『疑惑のチャンピオン』と悪い奴ほどよく眠ろうとする映画5選

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黒澤明監督の名作『悪い奴ほどよく眠る』が喩えるがごとく、世の中は悪い奴ほど巧みに世の中を渡り歩き、善人はそのあおりを受けてしまいがちです。

かたや1月25日から公開される『天才作家の妻 40年目の真実』では、ノーベル文学賞を受賞した天才作家の小説を40年間書き続けていたのは、実はその妻であったという衝撃の真実が明かされます。

人生は嘘の積み重ねであり、それをいかに他者にばれないように生き続けていくかという、脅威のギャンブルなのかもしれません。

今回ご紹介する『疑惑のチャンピオン』もまた、世間を欺き続けたスポーツ選手の虚栄がはがれていくさまを描いた実話の映画化です。

奇跡の復活を遂げた
アスリートのドーピング疑惑

『疑惑のチャンピオン』はサイクルロードレースの英雄ランス・アームストロング(ベン・フォスター)のドーピング・スキャンダルを描いたものです。

1993年にデビューして以来順調にキャリアを重ねてきたアームストロングは25歳にして精巣ガンに侵されますが、過酷な大手術とリハビリによって奇跡的に回復し、ロードレースの最高峰とも呼ばれる99年の第86回ツール・ド・フランスに出場して見事に優勝。

難病を克服しての復活に世間は沸きます。

しかし、以前から彼の才能を高く評価していたスポーツ・ジャーナリストのデイヴィッド・ウォルシュ(クリス・オダウト)は、かつて彼が苦手としていた上り坂まで飛躍的に克服していたことに不自然さを抱くようになります。

その後も無敵の快進撃を続けるアームストロング。

しかし、そのつど彼は巧妙な手口でドーピング検査をすり抜け、ウォルシュの追求をかわし続けていきます……。

監督は『ハイロー・カントリー』(98)や『クィーン』(06)『マダム・フローレンス!夢見るふたり』(16)などの名作で知られ、1月25日からは新作『ヴィクトリア女王 最期の秘密』が公開される名匠スティーブン・フリアース。

彼は薬物を使ってまで再起にかけ、勝利にこだわり続けるアスリートはもとより、彼を利用する周囲の者たちの心の闇をドキュメンタリー・タッチで淡々と、しかし確実に描出していきます。

その意味では真実を追求しようとするマスコミ側すらも、どこかスクープ狙いの闇を感じないでもありません。

本作は一見“汚れた英雄”の真実とその断罪を描きながら社会正義を訴えているかのようでいて、一方では栄光の光を強く求めれば求めるほどに、闇もまたそこに群がっていくという人生の真実こそを描きたかったのではないか?

劇中、アームストロングのおかげで希望を持てたという癌患者も登場しますが、そういった前向きな想いすらも当人にとってはプレッシャーとなり、ひいては悪しき行為に手を染めることを正当化するためのフックになっていく……。

いやはや、それぞれの純粋な思惑は、それによっていかようにでも人を変えてしまう恐るべきモンスターなのかもしれません。

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悪しき行為が明るみとなる
映画が持ち得る情緒

では、ここで“悪い奴ほどよく眠る”ではありませんが、悪しき行為をひた隠そうとした者たちの顛末などが描かれた映画をピックアップしてみようかと思います。

●『大統領の陰謀』(76)

大統領の陰謀 (字幕版)

1972年6月17日にワシントンD.C.民主党本部で起きた盗聴侵入に始まるアメリカの政治スキャンダル“ウォーターゲート事件”の真実を追求し、ついにはニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントン・ポストのふたりのジャーナリスト(ポール・ニューマン&ロバート・レッドフォード)を描いたアラン・J・パクラ監督作品。

こちらは、悪事を暴いた側の作品ですが、こういった題材を手掛けて、やはりアメリカ映画の右に出るものはありません。

ちなみに、同じくアメリカ国防省の最高機密文書“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在をワシントン・ポストの面々(メリル・ストリープ&トム・ハンクス)がスクープした様子を描いたスティーヴン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)は、このウォーターゲート事件の始まりを描いてジ・エンドとなります。

●『エイトメン・アウト』(88)

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1919年、全米プロ野球MLBワールド・シリーズでの八百長試合が発覚し、シカゴ・ホワイトソックスの8人の選手が賄賂を受け取っていたとして刑事告訴された“ブラックソックス事件”を映画化したジョン・セイルズ監督作品。

このうちのひとりでファン人気も高かった“シューレス・ジョー”ことジョー・ジャクソンに対し、ひとりの少年が「ウソだと言ってよ、ジョー!」と叫んだ逸話でも知られ、この後球界で何かスキャンダルが起きるとマスコミはこの言葉をもじって見出しにするものだったとも聞きます。
(実際、少年は「本当じゃないよね、ジョー?」と叫んだとか、そもそもマスコミが捏造した言葉であったとか、そのあたりの真相も藪の中ではあります……)

日本では劇場未公開ですが、当時の未公開映画ビデオ・ブームの中で本作はリリースされ、多くの映画ファンの賞賛を得ました。

またちょうど同時期、トウモロコシ畑の中に作った小さな球場の中にジョー・ジャクソンを含む野球選手があの世から次々と戻ってきてプレイするというフィル・アルデン・ロビンソン監督のファンタジー映画『フィールド・オブ・ドリームス』(89)が日本でも大ヒットしたこともあり、俄然注目を集めることにもなったのでした。

●『ディア・ドクター』(09)

ディア・ドクター

人口1000人余りの小さな村で、人々から親しまれ続けていた診療所の医師(笑福亭鶴瓶)が突然失踪し、警察の捜査が進められていく中、衝撃の事実が発覚していきます。

実はこの医者、正体は……。

その年の日本映画の賞をほぼ総なめした西川美和監督のヒューマンドラマ。主演の笑福亭鶴瓶はこれが初主演映画で、また助演のベテラン八千草薫とともに多数の俳優賞を受賞しています。

「その嘘は、罪ですか」のキャッチフレーズが物語っているように、ここでの主人公は悪人というより、むしろ善人と言ってもいいかもしれませんが、では彼はなぜ“嘘”をついて“罪”を重ねていったのか……といった謎の中から、人生の機微が切々と訴えられていく秀作です。

●『コードギアス 反逆のルルーシュ』

コードギアス 反逆のルルーシュI 興道

もともとは2006年より2008年まで2期にわたって放送されたTVアニメ・シリーズです。

舞台は、世界の三分の一を占める神聖ブリタニア帝国の侵攻によって植民地と化した日本=エリア11。

その中で母の復讐と妹未来のため、ブリタニア人のルルーシュは帝国への反逆を開始。

見つめた相手を一度だけ強制的に命令できる力“ギアス”を持つ彼は、素性を隠して“ゼロ”と名乗り日本人(イレブン)反逆分子と手を組み、次々と非情なミッションを遂行していきますが……。

実はこの作品、主人公の立ち位置がかなりの悪役的スタンスで、いわばアンチヒーローとして屹立しており、実にユニークかつ壮大、そして悲壮感を帯びたピカレスク・ロマン足り得ています。

本作は20017年から18年にかけて『Ⅰ興道』『Ⅱ叛道』『Ⅲ皇道』とサブタイトルをつけた総集編映画3部作が製作され、2月8日からはその後日譚となる『コードギアス 復活のルルーシュ』も劇場公開されますが、これが実に秀逸な出来で、イチゲンさんにもおすすめの逸品となっています。

さて、悪しき行為の映画となると、よくよく考えるとそれってほとんど犯罪映画の基本的モチーフであることに気づかされます。

良し悪しは別として、罪を犯し、それを隠し通そうとするのもまた人の常。

その不安定な気持ちの描出こそが、誰もが持ち得るサスペンスとして観客の胸に響いては共感もしくは反感の念を抱かせてくれるのかもしれません。

その意味でも、個人的になぜかすぐに思い浮かべてしまうのは、ルネ・クレマンの監督の名作……

●『太陽がいっぱい』(60)

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貧しく孤独な青年リプリー(アラン・ドロン)が大富豪の息子(モーリス・ロネ)を殺害して彼になりすまし、その恋人(ロミー・シュナイダー)までも我がものとしていく。

しかし、「ああ、太陽がいっぱいだ」と己の絶頂を確信したとき、彼の人生は……。

アランドロンの出世作でもある青春ピカレスク・ロマンの名作は、さながらカミュの『異邦人』さながら若者のギラギラした想いを活写しながら青春の孤独と野心を美しくも空しく描き続けていきます。

悪しき行為を肯定することなどはさらさらないにせよ、そういった良し悪しの行為もまた、人が生きていく上での証なのかもしれませんね。

(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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