノルウェー国際映画祭で観客賞を受賞しました。

米アカデミー賞およびゴールデングローブ賞外国映画賞にもノミネート。

撮影に際しては、海洋場面をセットではなく実際の海で敢行。これによって生じる難問そのものが映画のリアリズムに大きく貢献すると踏んでのことで、その成果は一目瞭然。

こうした挑戦からも、“パイレーツ・オブ・カリビアン”なる海洋スペクタクル・シリーズ最新作のために、ハリウッドが本作の監督を招いたのも当然かなと納得させられるものがあります。

ヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドリムは、本作以前にもメキシコの女銀行強盗コンビの活躍を描いた西部劇『バンディダス』(06)、ナチス占領下のノルウェーで反ナチ・レジスタンス運動のリーダーを務めたマックス・マヌスを主人公とする『ナチスが最も恐れた男』(08)と、ユニークな作品を撮っており、映画マニアにはその名を知られる存在でした(この2作、ともに日本では未公開でDVDスルーながら、かなりの快作です!)、本作以後はテレビシリーズ『マルコポーロ』(14/ヨアヒム・ローリングが単独監督)を任されています。

本作の演出に関しては、やはり海洋冒険劇ならではのダイナミズムと、ヘイエルダールをはじめとする紳士的な人間描写を巧みに両立させていることでしょう。

その一方で、筏という狭い空間の中でずっと共に旅を続けていく中、6人の男たちの人間関係が徐々に、そして微妙に赤裸々さを感じさせるものへと変わっていくあたりのリアルさにもハッとさせられるものがありました。

海賊と人類学者、職業こそ全く異なれど、海の冒険に挑む男の心意気は同じもの。『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』ともども、ぜひ『コン・ティキ』もお楽しみください。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou

    鹿児島県出身。映画文筆。

    朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。

    取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。

    編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊)

    その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。

    ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊)
    現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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