香川照之の快演怪演を楽しめる映画5選+1!

(C)2016「クリーピー」製作委員会 

今回は香川照之にスポットを当ててみたいと思います。

俳優として映画やドラマに旺盛に出演死今年も既に『七つの会議』で存在感を発揮している彼ですが、同時に歌舞伎役者・九代目市川中車として舞台に立ち、さらにはEテレ『香川照之の昆虫すごいぜ!』のカマキリ先生などでおなじみの昆虫大好きおじさんとして子どもたちにも親しまれています。

そんな中で2016年に公開された黒沢清監督作品『クリーピー 偽りの隣人』は、香川照之の怪優としての面を大いに堪能できる逸品です。

不気味な隣人に翻弄される
夫婦の恐怖を描く『クリーピー』

クリーピー 偽りの隣人

(C)2016「クリーピー」製作委員会 

前川裕の小説『クリーピー』を原作とする映画『クリーピー 偽りの隣人』の主人公は、元刑事で今は犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)。

ある日、彼は元同僚だった刑事・野上(東出昌大)から6年前に発生した一家失踪事件の分析を依頼され、唯一の生き残りである長女・早紀(川口春奈)を訪ねますが、なかなか核心にたどりつけません。

一方、高倉は妻の康子(竹内結子)とともに郊外へ引っ越しますが、その新居の隣人・西野(香川照之)は一見人好さげながら、どことなくつかみどころのない不穏な雰囲気を漂わせています。

そんなある日、高倉は西野の娘・澪から「あの人はお父さんじゃありません。全然知らない人です」と告げられ……。

『ネイバーズ』(15)など、主人公らが隣人に翻弄されまくるお話自体は割とよくありますが、そういった作品のキモとなるのはやはり隣人を演じる俳優の負の魅力にあるといってもいいでしょう。

『クリーピー』の香川照之は、笑顔の中に狂気をたたえつづけている男で、何よりも会話が全然うまく噛み合っていかないギクシャク感が主人公夫婦のみならず映画を見ている観客をイラつかせては、不気味で不快なオーラを発散し続けていきます。

しかも不思議なことにこの男、催眠術でも使っているのか、周囲の人々をどんどん虜にしていく術を身に着けてもいるのでした。

やがて、この奇妙な隣人と6年前の失踪事件は不気味なラインで繋がっていきますが、主人公夫婦らも否応なく、彼の新たなる“悪魔のいけにえ”に……と、これ以上はネタバレになるので止めておきますが、いずれにしても本作は、そのサスペンスフルなタッチが大いに評価され、その年のキネマ旬報ベスト・テン第8位に選出。香川照之も毎日映画コンクール男優助演賞を受賞しています。

香川照之の個性を満喫できる
快作&怪作たち!

では、ここからは個人的に愛してやまない香川照之出演作品をいくつかピックアップしていきましょう。

●静かなるドン(91~01)

静かなるドン DVD-BOX

新田たつおの人気漫画を原作とするオリジナル・ビデオ・シリーズで、香川照之の出世作となった記念碑的作品です。
昼間は下着メーカーの冴えないデザイナー、しかしその実態はヤクザ新鮮組の3代目組長でもある近藤静也の、カタギとヤクザの狭間に揺れる人生の機微がコミカルかつシリアスに描かれていきます。
なお2000年には劇場版も製作されていますが、同年の香川照之は『スリ』『独立少年合唱団』でキネマ旬報などの助演男優賞をここで多数受賞し、俳優として大きく飛躍を遂げました。

●鬼が来た!(2002年)

鬼が来た! [DVD]

2002年の香川照之は『竜二Forever』『KT』『OUT』『刑務所の中』などさらなる活躍でキネマ旬報助演男優賞を受賞していますが、同時にこの年は彼が初めて出演した中国映画『鬼が来た!』が日本公開された年でもありました。

日中戦争末期の中国河北省の万里の長城に近い大河に面した村を舞台に、麻袋の中に囚われた日本軍人が突然現れたことから巻き起こる確執と悲劇をモノクロ映像の寓話的ブラックコメディ・タッチで描いた姜文(チアン・ウェン)監督・主演の問題作。
日本側を単なる極悪非道の悪役として描いてないところが逆に日本人の心にグサグサ突き刺さるものがあり、日本でも毎日映画コンクール外国映画賞を受賞しています。
2000年度のカンヌ国際映画祭では審査員特別グランプリを受賞したこの作品の中で、香川照之は中国人から“鬼子”とも称される日本軍人の花屋を威圧感たっぷりに熱演。なお本作の撮影エピソードを香川本人が記した書籍『中国魅録「鬼が来た!」』(キネマ旬報社)も発刊されました。

●ゆれる(06)

ゆれる

2006年度の日本映画を代表する西川美和監督の出世作。東京から帰省してきた弟(オダギリジョー)と地元でガソリンスタンドを経営する兄(香川照之)、そこで働いている弟のかつての恋人(真木よう子)の3人が渓谷を訪れたところ、恋人が吊り橋から落下。やがて兄は自分が突き落としたと告白し、弟は兄の無実を晴らそうと証言台に立ちますが……。
温厚な兄と自由奔放な弟との確執が現代版『羅生門』のように二転三転するスリリングなドラマの中から醸し出されていく上質のミステリ。キネマ旬報ベストテン第2位をはじめ作品的評価も高く香川照之もその年の映画賞の多くを受賞する栄誉に至っています。

●劔岳 点の記(09)

劔岳 点の記 メモリアル・エディション [DVD]

『八甲田山』(77)など日本を代表する映画キャメラマン木村大作の第1回監督作品で、『八甲田山』と同じ新田次郎原作の同名小説を原作に、明治時代末期に行われた飛騨山脈立山連峰の山岳測量プロジェクトを描いたもの。
ここで真に描かれるのは測量に挑む男たちが直面する大自然の猛威そのもので、出演する俳優たちも演技どころかあたかもドキュメンタリーのように画の中でもがき苦しむさまが圧巻。「これは撮影ではなく“行”である」と関係者に言わしめたほどの過酷な撮影が敢行されています。
地元の案内人に扮した香川照之も、それまではどちらかといえば熱演型で知られていましたが、ここでは一転して演者として成す術もないほどの自然の猛威と対峙することで、新鮮な魅力を発揮するとともに日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。作品自体もキネマ旬報ベスト・テン第3位にランクインされる好評ぶりでした。

●あしたのジョー(11)

あしたのジョー プレミアム・エディション(2枚組) [DVD]

本来なら、このあたりで香川照之が多数の賞を受賞した『鍵泥棒のメソッド』(12)をあげておくべきでしょうが、個人的にちょっと気になるころがありまして……それは彼は漫画やアニメ原作の映画に割と積極的であるということで、そもそも『静かなるドン』を出世作とする彼ならではの姿勢ともいえるでしょうけど、たとえば『鉄人28号』(05)の悪役博士にしても『20世紀少年』3部作(08~09)のヨシツネにしても『カイジ』2部作(09・11)の利根川にしても『映画ひみつのアッコちゃん』(12)の鏡の精(!)にしても、どこかしら童心を全開させて演じている節が感じられてなりません。
そんな彼の路線の中で実写版『あしたのジョー』における主人公・矢吹ジョーの相棒で名トレーナー丹下段平役は原作漫画から飛び出てきたかのようなメイクを施しての怪演で、同時に大のボクシング好きでもある彼としては念願叶ったりの想いが炸裂する好演でもありました。
本作で彼は日本映画批評家大賞助演男優賞を受賞しています。選考する側も、何ともイキな判断でした。

以上、香川照之の代表作をとりあえず5本挙げてみましたが、個人的にはカマキリ先生のラインを活かした彼の映画を見てみたいなとも願っています。昆虫博士に扮しての冒険ものとか大いにありかと思いますが、いかがなものでしょう?

(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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